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和菓子職人、アメリカで暮らす。vol.2〜どこだって餡子は炊ける〜

 さて、前回は、私が渡米して和菓子がアメリカに届いてもおらず、ガラパゴス化している、のではなくしちゃっている現状にショックを受けた、というお話でした。


 繰り返しますが、渡米前からアメリカにはおいしい和菓子がないだろうし、受け入れられるのは難しいと想像はしていました。それ以前の問題で、食べられること以前に全然知られていなかったのです。
 話を進める前に、補足として、”全くない”訳ではありません。日系スーパーで、輸入物のみたらし団子や、大福が売られていますし、どら焼きもあります。粒餡の缶詰も切り餅もあります。和菓子業界の人間から見ると、令和の今、それだけ?とさえ思えてしまうラインナップなのです。もちろんスーパーの方は売れるものを仕入れておられるのは当然ですし、生モノは輸入できないのもわかります。ただ単純にそれを知った時はショックで残念な気持ちになりました。将来の日本での和菓子の立ち位置を表しているようでもありました(もしかしたら日本で地域的に和菓子屋さんが少ない場所ではもうそうなっているのかも)。

さて、そんな現状を目の当たりにしても、とりあえずまぁ、餡子炊いてみるか!となったのが私であります。「質の良い軟水でない」「良い大納言がない」なんていう考えは一旦置いておいて。「自分のできる範囲で、自分のベストの餡子を炊く」ということを目標に、アジア系スーパーで買った何種類かの小豆を買い餡子を炊き始めました。真空されていたり、見た目が艶があり、粒も揃っていたのを見つけたので期待できました。でもそこでわかったのは「豆の具合は最終炊いてみないとわからない」ということ。今まで豆問屋さんに信頼を置いてきて、自分が甘えてた・・という程でもありませんが、自分の感度が下がっていたなと気付かされました。つまり、見た目として良い状態の豆であっても、鮮度が古ければ、全く良い餡子には炊けないということ。炊けたとしても、自分好みの風味かどうかという点もあります。アジア系スーパーの小豆なら大丈夫だろう、という期待が砕かれました。割とたかを括っていたところがあったので手が止まってしました。さてどうしよう。

そもそもアメリカのローカルスーパーには多種類の豆は売っていますが、小豆は見かけません。ただ習慣として初めて行くスーパーの豆コーナーはチェックしていました。餡子作りの手を止めていたところ、たまたま立ち寄ったローカルスーパーCentralMarket(H.E.B.というTexasローカルスーパーの高級路線の店舗)に"Adzuki"が!しかもorganic!そうです、この小豆が思いがけず良い餡子になったのです。「ローカルスーパーには小豆はない=良い豆はない」というわけではないという事実は私にとってはとても大きな発見と収穫になりました。見た目は大納言よりも小さいですし、欠けているのもあったりはしますが、炊き上がりも風味も自分的には満足する仕上がりになったのはかなりの達成感でした。「ヒューストンで餡子が炊ける」ということつまり「和菓子が作れる」ということに繋がるのです。
付け加えて、砂糖について。アメリカではグラニュー糖が主流であり、上白糖はありません。和菓子では用途に応じて上白糖とグラニュー糖を使い分けています。私の場合、日本では餡子は甜菜糖の氷砂糖で炊いていましたが、もちろん甜菜糖も氷砂糖もないので、キビ糖・Cane sugarのグラニュー糖で炊いています。 砂糖は仕上がりにも影響するのでありますが、それはまた別の時に・・・。

「手に入る材料でベストを尽くす」のスタンスを取ることで自分が無理なく異国の地で和菓子作りにとりかかれているように思います。「満足する材料が手に入らないから作らない」という職人的判断もできたかもしれません。でもそれじゃあここでは何も始まらないし、せっかく縁あってこの土地にきている意味がないようにも思えて、「満足する材料がないからこそ」やってみようじゃないか!という、ちょっとした反骨芯のような気持ちで始めました。私の中のパンクでロックな部分が疼くわけです。小豆探しを通じて、自分の中の「思い込み」とか「決めつけ」が少し邪魔していたかなとも気づきました。「もしかしたら」みたいな部分を持つと可能性が広がるかもしれない、というのもこの辺りから思い始めました。

まぁ、そんな考えを巡らせながら、餡子たきをはじめて、運よく良い小豆と出会い餡子が炊けるようになりました。さらにはU.S.Amazonで何気なく買ってみたOrganic Adukiもいい感じに炊けることがわかり(それもサイズも小さいし欠けてたりする見た目で期待していなかった)、つまりアメリカのどこにいたとしても餡子が炊けるということが判明したのであります。鍋とコンロさえあれば、アメリカのどこにいたとしても餡子が炊けるって凄いことだと思うのです。(私基準で納得するレベルでの餡子ですが)現地調達で安定して餡子が炊ける事実は和菓子業界にとってはとてもプラスな情報になり得ると個人的には思うのでここで発信させてもらいます。

餡子を炊いている時、きっと私は、ヨーロッパにいたとしても、アフリカにいたとしても、たとえ小豆がなかったとしても、現地で手に入る豆で餡子を炊いてそうだな、という妄想がふとよぎり、そう思うとふっと身体の力が抜けた感覚になりました。和菓子にとってアウェーな環境に飛び込んだ中において、自分の中にあるポジティブさに救われた感じです。

餡子として使える小豆を手に入れた私は、次に取り掛かるのは「どら焼き」。
次回は、「どら焼きはイージーだと思ってた!」です。
よろしくどうぞ。

高級スーパーCentralMarketにてついに小豆発見!
"Adzuki"発見!両サイドはレッドキドニーなので似ているけど違う。
多種多様な豆や穀物が計り売りされています。


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