見出し画像

『ジョジョ・ラビット』(ネタバレあり)

ずっとずっとうまく書けなくて、創意工夫を凝らしているうちに状況が変わって映画館に行けなくなってしまった。2回目を観に行けなくても、私の心には強く響いて残っている。忘れてない。

これからも続いてほしい映画への思いをのせて。

***********************************************



映画『ジョジョ・ラビット』を観た。この映画は全然マークしてなくて、飲み屋で友人に勧められた勢いで見ただけなのだけど、終わった頃には鼻が真っ赤になるほど泣いていた。

この映画に出会わせてくれた彼女にとても感謝している。


舞台は第二次世界大戦も終わりかけのドイツ。ナチスに憧れる10歳の少年の成長を描く。

主人公ジョジョ・ベッツラーは、空想のヒトラーと大親友。ナチスとヒトラーに強く憧れるものの、優しく臆病な彼は命令通りにウサギを殺せず、ジョジョ・ラビットと馬鹿にされてしまう。

怪我をして活動に参加できなくなっても、ナチスへの強い想いを抱く少年は、帰宅後も立派にナチスのポスターを街に貼ったり熱心だ。いつも明るい母ロージーに愛され、ヒトラーと間抜けなやりとりをする毎日。しかし、そんな彼の家の壁裏にはユダヤ人の少女が匿われていた。

画像3



私は大学時代ドイツについて学んでいたし、戦争や国際協力といった言葉に強く興味を示していた。

だから今回も観なきゃいけないなという気持ちで見たのだけど、今まで観た第二次世界大戦を舞台にした映画の中で1番衝撃的だった。

冒頭で、ビートルズの『抱きしめたい』をBGMに、ヒトラーへナチス式敬礼をする人々。ヒトラーユーゲントのサマーキャンプに参加するジョジョの軽やかな足取りを見ていると、何故か私自身もナチスへの熱い思いが心の底から湧いてくるようだ。

画像3

10歳の少年が閉鎖された世界で、最高に格好良いナチスやヒトラーに強く憧れる姿はあまりに無邪気で苦しい。きっと少年だけじゃない、多くの若者や大人たちがこの熱狂の渦に自ら巻き込まれていったはずだ。強さの象徴である軍服の格好良さや美しさを恐ろしいと思ったのは初めてだ。

大抵の戦争映画というものはじめじめとしたトーンになりがちであるのに、本作では終始パステルカラーを基調とした美しい映像を用いており、ヒトラーと主人公ジョジョのやりとりは面白おかしい。

映画は原作と大きく異なるようで、空想のヒトラーもユーモアもないそうだが、そのユーモアがかえって残酷な世界を浮き彫りにさせるなんて知らなかった。


ある日、ナチスに夢中なジョジョは2階の壁裏にユダヤ人が住んでいることを見つける。最初は対立するものの、壁裏の少女エルサとの交流を通じて「ユダヤ人は臭くて汚い、頭に角が生えるらしい」と言っていたジョジョの中で、それまで信じていたことがガラガラと音を立てて崩れていく。

画像1


ジョジョが自分の世界の綻びに気づき始めたころ、母ロージーが処刑されてしまう。彼女はジョジョにも内緒で反戦活動をしていた。いつも明るく煌いていた彼女の赤い靴が、処刑台で力なく揺れて物悲しい。ジョジョは解けた靴紐を結ぼうとするも、いつも母に結んでもらってたので結び方が分からず、ただ脚を抱きしめるしかできなかった。

他にも語りたい素晴らしいシーンや工夫が数多ある。例えば、恋をしてお腹の中で蝶々が飛ぶところとか、スカーレット・ヨハンソン演じるロージーがジョジョと家でダンスを踊るところとか。「ダンスなんて」と言っていた少年が、最後の最後にはエルサと外で少しずつ踊りだして自分たちの自由を確信していた。ただでさえ情報量が多いのに、その一つ一つの表現には数多の工夫が凝らされここでは語れきれない。

この映画を観たことがない人は、まさかここまで読んでいないだろうけど、ぜひ映画館で見てほしい。そしてその感想と感動を私と共有してほしい。してください。


この映画は間違いなく、ユニークで素晴らしい。

だけどやっぱり私は「傑作だ」と両手を挙げて賞賛することができない。少しでも油断すると、私の背後でヒトラーがあの不敵な笑みを浮かべているような気がしてならないのだ。


じゃあどうすれば良い?


私たちはこの映画の世界だけを信じるのではなく、自分の体験や学びをかき集めて自分の頭で考え続けなければならない。歴史を学ぶとは単語やイベントを暗記することではなく、人の経験を知り自らの未来に繋げていくことだと思う。

いつでも、知ることを諦めてはいけない。



この記事が参加している募集

私のイチオシ

新たな文章と出会う旅の餞別となり、私の感情がまた文章となり生まれます。 いつもありがとう。