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『樋口真嗣特撮野帳』造本装幀コンクール 日本書籍出版協会理事長賞 芸術書部門入賞!

突然ですが、コクヨの「野帳」って皆様ご存知ですか?下記、コクヨHPから引用します。

野帳は、測量士のために1959年に発売されたミニノートです。
作業着のポケットにすっぽりと入るスリムでコンパクトなサイズと、
屋外で立ったまま筆記できる硬い表紙が大きな特長です。
その特長が評価され、建設業界の定番となり、
日本の高度成長期の建設現場を陰で支えてきました。
(参照:
https://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/fieldnote/

60年以上の歴史を持つ野帳は、建設業界のプロフェッショナルみならず、とある映画監督も愛用しています。それが、『シン・ゴジラ』や『進撃の巨人』で知られる樋口真嗣監督です。

某編集者はある日、樋口監督の事務所の押し入れに眠っているおびただしい数の野帳を発見します。そこにはひらめき、映像化のための模索と検証、イメージ画が描かれ、時にそのまま映像化され、時に撮影されずに終わっていった膨大な量のアイデアが記されていました。

この貴重なアイデアスケッチが1冊にまとまったのが、昨年11月に発売した『樋口真嗣特撮野帳-映像プラン・スケッチ-』です。

『シン・ウルトラマン』『シン・ゴジラ』『巨神兵東京に現わる』『進撃の巨人』『西遊記』など特撮を制作する際に描かれた樋口真嗣のアイデアスケッチを集めた1冊。常に持ち歩くノートに描かれたひらめき、映像化のための模索と検証、イメージ画は、時にそのまま映像化され、時に撮影されずに終わっていく。頭の中のイメージをスタッフと共有するために描かれたフィルムサイズの絵やスケッチを解説、さらに1万6千字以上のインタビューを掲載します。作品ファンのみならず、映像クリエイター必携の1冊です。(https://pie.co.jp/book/i/5305/)

印刷会社の方へ「似た紙を使って、緑で印刷して、コクヨの野帳に似せてください。」 という依頼をしたところ、サンプルで渡した野帳をバラして紙を確認し、束見本を作ってくれました。

製本は上製本です。サイズは実際の野帳より一回り大きい新書版変形(195×112mm)で、ページ数は640ページ、厚さは約4cm!分厚いです。

カバーをめくると箔押しのゴジラが現れます!これも樋口監督の野帳に描かれたゴジラのイラストを使用しています。

前書きが長くなりましたが、当書籍がこの度、栄誉ある造本装幀コンクール 日本書籍出版協会理事長賞 芸術書部門に入賞しました!カタログに記されている審査員・高木宏氏のコメントを引用します。

樋口監督の創作メモの書籍化。縦:横の比が映画の画面に近いという愛用のコクヨの測量野帳と同じ資材を表紙に使い、同じように箔押しもして、野帳の親分ような本ができあがった。編集者と書籍化の話をしたとき、その場で仕上がりの姿も決まったのでは。あとは完成形に向かい、いろいろな人たちを巻き込んでの本づくりではなかったか。映画という作品が立ちあがる過程をたどるのも楽しいが、本づくりの工程を考えるとさらに楽しくなる。
(第56回 造本装幀コンクール カタログより)

樋口監督、編集者、監修者、デザイナー、印刷会社の担当者が集まって、わいわいとアイデアを出し合いながら形にしていった書籍なので、栄誉ある賞と素敵なコメントをいただきとても嬉しく思います。

制作の裏側も含めて、中身を少しだけ紹介。

まず本文の印刷について。

色校を出すまでは印刷会社の方と「綺麗に手書き文字を見せよう」と、細く綺麗な感じの印刷を検討していたのですが、樋口監督から「綺麗に見えるけど、綺麗すぎて本物っぽくない。鉛筆で書いているのだから、手が汚れるくらいな感じにしたい。」とご希望が。

これを受けて全データをより監督の野帳原本に近い雰囲気になるよう変更。さらに印刷現場で限界までインクを盛ってもらいました。

SNSでは「読んでいると鉛筆のこすれが手にうつりそう」というポストをしてくれた読者の方がいて、「意図が伝わってる!」と制作陣一同大興奮。

本書の大きな特徴は、カバーの欧文を含むタイトル文字、中ページの映画タイトルや前書き、ノンブル(ページ数)など、いたるところに樋口監督の手書き文字が使用されていることです。

書籍化にあたり、アイデアスケッチの解説も一部手書きでいれていただいたのですが、これ付箋に手書き+野帳に貼り付けてスキャンしているように見えますよね?

これ実は、なにも書かれていない付箋の現物を撮影+デジタルで影の加工を追加+スキャンした樋口監督の手書き文字を貼り付けて作っています。付箋は相当数撮影してバリエーションを出しました。

付箋現物を撮影後、影の加工を施したデジタルデータ

付箋の解説は本書用に作成したものです。質問表を大量に作って、それに答えていただく形で進めました。

許諾の関係で見せられないページだらけですが、作品ファンの方は「あのシーンはこのアイデアスケッチからあの映像になったのか」「このアイデアはあのシーンでこういうふうに使われたんだな」と、作品と照らし合わせながら映画を鑑賞する贅沢を味わえます。

映像クリエイターの方にとって、ここに描かれた映像化のための模索と検証やイメージ画、1万6千字のインタビューは、作品作りのための貴重な資料としてお読みいただけるはずです。

ぜひ装幀にも注目してご覧いただけると嬉しいです!


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