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魔法少女の系譜、その121~『ぐるぐるメダマン』と口承文芸~


 前回に続き、『ぐるぐるメダマン』を取り上げます。伝統的な口承文芸や、先行する似た作品と、比較してみます。

 『ぐるぐるメダマン』の物語の構造は、伝統的な口承文芸の「異類来訪譚」そのものです。「人間ではない異類が、異界から人間界にやってきて、一時的に滞在して、災いや福をもたらす。やがて、異類は、異界へ帰る」という物語です。
 メダマンと、仲間のおばけたちは、「おばけの国」という異界から、人間界へやってきました。高坂マミの家に居着いて、さまざまな騒動を引き起こします。やがて、「おばけのネックレス」を、すべて返してもらったメダマンは、仲間のおばけたちと一緒に、「おばけの国」へ帰ります。予想されるとおり、最終回が、「おばけの国」へ帰る話になります。

 「おばけ」(=妖怪)という、日本古来のものを登場させたためか、伝統的な口承文芸の筋を、そのまま使っていますね。
 とはいえ、『ぐるぐるメダマン』は、直接、口承文芸を参照したというよりも、先行する漫画やテレビ番組に、より多くの影響を受けています。

 「おばけの国」からおばけがやってきて、「普通の人間の家庭」に居着く話って、どこかで聞いたことがありませんか?
 そう、これは、『オバケのQ太郎』とそっくり同じですね。藤子不二雄コンビによる漫画です。
 『オバケのQ太郎』の漫画は、昭和三十九年(一九六四年)から、昭和四十一年(一九六六年)に連載されました。この漫画が大ヒットして、アニメ化されました。
 アニメは、昭和四十年(一九六五年)から、昭和四十二年(一九六七年)まで放映されました。アニメのほうも大ヒットして、『オバケのQ太郎』を略した『オバQ』という言葉が、日本国民ほぼ全員に通じるほどになりました。

 漫画の連載やアニメの放映が終わった後も、『オバQ』の人気は衰えませんでした。人気に押されて、再び、『オバQ』の漫画連載が始まりました。この連載は、昭和四十六年(一九七一年)から、昭和四十八年(一九七三年)まで続きました。
 これに基づき、アニメも、『新オバケのQ太郎』が作られて、放映されました。昭和四十六年(一九七一年)から、昭和四十七年(一九七二年)のことです。

 その後、昭和五十一年(一九七六年)にも、『オバQ』の読み切り漫画作品が、雑誌に載せられました。この年は、まさに、『ぐるぐるメダマン』の放映が始まった年ですね。
 翌年の昭和五十二年(一九七七年)には、創刊されたばかりの『コロコロコミック』に、『オバQ』が連載されます。過去のものの再録でしたが。それほど、人気がありました。
 つまり、『メダマン』が放映されている最中にも、事実上、『オバQ』は、現役の作品でした。それも、日本国民で知らない人がいないほどの、超有名作品です。

 『ぐるぐるメダマン』の視聴率が伸びなかった原因は、ここにあるのかも知れません。ここまで設定が似ていれば、誰でも、類似性に気づくでしょう。主役のおばけの仲間たちが、「おばけの国」からやってきて、人間界に居着くところまで、同じです。
 『オバQ』の二番煎じと思われてしまったのかも知れません。

 藤子不二雄コンビは、『オバQ』のような、「異世界から異類がやってきて、普通の人間の家庭に居着く」物語が、得意でした。『怪物くん』もそうですし、『ドラえもん』もそうですよね。
 『怪物くん』も、『ドラえもん』も、『ぐるぐるメダマン』より前に、漫画もアニメも、登場しています。『メダマン』放映時には、すでに、そういう物語は、「藤子不二雄の十八番」として、人々に定着していたでしょう。

 ただ、藤子不二雄コンビの作品では、異類に居着かれる家庭の「男の子」が、いつも、主人公でした。
 それを、『メダマン』では、「女の子」にしています。高坂マミですね。

