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Lovely Family


広告の仕事にたずさわって、はや10年。
2010年に地元・兵庫の広告代理店へ新卒入社し、2019年に転職。いまは東京に本社をおく制作会社の大阪オフィスで働いています。

10年も働いていれば思い出深い仕事がたくさんあります。今回はその中でもとくに印象に残っている話を書きたいと思います。

さて、まずは前置きから。
note1本目の投稿では、僕のアカウント名の由来になっている我が家のねこ、コーネとの出会いを書きました。コーネと暮らすようになったのは、社会人になる前のできごと。卒業をひかえ、就職活動をはじめる時期でした。

周囲の学生たちが建設会社や設計事務所にリクルートスーツを着ていく中、建築科の学生にもかかわらず在学中の早い段階で広告業界に就くことを志望していた僕には、広告会社で働くことになったあかつきには叶えたい、ひとつの野望がありました。

それは「コーネを広告に出す」です。

完全に私利私欲です。しかしながら、客観的に見てもかわいいコーネ

であれば、広告モデルとしても通用すると親バカは考えていました。
そのためにもまずは広告会社に無事入社し、それなりの経験をつんでそれなりの立場になり、適切なお客さんを見つけ適切な提案をする。そしてコーネを広告に出す。そんな野望を、22歳の男はひと知れず胸に抱いたのでした。

果たして就職活動はうまくいき、実家から車で5分の老舗広告代理店に営業マンとして一本釣り入社できました。それから5年後。僕はメディアコミュニケーション部という部署の部長になりました。

名ばかりの部長職でしたが、チラシや看板などの昔ながらの広告物以外は不毛な土地で、そういう仕事もこなしつつCM媒体のセールスとそのクリエイティブをがんばったことが評価されたのだと思います。

営業マンとして採用されたものの、コピーライターになりたくて志望した業界だったので、自分でとってきた仕事は自分がコピーライターを務め、コツコツと経験をつみました。そのうちデザインにも興味をもってiMacとAdobeソフトを購入してからは、クリエイティブの勉強が加速しました。東京の広告クリエイティブに対するあこがれを強め、いつか自分もあんな舞台で仕事がしたいと、目の前の仕事にまい進しました。

そんなこんなで部長3年目の春、2018年。とうとう野望を実現するチャンスがやってきました。新規営業をかけた県下最大の動物病院グループのCM出稿が決まったのです。


営業もクリエイティブもひとしきりこなすようになっていた当時、ひとりで仕事をまわすことも少なくありませんでした。自分でCMの契約を取ってきて、自分でCMをつくって納めるというパターンを得意としていました。待ち望んだチャンス。今回もその流れでいきます。いつも以上に気合が入ります。

すべての例が当てはまるわけではないことを承知で言いますと、田舎でCMをつくる場合、オリエンテーションの内容は「よくわからんから良いものつくって」に尽きます。

そもそもこちらからプッシュして媒体を売っているわけで、とつぜん提案された先方にその道の戦略がないことは別におかしなことでもありません。ましてやCMを打ったことがない企業であればなおのこと。だからこそ、広告の価値を最大限に発揮できるようアイデアをひねり出すことが求められます。

生まれも育ちも東京の方にはピンとこないかもしれませんが、少ない予算でつくる地方の中小企業のCMといえば、ド直球の業務案内を、事業所か自然風景の画にイージーリスニングなBGMを乗せてふんわりと伝える「ザ・イメージCM」を想起する方も多いはず。

ザ・イメージCMの是非はさておき、媒体で放映されただけでクライアントから一定の評価を得られる田舎のCM初制作・初出稿案件では、クリエイティブのハードルが低く、面白いと思って提案したアイデアの否定を恐れて、ともすれば陥りがちになるその手のベタなものを(先方から求められない限り)自分は提案しないぞと、制作のたびに企画に頭を悩ませました。

本件であれば、動物病院の診療案内や設備の紹介と、最後に獣医師の笑顔を出せばCMとして成立するわけです。考え方によっては悪くありません。わかりやすくて変に気取った内容よりも好感が持てるでしょう。ただ、これだとコーネの出番がありません。わしは、CMに出ているコーネを見たいんや。

不純きわまりない私情が見え隠れしていますけれど、お金をいただく以上、クライアントが納得して、視聴者に評価をしてもらえるCMをつくるのがプロの役目です。そこに一切のブレはありません。プロの意地とコーネのいじらしさを両立するCM案を考えました。そしてできたCMがこちらです。

CMタイトルは「うちの家族篇」です。

クライアントである動物病院の患者さんご家族やそのほかの協力者さんに、ご家庭のペットとの仲むつまじい様子を撮影してもらったホームビデオを募り、つなぎ合わせ、最後に「世界一だいすきな君といつまでも。」というキャッチフレーズを添えました。

