見出し画像

ほったらかしというおもてなし。

この団体のお客さんには誰もスタッフがつかない。

むしろ、お酒セットを置いて放置だ。

それでも

「今日はほったらかしでごめんねぇ」と謝るママに対し

『すっごく楽しかったよ!ありがとうね、ママ。来週も来る!』

ニッコニコの笑顔で満足そうに帰るお客さん達。


今日は、私が20代の時に働いていた不思議なスナックのお話。



前にも一度、お店のママの話は書いたことがある。

ここがなんとも変わったお店で、当時5件ほどママが経営しているスナックの店舗があり、一部屋に対し大体一組(10名前後〜多くて20名以上)の団体さんが部屋を貸切にする。
そこに女の子(スタッフ)が配置され、接客をするというお店の体制だった。

もちろんママが接客する基本の部屋はあり、女の子と入れ替わり立ち替わりでママが各部屋に回って接客する、ということもあった。

ここが初めての水商売を経験するお店となったのだが、私のスナックのイメージが180度変わったお店でもあり、色んな接客や気遣いを学ぶ大事な経験をさせてもらったお店でもある。


まず、なんと言っても、息つく暇もなく忙しいのだ。
ここは大衆居酒屋か。とよく女の子同士で呆れ笑いしていた。

もちろんスナックとしての接客はあるが、多い時は各部屋一日2、3回転もするほどに繁盛していた。

普通、水商売であれば、仕事が終わる頃はお酒が入り、ほっぺたが赤らむ程度に酔っ払っているかもしれない。そして、気のいいお客さんと共にアフターなんて行っていたかもしれない。

ところが、そのお店が終わる頃は、体育会系のように気持ちいい汗をかき、「お疲れさまでしたー!!」と自宅へ直帰する私たち。


「女の子はお酒飲まなくていい!同伴なし!アフターなし!お客さんと連絡先交換しなくていい!むしろするな!!」

と、お客さんも、ママの承諾なしじゃあ女の子を口説き落とせない・・・と嘆くほどにママの教育は徹底していた。


こんなふうにママに守られていた私たちだが、忙しすぎて各団体さんに一人の女の子すらつけない日もザラにあった。

「ごめんね、今日は女の子つけられんかもしれん。」

『おお!そうかそうか!いいよ!ママ、自分たちでやるから〜」

と。了承の上、ほったらかしにさせてもらうことが(結構)あった。

もうこれじゃあただの広いカラオケ個室じゃないか、ほんとうに居酒屋の大部屋じゃないか。



だけども必ずいる。
カウンターに入っていき、嬉しそうな顔をしながらシェイカーでお酒を作るジェスチャー。そして「お客さん!今日は何にします?」「おぉー!今日はお前がマスターかぁ!笑」

と、Barのマスターやスナックのママごっこするのだ。

お酒は飲み放題。といってもそんなに高いお酒をたくさん置いているわけではないが、色んな意味でママとお客さんとの信頼関係の上で成り立つ、このもてなし。

もてなしというとちょっと違うかな、、放置サービスと言った方が正しいかもしれないな。笑


でもこれが、お客さんにもよるが、嬉しい人はクセになるみたいで。入店するなり、「ママー!今日も女の子いらんよー!」とか言われちゃったりする。笑

それはそれで私たちの存在意義・・・?!となるのだが、お客さまが楽しい時間を過ごしてくれるのであれば、それがどんな形であっても「おもてなし」だろうと思う。


お客さんの中には誰にも聞かれたくない話があったり、身内だけで盛り上がりたい飲み会、自ら接客体験してみたい。
そういう気持ちを、ママも分かっていて、あえて、その「おもてなし」を選んでいるんだろうなぁと長く勤めていく中で察するようになった。


サービスの概念で考えつかないようなことでも、お客さんの気持ちに寄り添うことで見えてくることがある。お客さんの望んでいることを見逃さないママだからこそ、お客さんに愛され、地域に愛され、女の子に愛され、何十年も何店舗もお店を構えることができるんだろうなと思う。


そして、お酒が嫌いで一滴も飲まずに年360日営業するママは、ほんとうにかっこいいし、これからもずっと、私の尊敬する人。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?