値段が書かれていない店

2018年9月1日
伊勢での夕食に「値段が書かれていない店」に入った。おいしい魚介類とお酒を楽しんで、3人で7000円。大衆的で雰囲気の良い店だった。

値段が書かれていない店というと、高級店や時価の魚で握ってくれるお寿司屋さんあたりを想像するかもしれないが、大衆的な居酒屋でも値段が書かれていないことがある。伊勢市駅から近鉄山田線で1駅行った宮町にある「一月家」もメニューに値段が書かれていない店だ。

入ってみると、広々とした店内にカウンターとテーブル席、座敷席があり、席数は70席とそこそこ多い。大衆的な雰囲気だが清潔感があって居心地が良さそうだ。客層は様々で、地元住民らしき年配客もいれば、仕事帰りだろうか、上着を脱いだスーツ姿で座っている中年男性もいるし、観光で来ている様子の若い女性2人連れもいた。それぞれに料理と酒と会話を楽しんでいるが、席の間隔が適度に広いので、互いにうるさく感じることもなく快適に過ごすことができる。

壁にメニュー名だけが書かれた札が下げられていて、それを見ながら注文を決め、卓上に置かれたメモ帳に書き込んで店員さんに渡す。この日はまずお刺身の盛り合わせ、ふくだめ、それから湯豆腐を注文した。

聞くところによると、値段が書かれていない理由は「人数や要望に応じて量を調整するため」だそうだ。確かに3人で刺身の盛り合わせを注文したら各種3切れずつが盛られて出てきた。どの魚も、つやつやとして見るからにおいしそうだ。食べてみるともちろん美味。中途半端な高級店で食べるよりもおいしいのではなかろうか。特にカツオは、これはカツオなのだろうかというくらい柔らかく、マグロのトロのような脂の甘みがあった。

ふくだめは、とこぶしの別名で、ふっくらとした煮付けになって出てきた。肉が厚く、弾力とやわらかさがちょうど良い。貝のうま味はあるが生臭さのようなものはなく、噛むごとに味がしみ出すのをしんみりと味わった。

湯豆腐に使われている豆腐はしっかりと味が濃く、箸でつかめる程度の硬さはあるが、口に含むとふわふわと柔らかくほどける。薬味と鰹節をたっぷりのせて、一味を少し振って食べるとおいしい。結構量があるように見えたがぺろりと食べてしまった。

刺身やふくだめがおいしかったので、これは他の魚料理も期待できそうだと塩鯖とぶりの煮付け、それから名前を見てどんなものかと気になったので盆汁を追加で注文した。

盆汁は三重県の郷土料理で、野菜をたっぷり入れた具沢山の味噌汁である。つゆのよく染みたナスや濃い鼈甲色の大根、やわらかく煮えた南瓜、油揚げなどが入っていて、おかずになる汁物だ。

ぶりの照り焼きと塩鯖も、外はこんがり香ばしく、中は脂がのってじゅんわりふんわりとしている。思わず白いご飯が欲しくなる味だ。家で焼いてもなかなかこうはならないんだよなぁと悔しい気持ちで味わった。

皿やグラスを数えて勘定をするため、会計まで皿やグラスは下げない。お勘定をお願いすると、店主が古めかしい算盤を弾きながら計算するのだが、どういう計算をしているのかは謎である。しかし、おいしい魚介とお酒を楽しんで1人2300円程度だったので、そんなに安くていいのかと思いはするものの、不満は全くなかった。

とりたてて変わった料理が出るわけではないが、一品一品がきちんとおいしく安心して食べられる。ホッとする味、ホッとする雰囲気で、また行きたくなる店だった。

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掬屋一

食べることと読むことと旅することが好き。文豪ゆかりの食べ物を作ったり食べたりします。 C95 3日目 東P60bにて、文豪ゆかりのレシピを文献を元に再現する文豪ごはんシリーズを頒布予定。 https://musubiyahonpo.jimdofree.com/

旅と食とときどき文学

旅行と食べることが好きな筆者の旅日記。だいたい食べてます。
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