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映画『テス』ナスターシャ・キンスキーの西鶴一代女(ネタバレ感想文 )

監督:ロマン・ポランスキー/1979年 仏=英

4Kリマスター版で観ました。初鑑賞。

シャロン・テートに捧げているようですが、彼女が惨殺されてちょうど10年後、ポランスキー46歳頃の作品。13歳少女淫行疑惑でアメリカから逃亡し、ヨーロッパに拠点を移した初期作品。ちなみにナスターシャ・キンスキーは18歳頃。彼女も15歳頃からポランスキーと肉体関係があったと言われていますがね。
そう考えると、ロリコン・ポランスキーの自戒とも自虐とも言い訳ともとれるような映画に思えますが、それは置いておきましょう。

私はここ最近(この20年くらい)やたらポランスキー作品が好きなんですが、この頃の作品を観てもやっぱり巧いんですよ。

大自然のファーストショットで「昔々ある所で」感があるでしょ。
そこからワンカット(だったと思う)で、キャッキャウフフ言いながら歩いてくる少女集団がいて(この中にテスがいる)、十字路で変なオジサン(テスのお父さん)とすれ違う。
この直後、テスの父親は牧師から名門の末裔であることを知らされ、テスは(自分は踊らなかったけれど)後に出会う男性とすれ違う。
後から分かることですが、このファーストシーンで「運命の交差」がさりげなく描かれていたのです。

劇中、テスの父親の墓石に掘られた没年が「1888年」だったことから、この映画の時代設定は1885年頃から90年頃までの話だと推測されます。
ちなみに原作小説『ダーバヴィル家のテス』は1891年出版。
つまりこれ、映画は約100年前を描いた「時代劇」ですが、原作は「現代小説」だったんですね。

ついでに言うと、この手の『西鶴一代女』(1952年)的な女の一代記映画って、結構ありますよね。

例えば、『風と共に去りぬ』(1939年)。話の舞台は1860年代で原作小説は1936年出版。原作は「時代小説」だけど映画はリアルタイムという『テス』とは逆パターン。

例えば、『ボヴァリー夫人』。1933年、49年、89年、91年、2014年に映画化されているそうです。ちなみに私が観ているのは1989年のアレクサンドル・ソクーロフ版。ソクーロフのボヴァリー夫人だってよワッハッハと夫婦で観に行って爆笑しながら帰ってきた覚えがあります。
原作小説は1856年出版。舞台設定は同時代の「現代小説」だと思います。

例えば、『アデルの恋の物語』(1975年)。原作小説はありませんが、1863年を舞台とした実話です。

何が言いたいかというと、江戸時代の「好色一代女」は別として、時代設定が1850~90年代(特に1860年前後に集中)のような気がするのです。

もしかすると、『ボヴァリー夫人』や『ダーバヴィル家のテス』のような「現代小説」から推測すると、「小説」という文化に変化があった時代だったのかもしれません。
もしかすると、『アデルの恋の物語』が実話であることを考えると、男の言いなりになるしかなかった女性達が少しずつ意志を持ち始めた時代だったのかもしれません。酷い言い方をすると「やっと女性が人として認められ始めた時代」。
『風と共に去りぬ』は時代小説なんでね、マーガレット・ミッチェルは佐伯泰英と一緒なんですが、彼女の中で「女性が意志を持つ物語」としてこの時代設定にした意図は分かる気がします。

余談
ポランスキーの『マクベス』(71年)をリマスター上映してくれないかなあ。
ナスターシャ・キンスキーといえば『キャット・ピープル』(82年)だよね。リマスター上映してくれないかなあ。

(2023.01.22 アップリンク吉祥寺にて鑑賞 ★★★★☆)

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