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【#52】家族ではなく、友人と行く遊園地の特別感

平成。

それは「ポケットビスケッツ」がミリオンを達成するような時代。
この小説は、当時の事件・流行・ゲームを振り返りながら進む。

主人公・半蔵はんぞうは、7人の女性との出会いを通して成長する。
中学生になった半蔵が大地讃頌を歌うとき、何かが起こる!?

この記事は、連載小説『1986年生まれの僕が大地讃頌を歌うとき』の一編です。

←前の話  第1話  目次


1997年(平成9年)3月30日【日】
 半蔵はんぞう  10歳  小学校(4年生)


「全然こわくなかったぜ」


震える足をしずめようとするのだが、言うことを聞かない。

 

「いや、めっちゃビビってたじゃん・・・・・・」

 

今日はスポ少のみんなと日本モンキーパークに来ている。

動物園と遊園地がくっついている、一日では遊び尽くせない素敵な遊園地だ。

 


【※】
 愛知県犬山市にて動物園を併設している遊園地である。
 愛知県の小学校では遠足先の定番の1つとされるが、岐阜県民もよく行く。


「もう一回ジェットコースター乗ろうぜ!」

「いや、僕はやめておくよ」

「アタシも・・・・・・」

 

僕とアキラを残し、みんなは『イーグルコースター』の搭乗口に向かった。

せっかく遊園地に来たのだから、このまま待っているだけではもったいない。

 


「好きなもの、乗りにいかないか?付き合うから。今日はアキラが主役なんだからさ」

「じゃあ、ちょっと歩いて回ろうか」

 
 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「あそこにいるの、半蔵のお母さんじゃない?」

 

お母さんが、ゴーカートに乗ってコーナーを攻めている。

だいの大人が、ゴーカートで風を切っている・・・・・・。

 

「間違いない。お母さん、SMAPの森君が好きだったから……」

 「憧れてるわけね……」

【※】
 元SMAPのメンバー森 且行かつゆきのこと。1996年5月をもってオートレース選手へ転身する。
 ちなみに、2016年12月をもって解散したSMAPの慰労会に、木村拓哉を除くメンバー4人と共に、出席した。

  

真剣な表情でハンドルを操るお母さんを横目に、僕たちは園内を回る。

 

(この先にはアイツがいる・・・・・・)

 

このまま進めば、モンキーパークの主と遭遇することになる。

保育園のときは散々泣かされたが、今の僕なら勝てるかもしれない。




「久しぶりだな」


巨大ゴリラだ。

 


 


【※】
 8mの巨大なゴリラロボット『ジャンゴ』のこと。
 ときどき、叫ぶのでマジでビビる。多くの子供が号泣した。
 (2003年に撤去されました)

 

相変わらずの迫力だ。

対峙しているだけで、汗が出てきやがる。

 

「アキラ、ちょっと待っててくれ」

「何すんの?」

 

コイツの前を素通りするわけにはいかなかった。

恐怖に押しつぶされそうになりながらも、一歩ずつ近づいていく。


 



「何してんの?」

 

手が届く距離まで近づき、僕は腰を落とした。

身体をひねりながら飛び上がり、右腕を天空に突きあげる。

 

「昇龍拳ッ!」

「何したの?」

 

じゃあな、ゴリラ。

もうお前に泣かされることもあるまい・・・・・・。

僕は振り返ることをせず、その場を立ち去った


【※】
 男子とは、常に「戦いごっこ」に惹かれる者である。
 戦う相手は、ニンゲンに限らない。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「これに乗ろ!」

 

観覧車か。

搭乗口の説明には、「天気が良ければ岐阜城が見えます」と書いてある。

いつか城攻めを行なう日が来るかもしれないし、上から見ておくのはいいことだろう。

 

「よっしゃ乗ろうか」

 

待っている人は数人である。

これならすぐに乗れてちょうどいい。

 

 

「さぁ、どうぞ!」

 

係員のお姉さんが、笑顔で案内してくれる。

 

「よっ」

 

先に乗り込み、座る。

アキラが隣に座って来た。

 

(あれ?)

