見出し画像

12月28日 御用納め・仕事納め 【SS】締めくくり

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 御用納め・仕事納め

官公庁では「御用納め」とも呼ばれ、年末年始の休日を前にその年の最後の事務を執ることを意味する。また、多くの民間企業でもこの日が「仕事納め」となる。

古くは1873年(明治6年)から、官公庁は12月29日から1月3日までを休暇とすることが法律で定められており、12月28日が最後の業務日であり「仕事納め」となる。

現在では1988年(昭和63年)に施行された「行政機関の休日に関する法律」により定められている。また、裁判所については「裁判所の休日に関する法律」、地方公共団体については「条例」において定められている。


🌿過去投稿分の一覧はこちら👉 【今日は何の日SS】一覧目次

【SS】締めくくり

 十二月二十八日は御用納めである。古くから官公庁の年末年始休暇が法律で制定されており、十二月二十九日から一月三日の間を休暇と定義されている。もちろん、土日と重なった場合は、直前の金曜日が御用納めとなる。そのため、その年の最後の仕事をする日ということで御用納めとか仕事納めと呼ばれているのである。

 海に面したところで合流する大きな川が2本流れており、川の両側はもとより川と川の間は中洲となって栄えていた。それら街には川を境にして、川西組、中洲組、川東組という暴力団が拠点を構えており、縄張り争いを繰り返している。川の西側は広く住宅地域が広がっており、スーパーやショッピングモールなどが立ち並んでいる。逆の東側は線路が通っており、駅がある。当然駅前はデパートなどで賑わっている。ところが中洲は、そのほとんどがクラブやバー、居酒屋が占めていて住宅は多くない。したがって、暴力団のしのぎが最も多いのは必然的に中洲組となっている。川西組と川東組はそれが面白くなかった。チャンスがあれば中洲組のナワバリを侵食してやろうと思ってはいたのだが、なにしろ資金力が違い過ぎ、構成員の数も一桁違うほどだったため、迂闊に行動には移せないでいたのだ。

 中洲組のトップである中川組長は、ひとしきり考えた挙句、組内でアナウンスを決意した。そしてその前提は、川西組と川東組が納得すればという前提がついていた。

「中洲組の親愛なる構成員のみんな。ワシはここで一つのことを決意した。中洲組と川西組、川東組は敵対関係にあるのだが、国の間で起こっている戦争でも休戦協定というものがあるくらいだから、我々の間も年に何回かは休戦を宣言してもいいのでは無いかと思ったのだ。お上も御用納めをするのだから、我々も法を守って御用納めをしようではないか。お上と同じ期間の年末年始休暇を中洲組でも採用しようと思うのだ。ついては、川西組と川東組に出向いてその旨を説得して欲しい。誰か手を挙げるものはいないか?」

 突然の組長からの打診に組員は戸惑ったが、ここで実績を認められれば昇進できるかもしれないと思う若い組員はこぞって手を挙げた。それを見た組長は、続け様に話を続けた。

「おお、みんな勇気があるな。嬉しい限りじゃ。もし、説得に失敗した場合は、川底に沈んでもらうことになるが、それでもやるものはそのまま手を上げておけ」

 追加の条件を聞かされ、多くの構成員は挙げた手を下げてしまった。だが、二人だけ元気よく手を上げている。組長はにっこりと微笑み、その二人を使者として任命した。二人が川西組と川東組に向かったことを確認すると、組長は嬉しそうに宣言した。

「あの二人はきっと上手くやってくれるだろう。我々も御用納めの締めくくりの準備をしておくぞ。手筈通りにな」

 使者となった二人は、川西組と川東組に出向き、それぞれの組長に直接同じようなことを伝えていた。実はこの二人、それぞれの組のスパイだったのだ。

「組長、チャンス到来ですよ。中洲組はアホみたいに年末年始休暇を宣言しました。それを川西組と川東組にも宣言して同様に休暇をとることに同意させ、その間はいざこざを起こさない約束を取り付けることになりました。狙い目は、休みに入る初日、つまり十二月二十九日です。その日は朝から組員はバラバラで休暇突入するでしょうから、中洲組長周りが手薄になる夕方以降にこっそりとカチコミをかけましょう。千載一遇のチャンスです。中洲組を落とせば、この辺り一体は組長の支配下になりますぜ」

