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ユートピア

"ですから、私はユートピアの、つまり、すくない法律で万事が旨く円滑に運んでいる(中略)かようなユートピアの人々の間に行われているいろんなすぐれた法令のことを深く考えさせられるのです"1516年発刊の本書は抽象的ではなく現実的、共産主義的な管理社会を『理想郷』として描いており興味深い。

個人的には著者による造語でありつつも【絶対に実現しない空想社会】的な意味合いで、日常会話や物語で広く市民権を得ている言葉である『ユートピア』について、著者自身がどのように書いているのか?に関心を持って本書を手にとりました。

さて【社会の最善政体とユートピア新島についての楽しく有益な小著】とも訳される本書は、招待された旅人ラファエル・ヒスロディと著者の社会批判会話を1部として、2部では語り手のヒスロディによりユートピア共和国の詳細が、そして3部では同じく著者からピーター・ジャイルズへの手紙として、出版にしてもよいか?また、そもそも『どの辺にユートピアがあるか』ヒスロディに聞いてもらえないか?といった形で構成されているわけですが。

なんといっても驚いたのは、時代を感じさせる宗教的要素を除き、仮に奴隷制をロボットと置き換えれば【ベーシックインカム】【ワークライフバランス】【シェアエコノミー】【医療費無料や安楽死】といった現在話題になっている事に、そのまま通用する近未来SFとしても論じる事もできる【ユートピアの革新性】だ。私などはユートピアと同じく島国である此の国の未来を予測しながら楽しく読み進める事が出来ました。(そういった意味では本書は読書会向けかもしれません)

また、マルクスの提言した【共産主義が300年以上前に描かれている】といった形で批評される事も多いようですが、私としてはそれより、本書を著した後、1529年には熱心なカトリックの大法官まで出世しつつも、離婚問題で国王の恨みをかって【法の名のもとに行われたイギリス史上最も暗黒な犯罪】と言われる斬首で一生を終えた著者の事を考えて、中世と近代の狭間における人生の栄枯盛衰にも思いを馳せたり。

そもそも『ユートピアって?』とディストピア小説読みながら不意に思ってしまった誰かへ。また社会思想史の名著を探す誰かにもオススメ。

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