 

おかしいな。

観覧車は、向かい合って座った方がバランスが良さそうなのだが・・・・・・。

 


「ジェットコースターと違ってゆっくりだね」

「そうだな」

 

片方に二人も座って大丈夫なのだろうか?
座席はけっこう狭いので、窮屈なのだが・・・・・・。

 


「人がどんどん小さくなっていくよ」

「うんうん」


 



ははーん、わかったぞ。
アキラが隣に座った理由が。







アキラも、岐阜城が見たいのだ。

僕は適当に座っただけだが、頭がいいアキラは岐阜城がどっちにあるか知っているのだろう。

見やすい席に座っただけなのだ。

 

「半蔵・・・・・・今日はありがとう」

「何言ってる。同じスポ少の仲間じゃないか」

 

今日は、アキラのお別れ会である。

 

「ただ、あの手紙を読んだときは、びっくりしたぞ」

 

アキラに渡された手紙。

そこには、女子サッカーのクラブに入るため、引っ越すことが書かれていた。

 


「ごめんね。みんなで全国に行こうって言ったのはアタシなのに」

「何度も言ってるだろ。僕たちはアキラがサッカーに集中できるなら、満足だって」

 

学校の先生が言っていた。

これから、男女の差はどんどん大きくなっていく。

中学校なんて、体育は男女別にやるらしい。

 

だから、アキラは女子チームでサッカーに専念するべきなのだ。

そうすれば、男女の違いでどうこう悩む必要はない。

 

「その代わり、女子のチームで全国行くんだぞ。僕たちは僕たちで全国目指すから」

「うん!」


 

いつの間にか観覧車は頂上を過ぎていた。

 

「半蔵は、さみしくない?」

「さみしいに決まってるじゃん。でも、名古屋なんだろ?お母さんは、名古屋なら近いって言ってたぞ」

 


アキラは何も言わない。

・・・・・・沈黙が続く。

二人で黙って下を見る。

アリのように小さく見えた人の姿が、どんどん大きくなってくる。

 



「半蔵、もう一周乗ろ!」

「うん?いいよ!」

 

今日の主役はアキラだ。

アキラの好きなようにしたらいい。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

夕暮れ。

僕たちはモンキーパークの入り口付近に集まっていた。

アキラのお別れ会も、そろそろ終わりである。

 


「アキラ、受け取ってクレ」


 

ゴメスが代表してサッカーボールを渡す。

小さめのボールには、僕たちからのメッセージが書いてある。

 スポ少の仲間からの、お別れプレゼントだ。


「それと、コレを・・・・・・」

「俺は、これをあげる」

 

(え?)

 

みんな、リュックの中からユニフォームなどのサッカーグッズを取り出し、渡している。

 

みんなで渡すと決めたプレゼントは、サッカーボールだった。

しかし、それ以外にも個人的にプレゼントを用意していたらしい。

 


「ちょっとトイレ!!」

「こんな時に?アンタって子はねぇ!」

 

お母さんの説教を背中で受け止め、僕はお土産屋さんにダッシュした。

 

「くそ・・・・・・いっぱいあるな」

 

モンキーパークというだけあって、猿をテーマにしたお土産が多い。


「『たまおっち』って、なんだよ!」

 

【※】
 1996年に発売された『たまごっち』と『中村玉緒』のコラボ商品。
 あくまで『コラボ商品』であって、『偽物』ではない。

 


 

あきらめかけた、そのとき・・・・・・

僕は見つけてしまった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「お待たせ、お待たせ」

 

アキラは、みんなに囲まれていた。

その表情は、泣いているようにも、笑っているようにも、見える。

 

「ほい、これ」

 

僕はとっておきのプレゼントを渡した。

 


【※】
 男子児童の7割が所持していたと思われるアイテム。


「これは・・・・・・!」

「半蔵、それはさすがに・・・・・・!」

 

あまりに嬉しすぎて声も出ないのか、アキラはきょとんとしている。

 

「僕の分も買ったぞ」

 

 

「金色の『光の剣』は、アキラにあげる。黒色の『闇の剣』は僕が持ってるから」

 

「あははははっ!」

 

突然、アキラが声を出して笑いだす。

おもしろグッズではないはずなのだが・・・・・・・

 

「半蔵は最後まで半蔵だね。ありがとう、大切にするよ」

 

どうやら気に入ってくれたらしい。

 

「アタシ、女子のサッカー選手を目指すよ」

 


プロサッカー選手になるってことか?
アキラなら、なれる気がする。


(すげーなアキラ!)


僕は興奮した。
だ、自分が質問されるなんてこれっぽっちも考えていなかった。



 「半蔵の夢は、なに?」


(つづく)

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