 少年ではなく、少女を主役にして、「普通の少女の家庭に、異類がやってきて住みつく」物語は、『メダマン』より前の魔法少女作品に、例があります。『さるとびエッちゃん』ですね。
 『さるとびエッちゃん』の忍術少女、エッちゃんは、小学校の同級生の少女、ミコの家に、突然押しかけて、同居してしまいます。

 『メダマン』より前の魔法少女ものには、『さるとびエッちゃん』以外にも、「異類(魔法少女)が、普通の家庭にやってきて、同居する」物語が、いくつもあります。けれども、それらの家庭には、少女ではなく、少年がいることが多いです。『それ行け!カッチン』や、『超少女明日香』がそうですね。
 『魔女っ子メグちゃん』の場合は、入り込んだ家庭に、男の子と女の子とが、一人ずついますね。

 こうしてみると、『ぐるぐるメダマン』は、『オバQ』を実写(特撮)にして、主役を少女にして、少し「魔女っ子」テイストを入れた作品と言えそうです。

 ここまで書いてきましたが、じつは、『ぐるぐるメダマン』は、モデルになった作品が、はっきり特定されています。『がんばれ!!ロボコン』です。

 『がんばれ!!ロボコン』は、実写(特撮)の子供向けドラマでした。昭和四十九年(一九七四年)から、昭和五十二年(一九七七年)まで、放映されました。後半は、『ぐるぐるメダマン』と、放映期間がかぶっています。
 『がんばれ!!ロボコン』は、ロボコンという名のロボットが主役です。戦闘要素はなく、コメディです。
 ロボコンは、ロボット学校に通って、一人前のロボットになることを目指しています。その過程で、普通の人間の家庭に住み込んで、いろいろ勉強します。すごくがんばり屋で、毎回、とてもがんばるのですが、毎回失敗します。最後は、ロボットのガンツ先生から、0点をもらうのが、お約束の展開でした。

 ロボコンには、ロボット学校の同級生―もちろん、全員、ロボットです―が、おおぜいいます。番組が大人気になって、放映が長く続いたため、同級生は、三期生まで入れ替わりました。ただし、ロビンちゃんという少女ロボットだけは、メインヒロインなので、入れ替わりません。
 上記のとおり、『がんばれ!!ロボコン』は、大人気を博しました。このために、「『ロボコン』みたいな別の番組を」と狙って作られたのが、『ぐるぐるメダマン』です。ロボットの代わりに、おばけを出して、一般家庭に住まわせる話にしたわけです。

 メダマンのデザインが、おばけなのにロボットっぽいところや、おばけ仲間に一人だけヒロイン(アズキアライ)がいて、優美なしぐさで踊るところなどに、『ロボコン』の影響が見られます。
 『ロボコン』のヒロイン、ロビンちゃんは、バレリーナ型のロボットなのですね。なので、衣装もバレリーナふうで、よく踊る場面があります。
 『メダマン』のおばけの中で、アズキアライを紅一点の美少女にしたのは、明白に、『ロボコン』の影響です。日本古来の妖怪伝承とは、まったく違うところから来た改変でした。結果として、面白い改変になったと思います(^^)
 『メダマン』の他のおばけたちも、個性的な脚色がされていて、悪くありませんでした。

 『ぐるぐるメダマン』は、『ロボコン』の改造版を作ろうとしたら、『オバQ』や、『怪物くん』などの藤子不二雄コンビの作品に似てしまったのでしょう。それは、普遍的に面白いと感じられる口承文芸の型ですからね。
 主人公を少年ではなく、少女にしたのは、他の作品と差別化するためでしょう。『さるとびエッちゃん』などの前例があるとはいえ、「少女の家庭に異類が来る」話は、少なかったからと考えられます。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『ぐるぐるメダマン』を取り上げる予定です。



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