見出し画像

AI時代に身につけるべき〇〇能力


今,「非認知能力」が教育の研究や現場でもてはやされている。

長らく日本の学校教育では学力が重視されてきた。ところが社会に出て要求される能力は学力だけとは限らない。これまでには「心の知能(EQ)」という概念として注目された時代もあったが,なぜ今,「非認知能力」が注目されているのか考えてみた。



非認知能力について

ジェームズ・ヘックマンが提唱した(Heckman et al., 2006)
・子供の将来の幸せと成功に大きく寄与していることを証明した
・ノーベル経済学賞受賞

国内では,「非認知能力」についてのプロジェクトが動いている。
以下の報告書は,その一部だ。

非認知能力に関する報告書

報告書を見てみると,非認知能力には、自尊心、自己肯定感、忍耐力、創造性、社会性、協調性などの心的概念に関わるあらゆる要素が含まれている。

OECDでは「社会情動的スキル」と言われている

OECDは,「非認知能力」のことを「社会情動的スキル」(Social and emotional skills)と称している。


OECD(2015)は,「スキル」には,3つの性質を備えていると言う。

①生産性(Productivity):個人の幸福や社会の発展に貢献するもの

②測定可能性(Measuarability):実証的に測定ができるもの

③成長可能性(Malleability):環境の変化や投資にとって変化するもの


OECD(2015)は,社会情動的スキルを,「(a)一貫した思考・感情・行動のパターンに発言し,(b)学校教育またはインフォーマルな学習によって発達させることができ,(c)個人の一生を通じて社会経済的成果に重要な影響を与える個人の能力」と定義している。
この定義を見ると,社会情動的スキルは包括的な概念であり,具体的に何を指すのかは研究者によって異なってくると考えられる。



社会情動的スキルの3要素

社会情動的スキルは,「長期的目標の達成」,「他者との協力」,「個人の感情の管理」という3要素があると言われている(OECD, 2015)。

図1

この3要素は,OECD(2015)の内容を見ると,どれも対人関係上での要素と考えることができる。そこで,この3要素の本質について,心理学のいくつかの理論から考えてみる。


1. 目標の達成

社会情動的スキルの特徴の1つ目は,「目標の達成」だ。スキルを使って,本人の目標が達成できることを重要視していると考えられる。この目標の達成については,Higgins(1997)の「制御焦点理論」から考えることができるだろう。

制御焦点理論では,人の目標達成の動機には,「促進焦点」(promotion focus)と「予防焦点」(prevention focus)の2つがあると仮定している。「促進焦点」では希望や進歩の欲求を重視し,獲得の在と不在に関心をもち,理想や望みを実現することを目標とする。他方,「予防焦点」では安全や責任の欲求を重視し,損失の在と不在に関心をもち,義務や責任を果たすことを目標とする。「促進焦点」と「予防焦点」は誰しも両方を持っているが,どちらが優勢になるかは本人が置かれている状況で異なると言われている(Eitam, Miele, & Higgins, 2013; Higgins, 1997)。

自分の目標を達成するためには,自分がどういう状況で,「促進焦点」あるいは「予防焦点」になるのかを知っておくことは重要だと思う。「促進焦点」か「予防焦点」によって,その状況に対応するスキルは異なってくるだろう。自分が置かれている状況で,どのような目標を達成するのか意思決定する必要がある。

社会情動的スキルの要素には,目標達成の動機と意思決定のスキルが含まれていると言える。


2. 他者との協働

社会情動的スキルの特徴の2つ目は,「他者との協働」だ。スキルを使って,他者と協力することを重要視していると考えられる。

「他者との協働」は,チームワークといえる。チームワークは,これまでに個人の能力として測定・育成できることが実証されている(相川他, 2012; 太幡, 2016)。チームワークには,コミュニケーション能力が基盤となっている。

社会情動的スキルの要素には,チームワークに必要なコミュニケーション・スキルが含まれていると言える。


3. 情動の制御

社会情動的スキルの特徴の3つ目は,「情動の制御」だ。スキルを使って,自分の感情を管理することを重要視していると考えられる。

「情動の制御」については,EQ(情動コンピテンス)の下位領域である「自己の情動に関する領域」(野崎, 2015)で説明することができる。「情動の制御」については,「適切性」(Spitzberg & Cupach, 1989)が求められる。つまり,「情動の制御」とは,自己の感情を適切に認識・理解し,その感情を調整・表出できることである。例えば,怒りのコントロール方法や表出方法に関する「アンガーマネジメント」が挙げられる(木野, 2004)。

社会情動的スキルの要素には,自己の感情を適切に認識・理解し,その感情を調整・表出できるスキルが含まれていると言える。

結論

非認知能力が注目されているのは,グローバル化や情報化が進み,変化の激しい社会に対応するためだと思う。


参考文献

相川 充・高本 真寛・杉森 伸吉・古屋 真 (2012). 個人のチームワーク能力を測定する尺度の開発と妥当性の検討 社会心理学研究, 27, 139-150.

Eitam, B., Miele, D. B., & Higgins, E. T. (2013). Motivated remembering: Remembering as accessibility and accessibility asmotivational relevance. In D. E. Carlston(Ed.), The Oxford handbook of social cogni- tion(pp. 463-475). New York: Oxford University Press.

Heckman, J. J., Stixrud, J., & Urzua, S. (2006). The Effects of Cognitive and Noncognitive Abilities on Labor Market Outcomes and Social Behavior. J. LaborEcon. 24,411-482.

Higgins, E. T. (1997). Beyond pleasure and pain. American Psychologist, 52, 1280-1300.

木野 和代 (2004). 対人場面における怒りの表出方法の適切性・効果性認知とその実行との関連 感情心理学研究, 10, 43-55.

野崎 優樹 (2015). 情動知能と情動コンピテンスの概念上の差異に関する考察 京都大学大学院教育学研究科紀要, 61, 271-283

OECD (2015). Skills for social progress: The power of social and emotional skills. Paris: OECD Publishing.

Spitzberg, B. H., & Cupach, W. R. (1989). Handbook of Interpersonal Competence Research. New York: Springer-Verlag.

太幡 直也 (2016). 大学生のチームワーク能力を向上させるトレーニングの有効性 教育心理学研究, 64, 118-130.

外山 美樹・湯 立・長峯 聖人・黒住 嶺・三和 秀平・相川 充 (2018). 制御焦点がパフォーマンスに及ぼす影響 教育心理学研究, 66, 287-299.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?