見出し画像

韓国ノワールの傑作!生命力に満ち溢れた映画【哀しき獣】

2010年に公開された韓国映画、「哀しき獣」(日本公開は2012年)。
韓国ノワールの代表的な映画の一つなので、知ってる方も多いと思いますが、私も大・大好きな作品です。かなり激辛です!(以下、ネタバレなし)

【解説】
「チェイサー」のナ・ホンジン監督とハ・ジョンウが再びタッグを組んだクライムサスペンス。罠にはめられ追われる身となった男が、闇に潜む真実を暴き出していく姿を描く。中国・延辺朝鮮族自治州でタクシー運転手を営むグナムは、借金返済のために賭博に手を出すが、失敗して逃げ場を失う。殺人請負人のミョンに韓国へ行ってある人物を殺せば借金を帳消しにすると言われたグナムは、韓国へ出稼ぎにいったまま音信の途絶えた妻に会うためにもミョンの提案を受諾。黄海を渡り韓国へたどり着くが、そこで罠にはめられ、警察や黒幕すべてから追われる身となってしまう。(映画.com)

中国の延辺からソウルに殺人をしに来た男が主人公

主演は出演作に間違いのない男、ハ・ジョンウです。彼が演じるグナムは、中国の延辺(えんぺん)という朝鮮族が多く住む貧しい地域の男で、借金まみれの上、ソウルに出稼ぎに行った奥さんとは音信不通となり、人生に絶望しているんです。
その彼が、裏社会の大物っぽいミョン社長(キム・ユンソク)からソウルでの殺人の依頼を受けて、韓国へ密航するのですが、前半はとにかく静かで暗いトーンで進行します。
グナムの心象を表しているかのように、煌びやかなはずのソウルの街は色がなくて寂しく、底冷えするような寒さが伝わってきます。

中盤から怒涛の逃走劇

画像1

だけど中盤、とあることをきっかけにしてグナムは突然追われる身となるのですが、今までが嵐の前の静けさだったかのように怒涛の逃走劇が始まって、これがもうゾクゾクするほど面白いんです!

警察、韓国マフィア、ミョン社長率いる延辺軍団などのあらゆる組織が絡み合っての追いかけっこ(笑)!
男ばかりでむさ苦しいことこの上ないですが、ものすごいエネルギーで、アドレナリンが出っぱなし。

原題は「黄海」。邦題の「哀しき獣」は的を得たり

この映画の原題は「黄海」(=中国大陸と朝鮮半島の間にある海のこと。グナムが密航船で渡ってきた海)で、「哀しき獣」は邦題なのですが、この邦題が本当にピッタリで的を得ていると思います。
彼らの刀を振りかざす闘いは、最終的には人間的な打算とか関係なく、ただ生き残るためだけに、生への執着のためだけに闘っていて、それが、本能で闘う獣そのものに見えてきます。

そんな獣たち、肉食動物の頂点のような存在であるミョン社長の牛骨を使ったシーンは必見です(笑)。人間離れした強さ!

無気力な男に潜んでいた生命力に感動

鑑賞後、超絶エンターテインメントを観た後の「あー最高に面白かった!」という満足感があるのと同時に、私はとても感動してしまいました。
うだつのあがらない日々を送っていた、端から見ればダメ人間のグナムの中に、ほとばしる生命力が潜んでいることを垣間見て、胸を打たれたからです。
人間ってすごい。こんな力強い生命力をきっと誰もが備えているんだなぁと。
そんな人間の隠れた一面に光を当て、超一級の映画にしてくれたナ・ホンジン監督に脱帽です。

凄まじい才能のナ・ホンジン監督作品は要チェック

ナ・ホンジン監督はとんでもない才能を持つ人ですが、なかなかの寡作で、まだ3作しか作ってないんですよね。この作品は2作目です。

長編1作目のチェイサーもめちゃくちゃ面白い映画で、こちらにもハ・ジョンウとキム・ユンソクが出演していますが、こっちでは牛骨ミョン社長がいい人で、追われる身のグナムは最悪な人間(本当に最悪)と真逆になっているので、続けて観ると感情がぐちゃぐちゃになるのでご注意を(笑)。

「哀しき獣」はディレクターズエディションがあって、日本で放映されたバージョンより16分長いのですが日本未発売でまだ未見です…。
いつか絶対観たい!
とにもかくにも、骨太な韓国映画を観たい方にとってもオススメです。

極私的スキ度 ★★★★★★★★★★(10)

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?