本当は分かっている
私が生きる喜びについて語るのは
まもなく自分が死ぬということを
明確に知っているからだ

何とか抗がん剤で
繰り返し繰り返し
誤魔化してきたけれど
その効果は失われつつあることを

最初は自分の人生を呪い
次には医者を呪った
世話になっているパートナーを罵り
挙げ句の果ては関係のない
SNSの相手さえ罵倒することを覚えた

明らかに薬の効果は弱まっている
セカンドオピニオンを求めようにも
もうその気持ちさえ起きない
体重はこの１ヶ月で５キロ減った

本当は分かっている
死が忍び寄っていることを
間違いなく死ぬ、確実に…
あと数年のうちに必ず… 

じゃあどうすればいい？？
私は良い子を気取ることにした
仕事はもうできない
だから信じてもいない
生きる喜びを音声配信しようと…

内心くだらないことは
重々知っている
「楽しみにしています」なんていう
第三者の気楽な声は
ただの空しい戯言だと

けれど私には
他に何もできることはない
自分の生きる意味なんて
何もないことを知っている

本当は分かっている
SNSでどんなに声高に叫んでも
他人にとっては他人事だということ
私の死なんて無意味だということ

自分の身に降りかかった
運命の恨みを伝えたくて…
ただ他人を巻き込むに
過ぎないということも…

我ながらバカだと思う
なしのつぶての世間に
語りつづける愚かさを…
本当は分かってる
ただの気晴らしに過ぎないと…

けれどもすがるしかない
SNSで自分の不幸を語る代わりに
信じてもない生の素晴らしさを
語ることしかできない

虚無をいくら集めても
虚無をいくらかき集めても
なんの意味もないのに…
社会のお荷物だと
思われたくない一心で
今日もまた
他人の語った空言を
繰り返し繰り返し
さも自分の考えであるかのように
むなしく語りつづけている

本当に自分のしたいことは
こんなことではなかったはず…
それなのに今日も虚空に向かって
空虚な言葉を投げ掛けるのみ…

今までの無駄なことに
費やした日々を返してよと
逆恨みしながら
今日もまた悶々とした時を
過ごして終わった