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短編小説 / 同窓会🎒

(1)大学卒業間際に

  大学生活も残すは卒業式のみ、となった頃、アパートの電話が鳴った。

「工藤です。覚えているかしら?小学生のとき同級生だった者ですが」

突然の電話に戸惑いながらも、私はすぐに思い出した。

「クドさん?」

「そうそう。小学生のとき、クドさんと呼ばれてたわ。ビックリしたでしょ。今度、小学生の同窓会やろうと思って。転校した君の年賀状を探したら見つかったから。アパートの電話番号はお母さんから聞きました」

小学5年生のお別れ以来だったから、本当かな?、とも思ったけれど、話し方や方言が昔のままだったから、だんだん思い出してきて、思ったより長電話になった。

「で、来れる?泊まるとこは心配しないで。あたしんち泊まってくれればいいからさ」

「それは悪いよ。女の子のうちに泊まるなんて。気持ちは有難いけど」

「気にしないで。来てくれるだけで嬉しいから」

(2)同窓会直前

 遠い記憶をたどりながら、同窓会の行われるホテルに向かった。10年以上ぶりの盛岡だったが、意外と道を覚えていた。
 よく友人と遊んだ公園も、遊具が新しくなったほかは、さほど変わっていなかった。まだ、同窓会の開始まで時間があったから、街を少しぶらぶらした。
 ここでよく買い物したなとか、中津川ほとりのランドマーク的な銀行の建物を眺めては昔のことを思い出しながら。

(3)同窓会

 同窓会のあるホテルについた。

「○○小学校同窓会」の張り紙を見て、恐る恐る中へ入って行った。

「おお、山田くんじゃない!」
私の名前を呼ぶ声で、それが電話で聞いた「クドさん」の声だとわかった。

「久し振りだね」とクドさん。

「やっぱり、小学校の頃とは雰囲気違うね」と私。

「ああ、中学生になってから、だいぶ体重を落としたから」

「ずいぶん可愛くなったね」

「でしょ。照れるなぁ」
さほど照れてる様子もなく、彼女は笑った。

 私が山田だとわかると、ほかの級友たちも次々と私のところへやってきた。大して中身のある会話ではなかったが、「ホントに来たんだね」「懐かしいね」とたくさん言われた。

「あっ、先生が来た」

(4)話しているうちに

 最初はこんな感じで楽しかったのだが、それから話題が修学旅行の話になった頃から、私の居場所がだんだんなくなってきたことに気づいた。

 私は5年生の11月に転校したから、修学旅行はみんなと一緒に行っていない。
当然、中学校もみんなとは違うところに通った。それは仕方のないことだけど、つらくなったのは、そういう類いの話のことだけではなかった。

(5)つらい時間

 同窓会だから、みんな、なるべく多くの人と話したがる。気まずいのは、相手が私のことをハッキリ覚えていて、私が相手を覚えていないとき。

 一番「グサッ」ときたのが
「来る前にアルバム見て来なかったの?」という級友の何気ない一言。

私はアルバムを作る前に引っ越してしまった。当然、アルバムなんてもっていない。

そのあと、他愛ないことをいろいろ話したが、ここにいる人とは、共有していないことのほうが、はるかに多いことに気づいてしまった。

そのあと、二次会、三次会と付き合ったが、その事は書きたくない。

(6)一週間後

 一週間後、クドさんから、たくさんの写真が入った封筒が届いた。
 その夜、私はお礼の電話をクドさんちにかけた。

「写真、届きました。どうもありがとう」

「いや~、懐かしかったね。こちらこそ来てくれてありがとう」

今回は長話せず、「また、いつか会おうね」とお互いに言ったあと、すぐに電話を切った。

たぶん彼女も気づいている。

もう、お互いに会うことは二度とないだろうことを。

時間が経ちすぎた。もう昔の私も、昔の彼女も、この世にはいないのだから。


おしまい



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