「おお、そうか。中洲組も慢心して隙ができたというわけか。手薄になった上に不意打ちのカチコミならー我々の勝利間違いなしだな。わっはっは」

 川西組も川東組も二十九日の夕方以降を狙い目として、二十八日の昼から組員は中洲の入り口に集結しておくように指示が出た。中洲組の組員が中洲を離れるのを確認するためだ。それぞれの組長は高みの見物の前祝いということで、二十八日の昼間から祝勝会を開き始めた。

 二十八日の昼下がり、突然中洲組の中川組長が動いた。

「みんな、船を出して対岸に行け。川西組カチコミチームと川東組カチコミチームは同時に襲撃開始だ」

 号令を受けた組員は、一斉に漁船に乗り込み対岸に渡った。驚いたのは使者となった二人だった。何事が起きたんだと思った矢先、二人ともいきなり拘束されコンクリート詰となり、あっという間に川底へと沈められてしまった。二人がそれぞれの組のスパイだということは中洲組の組長は知っていたのだ。そのため事前に最終的には誰も手を挙げるなと言って使者を募ったのだった。組長は一芝居打っていたのだ。

 両岸についた組員は一斉に川西組と川東組の組長に狙いを定めカチコミを実行した。奇襲作戦は見事に成功。両組長は抵抗するまもなく成敗されてしまった。この後、出頭する身代わりの組員も決定しているので、中洲組では祝勝会が開かれ、見事な締めくくりの日となったのである。

 翌日の朝、どういうことか集団で警察が中洲組に押し入ってきた。逮捕状を手にしている。

「中洲組組長、中川。殺人教唆、および集団威力行為先導の疑いで逮捕する」

 中洲組長はあっけに取られていた。自主する組員は決定していたのに、なぜ自分が逮捕されるのか理解できなかった。だが、これにより、川を挟んで対立していた三つの暴力団は、リーダーを失いあっという間に解散に追い込まれていった。住民たちの安堵の声が上がるとともに、組員たちはバラバラになってしまい一箇所に集まることはなかった。そして、警察からの発表があった。

「指定暴力団である川東組、川西組の組長が殺害されました。および構成員数名も殺害されています。それを指示したのが中洲組の中川組長であるという内部告発が警察に入りました。おかげさまで中洲組も摘発することができました。告発者の方に感謝します」

 この後「告発者に感謝」というフレーズが問題として取り沙汰されることになろうとは発表した警察署長は知る由もなかった。



🙇🏻‍♂️お知らせ
中編以上の小説執筆に注力するため、コメントへのリプライや皆様のnoteへの訪問活動を抑制しています。また、ショートショート以外の投稿も当面の間は抑制しています。申し訳ありません。


🌿 記念日SSの電子書籍&ペーパーバック (Amazon kindleへのリンク集)


🌿【照葉の小説】今日は何の日SS集  ← 記念日からの創作SSマガジン

↓↓↓ 文書で一覧になっている目次はこちらです ↓↓↓

一日前の記念日SS


いつも読んでいただきありがとうございます。
「てりは」のnoteへ初めての方は、こちらのホテルへもお越しください。
🌿サイトマップ-異次元ホテル照葉


#ショートショート #創作 #小説 #フィクション #今日は何の日ショートショート #ショートストーリー #今日は何の日 #掌編小説 #超短編小説 #毎日ショートショート

よろしければサポートをお願いします。皆さんに提供できるものは「経験」と「創造」のみですが、小説やエッセイにしてあなたにお届けしたいと思っています。