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モノ言う女性への中傷は、「議会制民主主義」そのものを否定している件

▼前号で、岡村隆史氏の暴言についてメモしたので、その暴言に対して「抗議する人に対する暴言」についてもメモしておく。

2020年5月19日付の朝日新聞から。適宜太字。

「黙れブス」物言う女性に攻撃激化 罵声だらけのSNS/伊藤恵里奈 2020年5月19日 12時00分)

「黙ってろブス」「バカすぎる」。検察庁法の改正やナインティナイン岡村隆史さんの発言をめぐり、意見を表明する女性へのバッシングが激しい。男性が上から目線で説教をする「マンスプレイニング」と言われる行為も散見された。ネット上の女性に対する中傷は世界共通の課題で、国際人権団体も問題視している。

 ツイッターで523万人のフォロワーがいる歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんが10日、「#(ハッシュタグ)検察庁法改正案に抗議します」と投稿すると、賛同の声の一方で、「勘違いババア」「AV出て」といった中傷が相次いだ。

 「歌手やってて、知らないかも知れないけど(中略)デタラメな噂(うわさ)に騙(だま)されないようにね」という書き込みもあり、きゃりーさんは「歌手やってて知らないかもしれないけどって相当失礼ですよ」と反論。翌11日、きゃりーさんは賛否が鋭く対立する状況からツイートを削除したが、「自分たちの未来を守りたい。自分たちで守るべきだと思い呟(つぶや)きました」と投稿の理由を説明した。〉

▼この「#(ハッシュタグ)検察庁法改正案に抗議します」を初めに使ったのは〈東京都内で暮らす会社員の笛美さん(35)〉。ハッシュタグが広まると、〈勤務先などに関する事実無根のうわさがネットで書き込まれるようになった。〉そうだ。

この記事は、ほかにも女性蔑視の動きが盛り上がった最近の例をまとめて紹介していた。

〈その頃、同じハッシュタグをつかって投稿した俳優の秋元才加さんや小泉今日子さんらにも「くそ女」などと反応があった。「勉強してから言え」「何も分かっていない」などと、上から目線で女性に解説や説教をする「マンスプレイニング」といわれる行為も散見された。笛美さんは「女性を蔑視し、馬鹿だとみなしている」と話す。「いつか顔を出して実名で発信したいが、反応を考えると夜も眠れない」

(中略)最近でも、職場におけるパンプスやヒール靴の強制撤廃を掲げた「#KuToo」運動の石川優実さんや、性暴力の被害を告発したジャーナリストの伊藤詩織さんら実名で発言する女性への中傷や脅迫が相次いだ。また、4月末にタレントの岡村隆史さんがラジオ番組で「コロナが明けたら絶対面白いことある。可愛い人が風俗嬢やります」と語った後、発言を批判した女性たちに「フェミをこじらせたブス」「男をたたきたいだけ」などと罵声が浴びせられた。

(中略)なぜ物言う女性たちがネット上で攻撃されがちなのか。大妻女子大学の田中東子教授(メディア文化論)は、いまだに「女性は従順であるべきだ」という思想が社会の底辺にあることが原因だと考える。「発言内容の是非以上に、意見を言う女性の姿勢自体が不遜に見えて気にくわない人がいる。そういう人は、例えば男性が『男女平等は重要だ』と主張してもいら立つことはないが、女性が同様の主張をすると受け入れられない」〉

女性に対するオンラインハラスメントの特徴(識者への取材などから)

・年齢や容姿、国籍、出自などへの中傷

・性的なからかいや、性暴力をちらつかせた脅迫

・性的な内容のメールや書き込みを何度もするストーカー行為

・「女性は無知」という思い込みで、上から目線で解説や説教をする

・勤務先や住所、家族といった個人情報を暴く〉

▼きゃりーぱみゅぱみゅ氏は、男に一切媚(こ)びるところがないのが素敵な理由だろう。

▼さて、女性への根拠のない誹謗中傷について、思ったことを4つメモしておく。

▼まず、これだけ「国家主権」が強まって、「行政」の力が強まっている時に、わざわざ「国民主権」の力を弱めようとする人が多いことに驚く。

ここ10年で、世界中でこれほど国民主権が制限され、国家主権がやりたい放題になった時代はない。ほぼ世界中で同時に起きた現象だから、かえって気づいている人は少ないかもしれない。

