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東京に暮らす

"二十世紀の人類は、東洋人も西洋人も、一緒に笑い、語り、学ぶことで(中略)進取の気性に富んだ先輩たちの仕上げをしなくてはならないのです"昭和初期に東京に暮らした英国女性の随筆である本書は、戦争間近な中で、暖かい目で日本を理解し英国に紹介している平和への願いの良書として時代を超えて貴重な一冊。

個人的には、読み始めてすぐに驚いたのが、外交官であった夫と共に政治情勢が極めて悪化する1928年〜1936年に日本に滞在した著者の【聡明さ、公平さ】でした。同じ女性でも科学者として軍事目的で来日せずに俯瞰的、冷静に日本を分析した【菊と刀】ともまた違い、あくまで実際の生活者視点で紹介される戦前の明るい日本人の様子は、紅茶の入れ方から、運転の荒さまで多岐にわたりつつも、常に【理解しようと努める好意とユーモア】に満ちた著者の眼差しのおかげで、何ともほっこりと胸にきます。(著者の友人が描いたイラストも素晴らしい)

また"何より沢山いる子どもたちを大切にし電車でも先に座らせます""老人はほかの国に比べて気品があり周囲から尊敬されています"といったご先祖さまたちの描写には、わずか100年でこの国が何を失ってしまったかが如実に伝わってきて、こちらも考えさせられるものでした。

戦前の日本の生活者の様子を知りたい誰か、あるいは"この世界の片隅に"みたいに苦境の中でも明るさを失わないご先祖さまの姿から元気をもらいたい誰かにもオススメ。

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