ナスが生み出してくれた温かな時間
ありがたいことに私の住んでいる地域には八百屋さんがたくさんある。
たくさんあるというか、商店街が大好きな私は、八百屋さんや肉屋さん、花屋さんやらパン屋さんなど、活気のあるお店が多く並ぶ商店街が近くにあることを必須項目として家を探している。
スーパーで買うのももちろん良いのだけど、野菜は八百屋さんで購入すると、おどろくほど安いのだ。
八百屋さんの面白いところは、スーパーと違いその日の仕入れや旬のものによって並ぶ野菜のメンツが日々変わるところ。
その中からとっておきのやつを見つけて、献立を考えるのが私のいつものルーティーン。
◇
その日もいつもの行きつけの八百屋さんに足を運んだ。
すると見たことのないナスが安売りされているのを見つけた。
ナスといったらあの毒々しくも食欲をそそるクッキリとした紫色のものが定番だが、そのナスはまるで雪のように真っ白だった。
それにサイズもでっぷりとしていて、非常に大きい。まるで米ナスのよう。
とても面白いものを見つけてしまった。今日はこれを持って帰ることにしよう。
遠い昔。山の奥にあり、近くに沢が流れる静かな蕎麦屋で家族と外食をした。
そこで、びっくりするほど大きな米ナスのみそ田楽を食べた。それはもうほっぺたが落ちるほど美味しくて、あれから十数年経った今でも忘れることなく心の奥底の記憶に残っている。
あのみそ田楽、また食べたいなぁ。どうにか家で食べられないだろうか。
ひょっとしたら、この白ナスがあの時の味を蘇らせてくれるかもしれない。
そう思い立つや否や、迷うことなく白ナスをカゴに詰めレジへ運んだ。
購入後、買ったものを袋に詰めていると横から私のカゴをジーッと覗き込むおばあちゃんが居た。
「これはどうやって食べるものなの?」
いきなり、そう声をかけられた。おばあちゃんの指の先にあったのはあの白ナスだった。
「じっくり焼いて、田楽みそをかけて食べようと思ってますよ。」
どうやら白ナスは、普通の紫のナスよりも身がトロリとしていて、じっくり焼いて食べるとおいしいらしい。
その情報を伝えつつ私の企みを打ち明ける。
「若いのに、そうやって色々と楽しく食べさせてもらえて、ご家族は幸せねぇ。」
にこやかな表情と共に温かい言葉をかけてくれた。
ああ、私は多分、地域の人たちと、こうしたほっこりする時間を共有することが好きで商店街で買い物をしているんだろうなぁ。
商店街で買い物をすると、店員さんもお客さんも、なんだかみんな、優しい言葉をかけてくれる気がするもの。
その日の夜、ナスはじっくり火を通しとろとろの田楽にして食べた。
あの日食べた蕎麦屋の味には似ても似つかなかったけれど、私の心の中には別の温かいものが蘇ってきた。
私はこれからもずっと商店街に通って、地域の人たちとコミュニケーションを取りながら生活を営んでいきたい。
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