SFライトノベル

ルネの首 #17 生首と浮浪児と新しい家

市街地にやってきてから一か月ほど――。
 ナオたちは、ついに新居を得ることになった。
 といっても、アズの世話になっていることには変わりない。新居も元住んでいた廃墟ではなく、町はずれにあるもとは飲み屋だったらしい一軒家だ。
「カウンターがある!」
「ここでお店やろうぜ!」
「えー、やだよ、もっとおしゃれなのがいい~」
 エミル、イサ、キャロルがキャッキャとはしゃいでいるのを横目に、ナオはセツェンの

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ソウルフィルド・シャングリラ 終章(2)完結

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 ――引瀬由美子……母さんの友だちに謝られる夢を見た。
 仔細な内容も克明に思い出せる。それはただ一つの感情で彩られていた。
 悲哀。
 夫と娘を殺され、友人を殺され、そして僕を死なせてしまったことに対する、深くて大きなかなしみ。
 自分の名前も、思い出せた。
 母さんのことも、思い出せた。
 そして人から託された願いも――思い出せた。
 自分のものではない記憶とおし着せられた復讐心に衝き

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ソウルフィルド・シャングリラ 終章(1)

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終章 よろこびに満ちた楽園へ Soul Filled Shangri-La

西暦2194年11月15日
澄崎市北東ブロック第1都市再整備区域50番街E14号通り

「そう――ついに悠理ちゃんが」
 葛城哉絵は、天宮から逃亡してきた引瀬由美子を匿い、一通りの話を聞くと溜息をついた。
「ええ。眞由美と雄輝が時間を稼いでくれたからここまで逃げてくることができた」
「眞由美ちゃんは――助か

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ソウルフィルド・シャングリラ 第五章(4)

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「あなた、この間後を継いだ天宮の新当主ね? あたしに関わらないで。二度と姿を見せないで。
 ――天宮も、空宮も、この街〈澄崎〉も……全部消えてしまえ」

 初めて会った時の彼女は、取り付く島もないくらい周りに壁を作っていた。
 孤高――でも孤独がもたらす寒さに、震えていた。

「あなたもしつこい人だね。あたしはもう余命が決まっているの。取り入っても、天宮にとってなんの得も旨味もないよ」

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ソウルフィルド・シャングリラ 第五章(3)

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西暦2199年7月8日午前4時20分
澄崎市南西ブロック海面下居住区跡地・陥没孔

 気を失っていたのは一瞬。護留はすぐに起き上がる。
 周囲は瓦礫の山。上を見上げると、やや明るみ始めた空。増光素子が入った建材も尽く倒壊しているのに何故こうはっきり見えるのか。
 その答えは護留の目前に浮かんでいた。『Azrael』完全覚醒体――悠理が発する光のおかげだ。
 光は全周から集まってくる。青白い

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ソウルフィルド・シャングリラ 第五章(2)

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 更に銃声。
 護留の身体にも穴が開くが即座に治癒する。だが悠理の傷は塞がらない。
「ふん。やはり死なないか。お前たち、御役目ご苦労」
 時臥峰が虫を払うように手を振ると、四人の侍女はくたりとその場に力なく崩れ折れた。擬魂と有機アクセラレータを取り付けられた、〝動く屍〟だ。地上やこの地下にいるゾンビとの違いは身体が機能しているかしていないかだけ。昔、重犯罪に対する刑罰として用いられた手法だ

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ソウルフィルド・シャングリラ 第五章(1)

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第五章 天使は舞い、都市は堕ちる Azrael in Azure

西暦2199年7月8日午前4時00分
澄崎市南西ブロック海面下居住区内、第二階層〝護留のねぐら〟

 暗い円形の部屋。床は青白く微発光し、虫の羽ばたきのような低音が流れている。
 ああ、と悠理は気付く。これはいつもの悪夢だと。気付いた瞬間にはもう、十字型の拘束台に縛りつけられていた。
 正面には液体で満たされたガラス

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ソウルフィルド・シャングリラ 第四章(6)

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・――護留さん――場面を変えましょう――・
 流石に顔を蒼白にして悠理が言った。
・――分かった。……だが幻はまだ見るんだな?――・
・――はい。まだプロジェクト・アズライールも、護留さんの過去についてもなにも分かってないですから――・
 護留は頷くとさっきと同じように強く願う。
 真相を。自分達の過去を。
(阿頼耶識層への別個データへのアクセス要求を確認……承認)

 護留と悠理は身動き

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ソウルフィルド・シャングリラ 第四章(5)

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 それから二日後。
 発掘された調理器具が増え、買い足された食材や調味料が並べられたキッチンからはいい匂いが漂ってきていた。
「やりましたよ! 成功です!」
「……そう言うのはこれで二度目だけどな。今朝のも匂いだけは良かったのを思い出すんだ」
「今回こそ大丈夫ですから!」
「その言葉はこれで三度目だな」
 運ばれてきたのは、ビーフシチューだった。少なくとも見た目と香りは。
「いただきます

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ソウルフィルド・シャングリラ 第四章(4)

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 食品屋の店主は、顔が半分ない男だった。大規模な遺伝子改変も含む身体改造を行った後、ろくなメンテをしなかったため時間をかけて少しずつ崩壊していったらしい。見かけによらずに明るい性格の男で、結構な量の干物や缶詰を割引いて売ってくれた。
「前来た時は見なかったな、あの店主。意外と人の入れ替わりも頻繁なんだ、ここは。だから新顔の君もそんなに目立たたないと思う」
 悠理と護留の目や髪の色は、遺伝子

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