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12月27日 ピーターパンの日 【SS】帰省

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- ピーターパンの日

1904年(明治37年)のこの日、イギリスの劇作家ジェームス・バリーの童話劇『ピーターパン』がロンドンで初演された。

原作は『小さな白い鳥』というタイトルで、その後、何回か筆が加えられ、1904年に『ピーターパン』として上映された。『ピーターパン』は、大人にならない永遠の子どもたちがおとぎの国・ネバーランドで楽しい冒険を繰り広げる物語。その後、ニューヨークでも上演され大ヒット。1953年(昭和28年)に、ウォルト・ディズニーの映画にも登場した。


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【SS】帰省

 ネバーランドにはロストボーイがいる。そう、迷子になってネバーランドにたどり着いた子供達だ。実はその中に、ケンとコウと呼ばれている十歳と八歳の兄弟の子も混ざっていた。二人とも日本人の迷子の子供だった。ものすごい人見知りでできるだけ目立たないように生活していたのだが、明るい性格のピーターパンに助けられてから、徐々に心を開くようになっていった。子供は歳をとることがないネバーランドでの生活に慣れ、歳をとることのない日々の楽しさを満喫しながら五十年の日々が過ぎていった。そんな時、ケンはふと思い返していた。

『もう、五十年も経ってしまったんだなぁ。あの時、家族でヨーロッパ旅行に来て僕がコウの手を引っ張って隠れん坊みたいにして遊ばなかったら、お父さんとお母さんからはぐれなかったのかもしれないなぁ。コウには悪いことをしたなぁ。長い年月のせいで、自分の名前の漢字も忘れてしまったしなぁ。もう、お父さんは八十歳を超えたかな。お母さんは、ちょっとだけ若かった気がするな。二人とも元気でいるんだろうか。顔も思い出せないけれど久しぶりに会ってみたいな。あの時と変わっていない僕たちを見たら、きっとびっくりするんだろうな』

 そんなことを思い描いて、コウとも相談を始めた。流石に肉体は歳を取ってはいないけれど、五十年という月日でいろんな経験と知識を得た二人だった。残念ながら、漢字だけは学習できなかったが、二人での会話は日本語でしていたので、日常会話での日本語は忘れることはなかった。ケンはコウに相談を始めた。

「なぁ、コウ。ネバーランドでの生活も気がつけば五十年も経ってしまったよ。これまで、家のことを心配するというよりも自分たちが生きていくことで精一杯だったけど、ふと思い出したんだ。お父さんとお母さんのことを。どうだ、一度ネバーランドを出て、会いにいってみないか」

「えっ、今更そんなことしたら、びっくりするんじゃないのかな。きっと僕たちは死んだことになっていると思うし、お墓だってあるかもしれないよ」

「そうなんだけどさ。もう、お父さんもお母さんもおじいちゃんとおばあちゃんになってると思うんだ。だから、会いにいってみようよ」

「そうか。長過ぎたかもしれないけど。会ってみたい気はするな。よし、行こう」

 こうして、ケンとコウの二人だけの日本への旅行プロジェクトが立ち上がった。ピーターパンに連絡して、しばらくネバーランドから出かけたいと打ち明けた。ピーターパンは、ネバーランドを出た途端に、体は通常通り年を取ることになるから気をつけるようにとキツく言われた。けれども二人ともまだ、見た目は子供すぎるので、もう少し年を取ってもいいやと軽く考えている。そしていよいよ二人は、ネバーランドから人間界へと移動するために妖精の谷に元気よく向かった。

 妖精の谷では、事前にピーターパンから連絡が来ていたようで、妖精たちが準備をして待っていてくれた。ネバーランドは人間界とは別の世界なので、妖精の手助けがなければ、行ったり来たりできないのである。話を聞いた妖精たちは、少し不安な気持ちを抱えながらも、ケンとコウの希望を聞いてあげることにしたのである。

「妖精さん、やっとここまで辿り着くことができました。ケンとコウです。人間界へと連れて行ってください。お父さんとお母さんの元へ」

「ケン、コウ、よく来たわね。あなたたちの決意は聞いているわ。人間界はあなたたちがここに来てからすでに五十年もの時間が経過している。そのことだけはしっかりと意識して行動してね。あなたたちには、この鈴を一つ貸し出すことにする。これは、ネバーランドに戻りたくなった時に鳴らすのよ。この鈴がならない限りは私たちは迎えにいくことができないの。いいわね。あっ、それから鈴の有効期限は一年きっかりよ。一秒でも過ぎたらこの鈴は消えてしまうから気をつけて。さぁ、では早速出発しましょう」

 ケンは妖精から借りた鈴を大切に上着のポケットにしまって、手のひらでポケットをポンポンと叩いてしっかり確認した。そして、コウの方を向いて大きくうなづいて見せた。二人の心の準備ができたことを妖精は確認し、魔法の粉を二人の頭上から渦を巻くように振りかけた。すると、周りの景色がまるで宇宙にいるかのような星空に変わり、体も回転し始めた。二人はお互いの存在を確認するかのように、しっかりと繋いだ手に更にギュッと力を入れた。次第に青い空が見え始めたかと思ったら、水が流れる音が聞こえてきた。どうやら河原についたようだ。

「ねぇ、兄さん。ここはお母さんがいるところなのかな」

「どうなんだろう。妖精さん、ここは僕たちの家の近くなんですか?」

「そうよ。橋の向こうに道があるでしょう。あの道を真っ直ぐに行くと、左側に白い壁の家が見えるわ。そこがあなたたちの本当の家よ。あなたたちのファミリーネームはナカガワというのよ。じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。あっ、鈴のことは誰にも言ってはいけませんよ。あなた達だけの秘密ですからね」

 二人はテクテクと歩き出した。事情を知らない人が見ると仲のいい小学生の兄弟が歩いているとしか見えないだろう。二人はしばらく歩いて白い壁の家を見て駆け寄った。家の前には表札があるのだが、残念ながら漢字の知識がないので読むことができない。仕方ないのでインターフォンのボタンを押した。

「はーい。どちら様。鍵はかかってないからどうぞ入ってください」

 ガラガラと引き戸になっている玄関を開けて二人は中に入った。すると奥の方から、少し腰の曲がったおばあさんが出てきてくれた。そして、二人の顔を見るなり、悲鳴をあげた。

「キャー、あなた達は、まさか、ケンとコウなの。おとーさん、おとーーさーーん」

 奥の方から面倒くさそうにおじいさんが玄関にやってきた。

「なんだ、なんだ、玄関で騒々しい。えっ、お、お前達は」

 五十年ぶりの再会である。ケンとコウはすでに記憶からも消えていたお父さんとお母さんの顔だったが、全く変わっていないケンとコウを見た老夫婦は卒倒しそうなくらい驚いた。無理も無い。だが親子だと分かったあとは、ケンとコウの小さい頃の話を嬉しそうに、老夫婦は語り出した。付けた名前は、最初から二人の子供を想定して、長男が生まれた時に決めていたそうだ。「健康」という文字を一文字ずつ子供の名前にすると。

 老夫婦を助けるような生活がその日から始まった。自分たちの小さな頃の話を聞き、年老いた両親を残してネバーランドに戻るということは考えられなくなっていた。あっという間に一年が経ってしまった。ケンはコウとともに、魔法の鈴を取り出して窓辺においた。そして、鈴が一年経過して消えていくのをじっと見つめていた。人間界に残ったケンとコウは両親の最後を看取った後、見た目も大人になっていた二人は別々に世界を放浪する旅に出かけた。その後、誰も二人を見かけることはなかった。


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