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12月22日 酒風呂の日 【SS】会員制倶楽部

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】- 酒風呂の日

長野県信濃町で銘酒「松尾」の蔵元を営む株式会社高橋助作酒造店の高橋邦芳氏が制定。

日付は湯で治すと書く「湯治」(とうじ)の語呂が、暦の二十四節気の「冬至」(とうじ)や、日本酒製造の責任者である「杜氏」(とうじ)を連想させることから。

四季の節目である「春分」「夏至」「秋分」「冬至」に酒風呂に入り、健康増進をはかることが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。


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【SS】会員制倶楽部

「皆さん、我々の日本酒販売チームはこれまでの暖かい天候が続いてしまい、成績も伸び悩んでいましたが、いよいよ年末に向けて書き入れ時に入ります。また、寒波も押し寄せてくるようなので、熱燗用の日本酒もどんどん売り込みましょう。海外では日本酒ブームで高い評価を得ていますが、この我々が住んでいる日本では完全に焼酎に押されています。気合を入れて販売を伸ばし、みんなでいいお正月を迎えられるようにしましょう」

 とある商社の日本酒販売チームの担当部長が年末に向けてチーム全員に檄を飛ばしていた。最近は日本酒の販売が思わしくなく、チーム解散の噂まで社内で流れているくらいだ。そんな状況でも、日本酒が好きな社員で構成されたチームはそれほど危機感を感じているわけではなく「ダメなら他部門で頑張ればいいや」程度で仕事をしていた。売り上げが伸びる要素を、少なくとも社員は持ち合わせていない。

 チームの中で中堅となっている平太とつい最近配属となった亮介が愚痴をこぼしている

「亮介、お前はこのチームに来て間もないから知らないかもしれないが、このチームは社内での売り上げが一番悪いんだよ、スーパーや居酒屋周りをしても、焼酎は増やしてくれるけど日本酒はダメなんだよな。部長は自分の進退がかかっているから張り切ってるんだけど、メンバーはそれほど熱くなってないんだよな」

「そうなんですか。僕、日本酒が好きでこのチームへの配属を希望してきたんですけど。それが失敗だったのかなぁ。平太先輩どう思います?」

「いやいや、そんなに悲観することはないよ。日本酒は節目節目では必要なお酒だから、一定量の需要は常にあるんだよ。ただ、他のお酒より売り上げが低いだけさ。ところで、亮介。お前、酒風呂の日って知ってるか」

「えっ、酒風呂の日ですか。そんな素敵な日があるんですか」

「ああ、年に四回あるんだよ。春分、夏至、秋分、冬至の日がそうなんだよ。冬至は、酒造りの杜氏と温泉で傷や病気を治す湯治と読みが同じだろ。それにちなんだみたいだけどな」

「へぇ、全く知りませんでした」

「それでな。話はここからが本番なんだ。そろそろ亮介も仲間に誘ってみるかと言うことになったから、極秘の話を伝えようと思う。絶対に他言無用だぞ」

「えっ、何やら嫌な予感がしますね。わかりました。秘密は絶対に守ります」

 何やら秘密の話という言葉に亮介は興味津々になっていた。日本酒にまつわる話なのか、全く関係ない話なのか、仲間に誘うという響きに何か悪いことへの誘いのような感じも受け、内心ドキドキしながら話を聞いていた。

「OK。実は、我々は会員制の倶楽部を運営しているんだよ。有志だけの秘密倶楽部で、世の中には公表していない。この日本酒販売チームの社員と家族親戚が中心なんだが、特別に信頼できる友達なども受け入れたりしているんだ。日本の伝統を残す活動にもつながっているが、利益は追求しない。だから、運営するためのコストを会員数で割戻した額が会費ということになる。今は会員数が百人で会費は月一万円だ」

「会員制の倶楽部。怪しい話みたいですけど、月一万円か〜。微妙に痛い額ですね。っていうか、その倶楽部って一体何なんですか。伝統を残すということは、風俗ではないですよね」

「ああ、風俗ではないが、裸にはなるよ。全員が裸だ」

「えっ、全員が裸。悪いんですけど僕はそんな趣味ないんですけど」

「ワハハ。勘違いするなよ。お風呂だよ。一般には公開していないお風呂なんだ。経営が成り立たなくなった銭湯を我々が契約して、若干改築してそのまま継続して働いてもらっているんだ。だから、一般的には営業終了してなくなってしまった銭湯の一つということになる。のれんは出ていないし、入り口は作り替えて銭湯じゃないようにしてあるんだ。ところで亮介、お前このチームになぜ入れたか理由を知っているか」

「えっ、それは僕が希望したからじゃないんですか?」

「うん、それもあるんだけどな。実は、このチームは全員が同じ駅の近くに住んでいる住民なんだよ。つまりみんなご近所さんというわけだ。だから、銭湯もその駅から徒歩圏内にあるんだ。そうじゃなきゃ、会員になっても利用できなくて意味がないだろ。だから同じ地域に住んでいる人たちを集めたってことなんだよ」

「えー、あっ、そういえば何年か前に営業終了した銭湯がありました。今は、どこかの会社のサテライトオフィスになっていると聞いたような。もしかしてそこですか?」

「当たり、そうだよ、そこだよ。そしてもう一つ秘密があるんだ。酒風呂の日の話をしただろう。実はな、年四回の酒風呂の日には、小さな浴槽が全部日本酒のお風呂になるんだよ。風呂上がりに日本酒も飲み放題。通常は別料金なんだけど、酒風呂の日だけは大盤振る舞いってわけなんだ。どうだ、魅力的だろう」

「なるほど〜。何だかすごい話ですね。うーん。もしかして異動の際に特別手当が月八千円支給されるって聞いたんですけど、もしかしたら倶楽部会費に充当するためなんですか?」

「当たり。実はな、もう一つ秘密があるんだよ」

「えっ、まだあるんですか」

「酒蔵とも提携していて、年四回の酒風呂と飲み放題用の日本酒を出してもらっているんだよ。その代わり、我々が日本酒を売り込む時にその酒蔵の日本酒は優先するようにしてるんだけどな」

「なるほど。持ちつ持たれつの関係ですか。微妙に危ない橋ですね。まぁ、そうでもしないと日本酒も売れないんですかね〜」

「厳しい時代を何とか生き抜くための知恵なんだよ」

 会員制倶楽部の銭湯の料金の一部が亮介の会社にキックバックされていることは聞かされなかった。会社は給与の一部として手当を支払い、その手当は倶楽部会費となって銭湯の運営会社に流れるが、その一部はまた会社に戻ってくるという循環取引を形成していたのだった。文化保存や日本酒の拡販の心は素晴らしかったが、実現方法は法律違反となるものだった。亮介も知らず知らずにその仲間に引きずり込まれて行ったようだ。おそらく亮介が全てに気がつくのは、亮介が新しい社員を倶楽部へ勧誘する時なのだろう。


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