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リスナーの “心のサウンド・トラック盤“ に選ばれるためには


子供の頃、トランプでババ抜きをよくやりました。今でも友人たちで集まった時、たまにやるのですが、シンプルなルールですが、人数が多いほど盛り上がって、心理戦もあり、結構楽しめるのです。

先日、ババ抜きをやっていて、カードを引く時にふと気づいたことがありました。それはカードを引く行為というのは、好きな曲を探す行為と似ているのではないかということです。

アーティスト側は「お好きなものをどうぞ」と、カードを扇のように広げて曲を提供します。悲しみとか、喜びとか、怒りとか、様々な感情に対して対応できる曲を常に用意できるのが、トップ・アーティストです。

そこでリスナーは自分が今聴きたい曲に出会うことができれば、抱えていた感情は手持ちの札とセットとなり、カタルシスとなって消えていきます。

そんな音楽の楽しみ方が、従来のアーティストとリスナーの関係だったのだと思います。

では現在はどうでしょう。

今は何十種類もの異なるカードが混ざっている状態でババ抜きをするような感じです。膨大な数の曲の中から、最も自分の感情に合う曲に出会いたいのですが、情報量が多いため、そう簡単にたどり着けるわけではありません。

するとどうなるでしょうか。

リスナーは自分の気に入った曲だけを集めるようになります。そうして出来上がったものが “プレイリスト“ です。集められた曲は、毎日の生活において自分を主人公にした “心のサウンド・トラック盤“ と言えるでしょう。

“ サウンド・トラック盤“ は “ベスト盤“ のようなヒット曲のみが収録されているわけではありません。物語、ストーリーがあって、それをより印象付け、より感動を呼び起こすための作品集が  “サントラ盤“ です。

ライト・ユーザーにとっては、自分一人のための “サントラ盤“ だけで十分な時代です。そのため、同一アーティストのアルバム全曲が “心のサントラ盤“ になるのは難しい時代になったと言えます。

しかし、1曲だけなら可能性は広がります。アマチュアでもインディーズでも、その1曲を生み出すために一生懸命に活動をしていて、レーベル側も必死に知恵を絞っています。

しかし、“心のサントラ盤“ に収録されるためには、その曲にまつわるストーリーが共感を得なければ、決して選ばれることはありません。

音楽の場合はスポーツとは違うので、プロセスの “ストーリー作り“ がとても難しいのです。

リスナーにとってはプロセスは関係ありません。1年かかって完成しようが、15分で完成させようが、出来上がったものが全てなので、曲が評価されない限り、プロセスが感動を押し上げてくれるようなことはまずないのです。

最近、シンガー・ソングライターによるヒット曲はかなり少なくなっていますが、その分、ひと昔前の演歌のように、とても息の長いものになっています。

それはその曲がリリース後に、様々な物語を手繰り寄せながら、大きく成長していっているのが理由だと思います。

 “心のサントラ盤“ に収録されるには、リリース日が完成ではなく、そこからがスタートなのです。まずはそのことに気づくことが大事なのではないでしょうか。


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