撮影隊がぞろぞろと各ご家庭におじゃますると、ペットも飼い主さんもふだんのリラックスした表情を出せないと思い、ホームビデオ募集の形式にしました。結果、撮影隊ではとらえきれなかったであろう瞬間と映像質感のばらつきがいい味になったのではないかと思います。

かわいい動物だけでなく飼い主もいっしょに映ることで、視聴者によりシンパシーを感じてもらうことを意図しました。画面に登場する家族の姿から我が家のペットを思い出し、いつまでもいっしょに暮らせるよう健康でいてほしいという親ごころに訴えかける狙いです。そのとき頼りにしてほしいのが、クライアントである動物病院グループであると。

そして念願のコーネが出てきます。そうです。動画のサムネイルと記事の見出し画像にもなっているカットに映っているのがコーネであり、父であり、母であり、妹であります。うちの家族です。

8年越しの野望が叶った達成感は想像以上でした。おおげさな人であれば「死んでもいい」と形容したことでしょう。死ぬまではいきませんが、意識不明くらいにはなってもいいと思いました。

勘のいい方ならお気づきかもしれませんが、このホームビデオを撮ったのは僕です。本心を言えば、コーネの兄もこのCMに登場したかった。しかしそこはグッとこらえて裏方に徹しました。おかげで、すんでのところで客観性は保たれたはず。


この案件のミソはここからでして、CMソングに注目(耳)してもう一度観てもらえるでしょうか。

実はオリジナルソングを制作したのです。しかもフルコーラスの。この楽曲を使って、ロングバーションの動画もつくりました。

記事のタイトルにもなっている『Lovely Family』という曲を僕が作詞し、シンガーソングライターの岩崎愛さんに作曲と歌唱をお願いして完成しました。企画時から、多くのひとに募るホームビデオを15秒CMだけで使い切るのはむずかしいと考えていたし、なにより、コーネを思ってフルコーラスの歌詞を書きたかった。私利私欲、職権乱用です。

それでもコーネを思う気持ちは、すなわちペットと暮らす世界中の人びとの気持ちでもあり、その思いをストレートに表現すればいいものを書ける自信がありました。

それでは観て聴いていただきましょう。エルザ動物病院グループ『Lovely Family』。


Lovely Family
作詞:コーネすき夫・岩崎愛
作曲:岩崎愛

ママ ママ はやく おきて
おなかが へって たいへんだ
ママ ママ いつも ありがとう
ごちそうさまの グッモーニン

パパ パパ はやく いこう
おさんぽに ぼくを つれてって
ちょうちょと やくそく してるんだ
いつも いっしょ いってきます

ねころがって ながめる そらに
かぞくの かおが うかんでる
むずかしいことは わからないよ
ただ きみを おもうよ

Keep one smile  Keep one smile
Lovely lovely my family

Brother Brother 君の重さ
君の形が ちょうどいい
腕の中で まるまった
心地良いぬくもり いつまでも

優しい気持ち 教えてくれる
少しだけ ちがう いきもの
めいっぱいの 愛を胸に
ただ 君を思うよ

Keep one smile  Keep one smile
Lovely lovely my family

一歩一歩 君の待つ
我が家に 近づけば
いっぽいっぽ かぞくの おとが
ただいま おかえり 重なる瞬間
心は いちばん ハッピーなんだ

Keep one smile  Keep one smile
Lovely lovely my family

Keep one smile  Keep one smile
Lovely lovely my family


という曲を書きました。
作曲するにあたり岩崎さんに歌詞の調整をしていただきましたが、基本的には僕のコーネに対する溢れんばかりの愛を、世界中の飼い主さんに共感してもらえるような詩におきかえました。ひらがなで書いている1番は動物目線、漢字も混じっている2番は飼い主目線になっているんですよ。

サビは、クライアントのスローガンである「Keep one smile」(犬だけにonではなくoneなのです)をもってきました。言わずもがな、最後はLovelyとmyとFamilyのyで韻を踏んでいます。

こうしてできあがった曲に、集まったホームビデオを乗せて完成です。ちなみに映像の編集も僕です。本件では、営業、クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー、コピーライター、作詞、編集をこなしました。

ロングバージョンに関してはYoutubeにアップしただけで、とくにプロモーションをおこなっていないこともあり、大した再生回数を稼げていないのが残念ですが、ご覧になった方にはたいへん好評を得ることができました。

「コーネを広告に出したい」という野望を胸に飛び込んだ広告業界。コーネがスクリーンに映る姿をこの目に認めた時、心の底から湧き上がる達成感と、ふっとロウソクの灯が消えたような寂しさを感じて、複雑な気持ちになったのを覚えています。


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