天使を見た/『君の膵臓をたべたい』

ぼくは泣かなかった。友だちが1人もいない根暗な主人公が、クラスで一番人気の女の子の”膵臓の病気で死んでしまう”という秘密を偶然知ってしまったために、なかよしになり、振り回されるというモテない男の妄想爆裂映画だったからだ。ぼくもモテないので、気持ちはよくわかるが、あまりにも主人公に都合がよく、甘い話になってしまっている。
 それでもぼくはこの映画が好きだ。それはひとえにヒロインの桜良を演じた浜辺美波の魅力である。主題歌のMr.children『himawari』の歌詞を借りるなら「透き通るほど真っ直ぐ」な桜良というキャラを体現してみせた浜辺美波に釘付けになった。声もいい。安直だが、まさに「天使」のようだ。それは物語の役割としてもそうだ。
 冒頭、主人公"ぼく"が図書室で桜良の幻影を追うシーン。桜良は笑いながら、本棚の間を移動し"ぼく"を12年前へと誘う。
 12年前の"ぼく"が桜良の秘密を病院で知るシーン。ここで2人をつなぐ「共病文庫」とよばれる文庫本のショットは、どこからともなく落ちたように見えて不自然だ。原作では椅子に置かれていたという描写のため、あえてそうしていることがわかる。
 ラストシーン。図書室に入る木漏れ日の前で、"ぼく"の前から姿を消す桜良。これらのシーンから、月川翔監督が桜良を天使として描いたのがわかる。不自然に落とされた文庫本は、天使からの贈り物である。『素晴らしき哉、人生』『カラフル』など映画の中の天使は、主人公を生へと向かわせる役割を担っている。
 そう考えると、主人公に都合がいいのも説明がつく。桜良は"ぼく"を生へと向かわせる天使だからだ。映画独自の12年後という設定は、物語的には意図が見えづらい。だがティーンだけでなく、大人の観客を取り込む設定にはなっている。桜良を見て、かつての"ぼく"にあったかもしれない「透き通るほど真っ直ぐ」な気持ちを見出し、「邪にただ生きている」罪悪感で観客は涙する。本作の浜辺美波を見て、みな胸を苦しくすればいい。

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