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12月24日 冬のごちそう「ゆめぴりか」の日 【SS】米騒動

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 冬のごちそう「ゆめぴりか」の日

北海道札幌市のホクレン農業協同組合連合会内に事務局を置く、北海道米販売拡大委員会が制定。

日付は年末年始の高級ブランド米の需要期に販促を強化し、「ゆめぴりか」の販売拡大につなげていきたいとの思いから12月の第4日曜日としたもの。

記念日を通して冬のごちそう「ゆめぴりか」をさらに多くの人に食べてもらうことが目的。記念日は2022年(令和4年)に一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】米騒動

「クリスマスイブだというのに、今年は変な天気だなぁ。先週まであったかいと思っていたのに、いきなり大雪でさぁ。これじゃあ、体調も崩れてしまうな。さぁ、米を貯蔵している倉庫に異常がないか見てくるか。いくぞ、武史」

「はーい。別に何も起こっていないと思いますよ。もうすぐ日が暮れるからササッと見て帰りましょうよ。こんな時はお家でケーキが一番ですから、ねぇ竜巳先輩」

 先輩と呼ばれた竜巳と後輩の武史は北海道の農家の息子達である。今では北海道の米は新潟のブランドを意識しているかのように日本全国に浸透してきている。「ななつぼし」や「ゆめぴりか」は日本中で販売されてはいるが、中々手に入らないというのが現状のようだ。

 温度も下がりダウンコート無しでは耐えられないくらいになっている中、二人は車を降り倉庫に向かった。いつもは静かなのに、騒々しい声や音が聞こえてくる。二人は顔を見合わせながら、不思議そうに倉庫の入り口の方に回った。倉庫の周りには人影は見えないが、倉庫の中でドンドンという何かを投げるような凄い物音が響いている。だが倉庫の入り口には鍵がかかっている。鍵が壊されていないことを確認した二人は、倉庫の横に回った。一箇所だけ窓があるのだ。恐る恐る覗いてみると、腕まくりをした着物姿の女性が十人ほど体から湯気を立てて米袋を投げているのが見えた。二人は、急いで入り口に回り鍵を開け、倉庫の大きな扉を開けた。

ガラガラガラ。車輪のついた大きな扉が開けられ、外の街灯の光が倉庫の中に差し込んできた。中にいた女性達は一様に驚いたように入り口の方に視線を向けている。

「あなた達、一体ここで何をしているんですか。ここは勝手に入ってはいけない場所ですよ」

「私たちは、家族にちゃんとお米を食べさせてやったいだけや。けど、あんた方がこうして米蔵の中に米をため込んで売ってくれんさかい米の値段がどんどん上がって、私たちでは買えんくなっしもたんや。やさかいこうして米問屋の蔵に押し入って強引に普通の値段で買うことにしたがや。私たちも好きでこんなことをしとるわけではありません。市場に出いとってくれさえしたら今までの値段で買えとったがに。悪いのはあんた達や。やさかい、邪魔せんでいいちゃ」※1

 倉庫の奥の方から怒鳴り声で返事が返ってきたが、どうやらこの辺りの人たちではないようだ。しかし、表の扉の鍵がかかったままだったのにどうやって入り込んだのかという疑問よりも、今時全員が着物姿というのが異様に感じられた。しかも襷掛けをして腕まくりをしている女性ばかりだった。

「えっ、ど、どういうこと、先輩、なんかこの人達変ですよ。言葉も分からないし」

「そうだな、なんか変だ。怖いな。いくら女性とはいえ、こんなにいたら怖いよ。近くの人たちでもなさそうだし、服装もおかしい。ん、倉庫の奥の方も、おかしいぞ。まるで違う部屋に繋がっているようだぞ」

 倉庫の奥の方にはまるで黒い雲が渦巻いているように見える。そして、その向こうには多くの女性達が、うごめいているようだ。やはり「米」を奪っているように見えるが、強奪ではなさそうだ。こちらの倉庫でも米を奥の穴の中に運ぼうとはしているが、床に置かれたザルのような物の中に、お金を入れているように見える。竜巳と武史はこのままだと米を奥の穴の中に持って行ってしまわれると思い、リーダーっぽい女性に恐る恐る再び声をかけた。

「何となく、あなた達の言い分はわかったような気がします。あなた達はどこから来たのですか」

「私たちは、東水橋町から来たちゃ。何でそんな当たり前のことを聞くがやけ。こんな隠し蔵まで作っといて、本当にあんた達のやり方ちゃ汚い」※2

「も、もしかして、富山県の東水橋町からなのですか」

「当たり前やちゃ。他に東水橋町なんていうところがこの辺りにあっけ。なーん変なことをいう人ですね」※3

「先輩、どうしたんですか」

「おい、武史。これは一大事だ。これは昔富山県で発生した米騒動だ。今から百年以上前の光景だよ。きっと、何かの拍子で時空の切れ目が出来たんじゃないか、季節も場所も違うここに繋がったんだよ。きっと、あれ、あのザルの中のお金見てみろよ。昔のお金だよ。うわー、倉庫の後ろのあの穴が閉じる前に、みんなを帰してあげないと大変なことになるぞ」

 竜巳は、きっとそんなに時間的な余裕はないと直感した。速やかにここにいる女性を奥の穴の中に追い返さなければならないと判断し、咄嗟に思いつき素早く行動に移した。途端に、倉庫の中でけたたましいサイレンに代わる電子音と、アナウンスが流れた。そして、竜巳はスマホのライトをつけて女性達に向かって照らし始めた。

『ピューイ、ピューイ、ピューイ、火事です。火事です。火事です』

 最近はビルやマンションに取り付けられている火災発生の警報器を作動させたのだった。大正時代の女性達は聞いたこともない音に恐怖を感じた。そして、スマホの光も怖がった。女性達は慌てて入ってきた方へと大声をあげながら一目散に駆け足で逃げて行った。竜巳の咄嗟に思いついた作戦は大成功だった。そして、一分も経たないうちに、黒い雲が渦巻いているような場所が小さくなり消えてしまった。後には、運び出そうとして置き去りにされた米が散らばっている。壁際には、女性達が、代金だといって入れた昔のお金がザルの中に残されていた。

 竜巳と武史は散らばった「ゆめぴりか」の米の袋を元通りに積み上げ、不足分を確認した。出荷用に小分けされた十キロの袋が二十袋程度不足してはいたが、竜巳は少し考えて武史に話をした。

「時空を超えて、少しでも彼女達の家族にお米が届くのなら、今回の件は黙って見過ごしてしまおう。どうせ報告しても誰も信じてくれないしな。もしかするとザルの中の昔のお金を売れば補填できるかもしれないし」


<補足>
方言部分の標準語を追記しておきます。(方言は、方言変換サイトを利用しました)

※1
「私たちは、家族にちゃんとお米を食べさせてあげたいだけです。でも、あなた方がこうして米蔵の中に米をため込んで売ってくれないから米の値段がどんどん上がって、私たちでは買えなくなってしまったんです。だからこうして米問屋の蔵に押し入って強引に普通の値段で買って買えることにしたんです。私たちも好きでこんなことをしているわけではありません。市場に出していてくれさえしたら今までの値段で買えていたのに。悪いのはあなた達です。だから、邪魔しないでください」

※2
「私たちは、東水橋町から来ましたよ。何でそんな当たり前のことを聞くのですか。こんな隠し蔵まで作っておいて、本当にあなた達のやり方は汚いです」

※3
「当たり前ですよ。他に東水橋町なんていうところがこの辺りにありますか。全く変なことをいう人ですね」

また、米騒動に関してはこちらをご参照ください。


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