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【#65】あのボーカルが50歳ってマジですか

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

←前の話  第1話  目次

1998年(平成10年)5月20日【水】
 半蔵はんぞう 小学校6年生 12歳



「あ、|今日の図工で牛乳パックがいる《※》んだった」

「なんでもっと早く言わないの!!」


【※】
 当日の朝、「~~が必要」と申し出るのが男子という生き物。
 お母さんの「なんでもっと早く言わないの!!」には、怒りと悲痛が込められている。

 

朝食のたまごかけごはんを食べながら、ふと思い出したのだ。

今日は、先生たちの研修会で早帰りなのだ。

 

【※】
 小・中学校の教師が、市内で交流する研修会。
 年に2回ほどあり、2回目には研究授業(いわゆる『お客さん』が見に来る授業)が実施されることが多い。

 

給食を食べ終えれば帰れるため、僕は昨日から浮かれていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

家庭科の時間にエプロンを作ります。欲しいデザインの番号を書いて、提出してください」

 

僕は前の席の子から、注文書を受け取る。

見た瞬間、僕は思わず立ち上がった。

 

「これはッ!!」



 

ドラゴンのものが、ぶっちぎりでかっこいい。

見ているだけで、血が沸騰するほど身体が熱くなる。

 

「先生、友達と同じものになってもいいんですか!?」

「もちろん。人生は、思い通りに行くことの方が少ない。だけど、このエプロンは好きなものを選べます」


【※】
 学校の先生がよく言うセリフ。
 席替えや係決めなどで、希望どおりにならなかった児童に対して使われる。

 

(こんなもん、男子は全員ドラゴンを選んでしまうじゃないか)

 

「じっくり見たいのはわかるけど、1時間目の図工始めるよー」

 


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

給食を食べ、掃除が終わる。

掃除と帰りの会の間の謎の5分間のうちに、僕は荷物をランドセルに詰め込んでいた。

 

【※】
 先生が職員室に行って配布プリントを持ち出したり連絡事項を確認したりする時間である。

 

 「服部くんもコレ書いてくれない?」


 

5,6人の女子がやってきて、僕に一枚の紙を渡した。

 

「うわ!ポケビのやつじゃん!!」

 

【※】
 『ポケットビスケッツ』の署名運動のこと。

 1998年4月に、新曲の発売をかけて100万人の署名を集める企画が行われた。全国の小中学校を中心に署名活動を行ない、約180万筆の署名が集まった。
 結果発表は6月に行われたため、わずか2ヶ月ほどで、これだけの署名を集めたということになる。ちょっとした社会現象と言えよう。

 ちなみに、ポケビでの内村光良は、語尾が「ダニ」となまことが特徴だった。
 ボーカルの千秋が今50歳ってマジですか・・・・・・?(1971年10月生まれ)

 

「アタシたち、ポケビにがんばってほしいのよ」

「千秋ちゃん、かわいいいし」

「歌もうまいし」

 

無論、ポケビが出てくる『ウリナリ』は、僕も大好きだ。

ドーバー海峡横断部が泳ぐときは、立ち上がって応援するほどである。

しかし――





 

「ごめん、僕『ブラビ』派だから・・・・・・」




【※】
 『ポケットビスケッツ』のライバル『ブラックビスケッツ』のこと。
 2枚目のシングル『Timing』は、200万枚を超える大ヒットとなった。(ポケビで最も売れた曲『Power』より多い) 



「ちょっ、本気で言ってんの?」


だって、ナンチャンの方がかっこいい。

足や腰を痛めても社交ダンス部として活躍するナンチャンが、好きなのだ。

 

 

「信じられない!!」

「サイテー!」

「あんた目つき悪いの一生治らないよ!!」

 

 そのとき、署名用紙がヒョイと持ち上げられた。


 

「私が代わりに署名するわよ」


 

美緒がさらさらっと名前を書き、女子に返す。

 

「ありがとう、美緒ちゃん!」

 

女子のグループは、満足そうに次のターゲットのところへ向かった。

 

「ありがとう」

「いいのよ。それより今日いっしょにゲームを買いに行かない?」

 

むぅ。

今日はロックマンX4をプレイするつもりでいた。


【※】
 1997年8月に発売された、CAPCOMの人気アクションゲーム。
 仲間由紀恵が主題歌をうたっていたことを『黒歴史』と言ってはいけない。




 

「なんていうゲームを買いに行くんだ?」

「実は、こっそり紙を持ってきたのよ」

 

美緒は、ポケットから四つ折りにした紙を取り出す。

 

「前は学校のルールを破ると怒ってきたくせに・・・・・・」

「半蔵の言葉を借りれば、『誰にも迷惑かけてないからOK』なの」

 

 

 まぁいい、ゲームの話なら大歓迎だ。
 僕は受け取った紙を広げた。



「え!?なにこれ!?」

 

 


 

シューティングゲームらしいが、僕の知っているこれまでのシューティングゲームとは違った。

画面上を覆い尽くす弾から殺気を感じるほどだ。

 

「『ドドンパチ』っていうゲーム。漢字で書くと、こうよ」

 

美緒は、メモ帳に『怒首領蜂』と書いた。

ずいぶんと迫力のある名前だ。


【※】
 攻略雑誌『ゲーメスト』が「気合でよけてください」と攻略を投げ出すほどの高難易度シューティングゲーム。


 「二人プレイもできるのよ。私が買うから、一緒にやろう」

「おもしろそうじゃん、行こうぜ」

「本当!?じゃあ、帰ったらすぐにウチに来てね!」

 

このあと、僕は思い出すことになる。

人生は、思い通りに行くことの方が少ない。

という先生の言葉を・・・・・・。

(つづく)

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