見出し画像

夏の行き止まり

ちょいと「行き止まり」のお話なんぞ。

夏の盛りの昼日中の太陽の下で撮影の現場に居れるのは幸せです。
それはこの仕事始めてからもうずっと変わりません。
でも今年の現場はかなりイレギュラーでした。

山の上の研究所が舞台。
ある一人の老技術者を世界的組織の責任者に選ばれるようにと立候補させた「国の企て」を後押しするプロモ映像でした。

災害地案件というのが自分的にはあって、今回はまさにそれで。
プロモはもうずっと前に出来上がっていた。でもそれは酷い出来だった。
選挙は9月。何とか「もう少しマシ」な映像にならないのか。

お国は焦って怒って下々の作り手達に檄を飛ばして震え上がらせた。
そんな現場にレスキューとして呼ばれたのが我でした。

本人に取材し入念にロケハンし、一から作り直すプランを立てて迎えた本番前日の午後、メインカットのロケ場所と撮影方法が許可されないと連絡がきた。その上、おエラいさんから「最後のセリフを俺のアイデアに変えろ」とトンデモ文案も降りてきた。脱力するほど恥ずかしい言葉。早く英訳しないといけない。午前中で撮り終えろとも。絶対無理ですと抵抗して何とか16時までの撮影時間は確保した。でも明日、ドコでどうするんだ?

こうなると異様なテンションになる。
現場で即興的にコンテを切りカットを割りカメラワークを決める。走る。
ギリギリで思いついたアイデアがパズルのピースがハマるように次々キマる。それはやっぱり快感で、脳内麻薬が噴き出てくるのが自分で分かる。

ラストカットのセッティング中にモニターを眺めていて、フォーカスアウトした白い発光の中から主人公が歩み寄ってくるイメージが不意に浮かんだ。「フォーカス送らないで!」と叫ぶ我。撮影部の若い衆がギョッとする。代理店担当も「なに撮ろうとしてんの?」と疑う。でも押し切る。このショットが一番決まった。

この絵が撮れて16時3分前。あとワンカット「あの恥ずかしいセリフ」を撮るミッションが残ってる。やるのか…でも主人公の老技術者は「もういいよ」と遮ってくれた。

主役は去り、外景を撮って1日が終わった。グッタリ疲れた。
短距離走のペースで数時間走ったような疲労と虚脱感。

そこから丸二日間、燃え尽きて腑抜けのようになりました。30年前の自分ならここまでヘタらなかったろう。こんな火事場の馬鹿力みたいな仕事いつまで続けられるんだ。あと5年?いや3年?気力、体力、脳力の限界が近づいてる。

帰りの電車の中で担当が「焼肉食おう」となって品川港南口駅前のB級焼肉店に入りました。極端な疲労は肉を求める。分かりやすいんですけどね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?