【#65】あのボーカルが50歳ってマジですか
1998年(平成10年)5月20日【水】
半蔵 小学校6年生 12歳
「あ、|今日の図工で牛乳パックがいる《※》んだった」
「なんでもっと早く言わないの!!」
朝食のたまごかけごはんを食べながら、ふと思い出したのだ。
今日は、先生たちの研修会で早帰りなのだ。
給食を食べ終えれば帰れるため、僕は昨日から浮かれていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「家庭科の時間にエプロンを作ります。欲しいデザインの番号を書いて、提出してください」
僕は前の席の子から、注文書を受け取る。
見た瞬間、僕は思わず立ち上がった。
「これはッ!!」
ドラゴンのものが、ぶっちぎりでかっこいい。
見ているだけで、血が沸騰するほど身体が熱くなる。
「先生、友達と同じものになってもいいんですか!?」
「もちろん。人生は、思い通りに行くことの方が少ない。だけど、このエプロンは好きなものを選べます」
(こんなもん、男子は全員ドラゴンを選んでしまうじゃないか)
「じっくり見たいのはわかるけど、1時間目の図工始めるよー」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
給食を食べ、掃除が終わる。
掃除と帰りの会の間の謎の5分間のうちに、僕は荷物をランドセルに詰め込んでいた。
「服部くんもコレ書いてくれない?」
5,6人の女子がやってきて、僕に一枚の紙を渡した。
「うわ!ポケビのやつじゃん!!」
「アタシたち、ポケビにがんばってほしいのよ」
「千秋ちゃん、かわいいいし」
「歌もうまいし」
無論、ポケビが出てくる『ウリナリ』は、僕も大好きだ。
ドーバー海峡横断部が泳ぐときは、立ち上がって応援するほどである。
しかし――
「ごめん、僕『ブラビ』派だから・・・・・・」
「ちょっ、本気で言ってんの?」
だって、ナンチャンの方がかっこいい。
足や腰を痛めても社交ダンス部として活躍するナンチャンが、好きなのだ。
「信じられない!!」
「サイテー!」
「あんた目つき悪いの一生治らないよ!!」
そのとき、署名用紙がヒョイと持ち上げられた。
「私が代わりに署名するわよ」
美緒がさらさらっと名前を書き、女子に返す。
「ありがとう、美緒ちゃん!」
女子のグループは、満足そうに次のターゲットのところへ向かった。
「ありがとう」
「いいのよ。それより今日いっしょにゲームを買いに行かない?」
むぅ。
今日はロックマンX4をプレイするつもりでいた。
「なんていうゲームを買いに行くんだ?」
「実は、こっそり紙を持ってきたのよ」
美緒は、ポケットから四つ折りにした紙を取り出す。
「前は学校のルールを破ると怒ってきたくせに・・・・・・」
「半蔵の言葉を借りれば、『誰にも迷惑かけてないからOK』なの」
まぁいい、ゲームの話なら大歓迎だ。
僕は受け取った紙を広げた。
「え!?なにこれ!?」
シューティングゲームらしいが、僕の知っているこれまでのシューティングゲームとは違った。
画面上を覆い尽くす弾から殺気を感じるほどだ。
「『ドドンパチ』っていうゲーム。漢字で書くと、こうよ」
美緒は、メモ帳に『怒首領蜂』と書いた。
ずいぶんと迫力のある名前だ。
「二人プレイもできるのよ。私が買うから、一緒にやろう」
「おもしろそうじゃん、行こうぜ」
「本当!?じゃあ、帰ったらすぐにウチに来てね!」
このあと、僕は思い出すことになる。
人生は、思い通りに行くことの方が少ない。
という先生の言葉を・・・・・・。
(つづく)
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