これからもこのテーマでメモするかもしれないので、繰り返しておくと、「国民主権」が制限され、「国家主権」が暴走する状態は、人間を不幸にするばかりである。

▼次に、なぜ女性蔑視の暴走が、国民主権を弱めることになるのか、についてだが、女性蔑視に群がる人々の言い分を、冷静に考えてみると、「その案件については、勉強してから言え。詳しく知らないくせに、口を出すな」というものだ。

一見、真っ当そうにみえる「論理」だから、厄介(やっかい)だ。しかし、こんなにデタラメな言い草も珍しい。

▼こういう言説をネットでまき散らす輩(やから)は、たとえば、衆議院や参議院や地方議会の選挙のとき、その時々の選挙で問われる案件について、ちゃんと「勉強」して、詳しく知ったうえで投票しているのだろうか。もしそうでなければ、彼らは、言っていることとやっていることが甚(はなは)だしく違う、矛盾だらけで信頼ゼロの大バカ野郎である。

もっと言えば、どれだけ「勉強」しても、上には上がいるし、下には下がいるものだ。「勉強」していても、「勉強」していなくても、彼らが吐いた暴言は、そっくりそのままブーメランのように彼ら自身に刺さる。

▼「詳しく知らなくても、口を出していい」のが民主主義なのである。どんなに無知でも、どんなに「トンデモ」な理由でも、その投票行動を非難されることはない。これが、民主主義がその社会に息づいているかどうかの証しの一つである。

女性に対して「勉強してから言え。黙れ」と言って悦(えつ)に入(い)っている連中が頼りにしている「論理」は、選挙制度を否定する論理なのである。

▼もしかしたら、彼らのなかには、自分たちが、議会制民主主義の根幹である選挙制度を否定していることに気づかず、のうのうと馬鹿面(ばかづら)下げて生きている人も多いかもしれない。

尤(もっと)も、気づいていても、気づいていなくても、彼らはそんなことを気にしない。とにかく「その場でオナニーできればいい」「スッキリすれば、あー気持ちよかった、あとはどうでもいい」のだから。

本音は「女は男に口答えするな」だ。

それ以外のすべての理屈は、己の恥ずかしい感情ポルノの本音を隠すための手段であり、道具にすぎない。

しかしそれは、民主主義を正面から否定する論理なのである。

▼3つめに、これは女性蔑視に限らないが、ネット内での暴言は、相手に「面と向かって言えるのか」という基準を持つことが大事で、これは、法律で決める類(たぐい)のことではなく、これからの学校教育で大きな課題になると思う。

▼4つめに、芸能人がバンバン政治的意見を言うようになるのはいいことだ。しかし、ひとつだけ注文したいことがある。

その意見は、どのメディアを参照したのか、示したほうがいい、ということだ。

本人が現場にいたり、当事者だったりの場合以外、どんな有名人でも、必ず何らかのニュースを見ているはずだ。そのニュースソースは何だったのか、一言追加したほうが、より価値的であり、浮(うわ)つかない、実(み)のある動きにつながる。

10万人単位、100万人単位でフォロワーがいる有名人は、影響力が大きい。自分がどの新聞を読んだのか、どのテレビを見たのか、どのブログを読んだのか。友人から聞いた話なのか、SNSには分量の制限がないし、時間も1分ほどで済むのだから、少しだけでもその情報を追加してほしいところだ。

尤(もっと)も、そうしたことも含めて勝手にやればいい話なので、余計なお世話なのだが、荒れるばかりのSNSを、少しでもマシな世界にするために、インフルエンサーがニュースソースを明示するクセをもつことは、じつはけっこう効果的な方法だと筆者は思う。

(2020年6月10日)

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