Offical髭男dismじゃねえんだから

 職場の健康診断で肝臓の数値が引っかかった。今まで肝臓で引っかかったことなどなく、少し驚いた。酒は飲まないし(というか飲めない)、タバコも吸わない、食生活も乱れていない。平日は毎日一万歩以上は歩いている。自分で言うのも何だが、成人男性の独り暮らしの割にはそこそこ健康な生活ができているはずだ。毎日キムチ納豆も食べているし。
 いったい自分の体に何が起きているのだろうか。流石に少し心配だったので養護教諭に「これ大丈夫なんすかね」と聞いたら「フフフッお酒フフッ飲まないんですもんねフフッ肝炎とか?フフフフフッ」と笑いながら具体的な病名をぶっ込んできた。ヘラヘラしてくれちゃって。こっちは真剣(マジ)なんだぞ。残念ながら養護教諭は相談相手にならなそうなので、真剣に話を聞いてくれる人を頼った方がいいと判断し、病院に行くことにした。
 いい年した大人が言うことではないが、私は病院が嫌いだ。何かもう空気が嫌だ。当たり前だが、元気さが足りない。白すぎるくらい白い壁とか床とかも嫌いだ。病院の臭いも好きじゃない。何かもう「病院」って感じの臭いすぎる。LUSHの石鹸とか置いてみたらどうだ。少しは「病院臭」が散らばって良いんじゃないか。…いや俺LUSHの臭いも不得意だったわ。まあとにかく、私は病院が嫌いだ。そんな私が病院に行くのだからそこそこ手厚く誉めてほしい。
 病院で受付を済ませた私は暫く待合室で時間を潰した。病院素人の私はまず「病院の待合室ってスマホ使っていいんだっけ?」という難問に直面した。堂々と使う勇気が出なかった私は、授業中の高校生よろしく手元を鞄で隠しながらコソコソとスマホをいじることにした(待合室でスマホを使うのは基本的にはセーフです。各病院のルールに従いましょう)。
 バレないよう(誰に?)にスマホをいじっていると名前を呼ばれた。最初は問診。健康診断の結果を見せながら色々と話をした。酒は飲まないということ、自覚症状は何もないということ、薬の服用もないということ、あと出身。「いや出身地って関係あんの?」と思ったがちゃんと答えた。「なんとなく話題に出したのだとしてももっと前半だろ」とも思ったがちゃんと答えた。相手は医者でここは病院。完全に相手の領域(テリトリー)だ。こちらは大人しく相手の言う通りにしておいた方がいい。病院素人でもそれくらいはわかる。
 問診のあとはエコー検査をした。超音波で内臓の様子を見るという何が起こっているのかわからないスゴい検査だ。一般的には超音波と聞くと、「序盤に野生のズバットがしてくるうざったいワザ」くらいしか思い付かないだろうが、医療現場ではこういった使い方をしている。勉強になったね。
 エコー検査では「大きく息を吸って、止める」という行為を何度か繰り返す。私はこれが得意ではない。というのも「大きく息を吸う」の「大きく」がどれくらいの量を指しているのかがわからないからだ。私なりに頑張って大きく吸っているつもりなのだが、医者に「こいつの『大きく』全然大きくねえな」とか思われてたら嫌だなとか止めてる間に考えてしまう。医者にナメられてねえかなと思ってしまう。私も男なのでやはり多少は「ナメられたくない」という意地めいたものがある。
 肝臓は大丈夫だろうかという不安と、ナメられていないかという不安。二種類の不安を抱えながら仰向けのままエコー検査を受けていたとき、医者が小さく呟いた声に私の耳は反応した。
 「(肝臓が)綺麗だ…」
この瞬間、私の頭の中では「いや『肝(キモ)は綺麗だ』ってOffical髭男dismじゃねえんだから」というツッコミが誕生していた。非常に使い道の狭い、使い勝手の悪いツッコミだが、出来の悪い子ほど可愛いと言うのか手前味噌な話、割と気に入ったフレーズだった。しかし、医者にいきなりツッコミを入れるわけにもいかない。そんなことをしたら肝臓とは関係のない薬を処方されてしまうこと請け合いだ。私は泣く泣くこのツッコミを飲み込み、大人しく超音波を浴び続けた。
 結局エコー検査でも悪いところは見つからなかった。この日は採血と尿検査をして終了。この再検査の結果を待つこととなった。ああ、来週また病院に行くのか…。さっさと病院通いから「グッバイ」したいものだ。
(何であのMV台湾で撮影してんの?)

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