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魔法少女の系譜、その86~『なぞの転校生』~


 今回も、番外編の続きです。『NHK少年ドラマシリーズ』のうち、魔法少女が登場しないSF作品を、取り上げます。魔法少女が登場しなくても、のちの魔法少女作品に、影響を与えたと思われる作品です。

 『なぞの転校生』は、昭和五十年(一九七五年)に放映された、少年ドラマシリーズの一作です。眉村卓さんの原作小説があります。原作小説は、『中二コース』という雑誌に、昭和四十年(一九六五年)に連載されました。

 ここで、『中二コース』という雑誌について、説明しておきましょう。

 かつて、インターネットが発達する前には、さまざまな雑誌が栄えていました。中でも、ネットが生まれて、ひどく凋落したのが、「学年誌」と呼ばれる雑誌です。

 学年誌とは、『小学一年生』や『小学六年生』など、ピンポイントに、ある学年をターゲットにした雑誌です。
 昔は、今よりも、子供の数自体が多く、ネットもありませんから、雑誌で情報を得る人が、多くいました。こんなにピンポイントに読者層を絞っても、商売が成り立ったわけです。

 かつては、小学館が、『小学一年生』から『小学六年生』までの学年誌を出していました。中学に入ると、旺文社【おうぶんしゃ】の『中一時代』~『中三時代』と、学研の『中一コース』~『中三コース』とが、人気を二分していました。
 旺文社と学研との鍔迫【つばぜ】り合いは、高校に入っても、続いていました。旺文社には、『高一時代』、『高二時代』、『螢雪【けいせつ】時代』があり、学研には、『高一コース』、『高二コース』、『大学受験 高三コース』がありました。

 これらの学年誌には、ピンポイントに、その学年の人たち向けの情報が載っていました。勉強の情報ばかりでなく、娯楽の情報も、そうです。
 例えば、『中二コース』なら、リアルタイムで、中学二年生を読者層と見込んだ小説が、連載されました。『なぞの転校生』も、その一つです。

 『なぞの転校生』は、じつは、直接的に、『夕ばえ作戦』の影響を受けて、生まれた作品でした。
 前回の『魔法少女の系譜』シリーズで、『夕ばえ作戦』を取り上げましたね。『夕ばえ作戦』は、学研の『中○コース』シリーズのライバル、旺文社の『中一時代』に連載された小説でした。昭和三十九年(一九六四年)のことです。連載は、昭和四十年(一九六五年)まで続き、読者の学年が上がるのに連れて、『中二時代』に、連載が引き継がれました。

 『夕ばえ作戦』は、大人気の連載小説でした。それを見て、ライバルの『中○コース』のほうでも、SF小説を連載しようということになりました。
 昭和四十年(一九六五年)、『夕ばえ作戦』連載中の『中二時代』の向こうを張って、『中二コース』に、『なぞの転校生』の連載が始まりました。

 ライバル誌に連載された小説同士ですが、約十年を経て、同じ『NHK少年ドラマシリーズ』で、ドラマ化されることになりました。

 少年ドラマシリーズでドラマ化された作品としては、『まぼろしのペンフレンド』も、『なぞの転校生』と同じく、眉村卓さんの原作です。『なぞの転校生』が好評だったために、眉村さんが、新たに『中一コース』で、『まぼろしのペンフレンド』を連載することになりました。
 ドラマ化される順番は、『まぼろしのペンフレンド』のほうが、先になりました。

 そもそも、少年ドラマシリーズの最初の作品『タイム・トラベラー』からして、学年誌に縁があります。
 『タイム・トラベラー』の原作小説『時をかける少女』は、『中三コース』に連載されたものでした。昭和四十年(一九六五年)に連載が始まって、昭和四十一年(一九六六年)に、『高一コース』に連載が引き継がれて、終わりました。こちらの作者は、筒井康隆さんですね。

 こうして見ると、かつての学年誌は、若者向け作品の供給源として、大きな役割を果たしていたことが、わかります。ネットが発達する前の若者たちは、こうした学年誌に、娯楽や情報の多くを依存していました。学年誌から、若者の流行が発することも、多かったはずです。

