ピープルフライドストーリー (53) •••嫌いな映画…(エッセイ)

【作者コメント:  ノンフィクションのドキュメンタリー映画に関しては『ゆきゆきて、神軍』が断トツに……好きである。】

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…………………………(53)
(エッセイ)

•••••••••••••••••嫌いな映画

           by  三毛乱

 好きな映画は多くある。嫌いな映画は多くではないが、ある。つまらないと感じる映画は、無視できたりするので、まあまあ気にはならない。だが、嫌いな映画は無視できず、気になってしまう、のである。
 フィクション映画に関しては、『十二人の怒れる男』を挙げたい。名作といわれたりする映画である(三谷幸喜氏も好ききだと言っていた)。だが嫌いである。探偵でも刑事でもない、普通の人々といわれる陪審員の男達がほとんど部屋の中で汗をかきながら少年の罪について議論する映画である。途中はまあ魅せられるのでいいが、結末はハッピーエンドふうに終わり、とても気に喰わないのである。アメリカの裁判制度を美化している感じがする。どうも鼻につくのである。アメリカの裁判制度の悪い面をどうしても見てみたいと思ってしまう。
 もちろん、好みの問題だと言われれば、そうかも知れないが、アメリカの裁判のアンハッピーエンドで名作映画を、何とか誰か作ってもらいたいものである。
 とにかく、裁判を題材にした映画は幾つかあるが、その中でも一番熱っぽく陪審員が語りあい、結末は良い結果を皆を出した…というふうに終わる映画である。良きにしろ悪きにしろ……とても気になる一本なのである。
 で、お薦めのフィクション映画としては、ルイス・ブニュエル監督の『自由の幻想』がある。いろんなエピソードが繋がっていて、全編通しての裁判がメインテーマの映画ではない。途中、裁判がちょっと出てくるシーンがある。
 無差別に銃で殺人している男がいて、カットが直ぐに裁判シーンとなり、男は死刑の宣告を受ける。傍聴席などにいた人々のおおーッといったどよめきが起こる。次のカットでは、男が記者たちのインタビューに応じて、「これから帰って○○します」などと言い、その後に至極当たり前の如くにスタスタと街の中を帰宅してゆく。
 何とも人を喰ったようなオチの映像でこのエピソードが終わるのだが、裁判といえば、この映画のこの一連の映像が一等すばらしく感じるのである。一等好きなのである。ブニュエルが一等好きな監督なのである。出来る事ならタイムマシンを使って、ブニュエル監督の助監督をやってみたいものなのである。ブニュエル万々歳なのである(ちなみに、この映画でバンバンと銃で人を撃った男は、この映画の助監督が演じていたそうである)。
 尚、すべてのハッピーエンドの映画が嫌いなのではない。例えばフランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生』はハッピーエンドがとても素晴らしかった。
 ところで今、テレビでは『アンチヒーロー』が放映されている。これは弁護士と検事の法廷での対決で正義とは何ぞや、正義などは有りや、みたいなドラマであり、法廷ドラマとしてはまあ面白い方だけれども、やっぱりブニュエル監督の、シュールレアリストの面目躍如の、先ほど述べたブッ飛び裁判関連映像には到底勝てないと思っている。
 さて、タモリは『タイタニック』が嫌いだと公言してたが、そんなふうに、いろんな著名人の嫌いな映画についての本が幾つかあったら良いのになぁ、と夢想している。成田祐輔氏や櫻井よしこ氏や上野千鶴子氏やあのちゃんや堀江貴文氏や古谷野敦氏や、いろんな経済学者やコメンテーターとして活躍している人々など(……映画評論家ふうな人でもいいけど……)、いろんな人の嫌いな映画が載っている本が何冊か見たい。とりあえず、どこかの出版社で企画してくれる事を期待しつつ今回のエッセイは終了なのである。

                終

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