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認知療法の考え方と技法

この記事では,「認知療法」について紹介します。記事の内容は,下記の書籍をもとに書いています。


認知療法の歴史的背景と基本的理念

認知療法は,アーロン・ベックによって,1970年代に体系化された心理療法です。認知療法では,個人内に作られた特定の思考パターンや認知プロセスに焦点を当てます。心理的な問題の背景は,「状況-認知-感情-行動」のプロセスが悪循環しているという仮説に基づき,感情と行動に影響を及ぼす認知構造を明らかにします。そして,認知の内容や考え方を修正していくことで,個人の心理的な問題を解決します。

認知療法は,ベックの治療モデルによれば,セラピストとクライエントが共同で行う「仮説-検証のプロセス」であり,演繹的な手法(「ソクラテス的問答法」など)を用いながら,クライエントが自ら,歪んだ認知や非機能的な信念に「気づき」,それに囚われていることから脱却します。認知療法では,特定の出来事に対して,個人が柔軟かつ多様な思考レパートリーを身につけるよう訓練します(認知の再構成)。

認知療法は,当初,うつ病を治すために開発されましたが,その後,不安障害やストレス関連疾患など,幅広い精神障害にも適用され,人々の心理社会的問題を改善し,当人の適応を支援することに貢献してきました。


認知療法における「認知」の捉え方

日常生活の様々な出来事における感情や行動は,個人が出来事に対して,どのように認知するのかに左右されます。つまり,個人のものの見方や考え方によって,感情や行動は変化します。例えば,「私はみんなから嫌われている」という思考をすれば,孤独感を感じたり,他者と関わることを避けるようになったりします。

認知療法では,このような思考を生じさせる認知プロセスは,「認知構造」と「認知処理」という2つの要素から成り立つと考えます。

認知構造は「スキーマ」と呼ばれ,個人が持つ「信念」のネットワークを意味します。認知構造を理解する上で,「自動思考」を理解することが重要です。自動思考とは,ある出来事において自動的に生じる思考パターンを意味します。この自動思考は,スキーマより自覚しやすいことから,認知療法において改善できるものと考えられています。認知療法では,様々な出来事に共通して生じる思考パターンを整理し,潜在的なスキーマを明らかにしていきます。

認知処理は,環境からの情報を選択的に取り入れたり,遮断する時に生じる誤った情報処理を意味します。以下には,非機能的な認知処理を整理しました。また,三川(2004)では,認知の歪みが整理されていますので,そちらも以下にご紹介します。

認知処理の中で,「自己」「世界」「未来」に対する認知は,「認知の3徴候」と呼ばれ,これらに対する見方が非機能的であると,抑うつに関連したスキーマを形成してしまうと言われています。

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出典:三川俊樹 (2004). 認知の歪みと主観的不健康感の関係 追手門学院大学人間学部紀要 17, 57-72.


認知療法の技法

認知療法の技法に対する一般的なイメージは,「ネガティブ思考をポジティブ思考に修正する技法」や「新たなポジティブ思考を身につける技法」と思われるかもしれないが,これは誤解です。

私たちは,日常の経験からも理解しているように,特定の思考は,別の思考や考えを提案されたところで,容易に修正できるものではありません。また,私たちが,健やかに生活できるのは,「ネガティブ思考」をしないからではなく,特定の思考に囚われないからです。そのように考え,認知療法では以下の原則に従います。

1. クライエント自身が,柔軟かつ多様な思考レパートリーを学習することを目指す。
2. クライエント自身が,今までとは違う見方や考え方を探索できるように支援する。
3. クライエント自身が,新しい思考に伴って生じる感情や行動の変化を経験することで,その思考が感情や行動に及ぼす影響を体験的に学ぶ。
4. クライエント自身が,状況に応じて生起する思考の機能を考え,特定の思考の選択と修正が行えるようにする。


認知療法では,「状況-認知-感情-行動」のプロセスが悪循環していることに気づき,機能的な思考レパートリーを身につけていきます。そのためには,以下の技法があります。

1. 心理教育と動機づけ
クライエントに対して,クライエント自身が抱える問題の形成と維持に関わる認知行動モデルを解説し,問題解決に向けた具体的な解決策についての情報を提供する。介入目標を整理しながら,認知療法への動機づけを高めていく。
2. セルフモニタリング
クライエントに対して,日常生活における「状況-認知-感情-行動」のプロセスを観察し,記録するように求める。セルフモニタリングを通して,自分が抱える問題への理解を深めていく。このセルフモニタリングは,問題理解や情報収集のための手段となる。また,介入過程において,新たな思考レパートリーを身につけた時,どのような変化があったかを確認する手段にもなる。
3. ケースフォーミュレーション
特定の出来事に対して,セルフモニタリングしたデータを踏まえて,クライエントとともに,介入目標と具体的な解決策を定めていく。
4. 非機能的認知の整理
クライエントとともに,問題を生じさせる特定の認知プロセスを整理するとともに,その非機能的認知が感情や行動に及ぼす影響について類推していく。非機能的認知をもとに,そのように考えてしまう理由やイメージを探索し,クライエントのスキーマを明らかにしていく。
5. 認知の反証と新たな認知の探索
クライエントが,非機能的認知や歪められた信念に気づき,改善するのを支援する。ソクラテス的問答法として,「なぜそのように考えてしまうのか」「その考え方が間違っているとすれば,それはどのような点か」「自分が楽になる別の考え方はどのようなものか」と問い直す。
6. 行動実験
これまでに習慣的に行っていた思考パターンが必ずしも機能的ではなかったことに気づき,状況に即した柔軟な考え方を身につけていく。


認知療法の新たな潮流

認知療法は,行動療法の考え方と技法を取り入れながら融合し,現在では,「認知行動療法」として確立されている。その中でも,認知療法の新たな潮流として,「マインドフルネス認知療法」などが開発されている。




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