 話を戻しましょう。『なぞの転校生』です。この作品は、まさに、題名どおりの内容です。
 舞台は、東京郊外の中学校です。原作小説では、舞台が大阪ですが、ドラマでは、東京に変えられています。
 主人公は、中学二年生の岩田広一という少年です。彼は、肉体的にも、精神的にも、まったく普通の人間です。
 ある日、広一のクラスに、山沢典夫という転校生がやってきます。彼は、成績優秀、スポーツ万能で、たちまちクラスの人気者になります。
 けれども、典夫の言動には、明らかに奇妙な点が、いくつもありました。例えば、彼は、ペン型の光線銃のようなものを持ち歩いていて、それは、エレベーターの扉を溶かすほどの力があるのです(*o*)
 他にも、典夫は、雨に濡れることを異常に恐れます。「雨には放射能が含まれるから」というのです。彼は、中学生にはあり得ないほど、高度な科学文明の話もします。

 結論を先に書けば、典夫は、地球とは別世界の人間でした。典夫たち自身は、故郷の世界を、D-3世界と呼びます。地球のことは、D-15世界と称します。
 D-3世界は、高度な科学文明を発達させましたが、核戦争が起こり、環境を破壊してしまいます。そこに住んでいた典夫たちは、故郷に住めなくなり、平和な世界を求めて、宇宙を放浪することになります。D-15世界(地球)は、放浪する彼らが、やっとたどり着いた平穏な地でした。

 広一の中学校には、典夫と同時期に、五人の転校生が来ていました。彼らもみな、成績優秀、スポーツ万能でした。彼らも、典夫と同じく、D-3世界の人間でした。
 広一の中学校ばかりでなく、東京都のあちこちに、D-3世界の人間が潜入していました。

 しかし、典夫たちD-3世界の人間は、D-15世界(地球)にも、核戦争の危機が迫っていることを嗅ぎつけます。そのため、地球を去って、また旅に出るといいます。典夫と友情を築いていた広一やクラスメイトたちは、別れを惜しみます。
 一か月もすると、広一たちは、普通の日常生活を取り戻していました。そこへ、傷だらけになった典夫が戻ってきます。典夫たちは、地球の次に見つけた世界で迫害されたため、命からがら、地球へ戻ってきたのでした。

 典夫たちは、もう、理想の世界を求めて宇宙を旅するのはやめ、地球に定住することにします。典夫の父親が大阪で就職することになり、典夫は、大阪へ転校してゆきます。
 D-3世界の人間たちは、日本各地に散らばって、平穏に暮らすのでした。

 『なぞの転校生』は、『暁はただ銀色』と似ていますよね? 男女の性別が違うだけで、転校生は、どちらも宇宙人です。環境汚染がからんでくるところも、同じです。一九七〇年代の社会問題を反映しています。
 『暁はただ銀色』は、悲しい結末でしたが、『なぞの転校生』の結末は、救いがあります。

 ドラマ化されたのは、『暁はただ銀色』のほうが、先です。けれども、原作小説は、『なぞの転校生』のほうが、先に出ました。『暁はただ銀色』の単行本は、昭和四十八年(一九七三年)に出版されました。『なぞの転校生』の連載が始まったのは、昭和四十年(一九六五年)です。

 『NHK少年ドラマシリーズ』で、『暁はただ銀色』、『なぞの転校生』が、相次いでドラマ化されたことで、一挙に、「謎の転校生」という設定が、普及したと思います。「すごい能力を持った転校生がやってきて、その人物は、普通の人間ではなかった。学園に騒動を巻き起こして、また、転校生は去ってゆく」設定ですね。
 この設定には、二〇一八年現在に至るも、とても人気があります。『NHK少年ドラマシリーズ』でも、もう一作、この設定が採用されたドラマがあります。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『NHK少年ドラマシリーズ』のSF作品を取り上げる予定です。



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