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アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

"『動物を飼わない人間がどう思われるかは知っているだろう?不道徳で同情心がないと思われるんだよ。』"1968年発刊の本書は映画ともまた違う、人間とアンドロイドの差異を共感をテーマに、自分と世界の内面的揺らぎを描くニューウェーブ小説としての"心地よい混乱"『ディック感覚』をもたらしてくれます。

個人的にはリドリー・スコット監督によるハリソンフォード主演の1982年の映画化作品『ブレードランナー』そしてライアン・ゴズリングを主演に迎えてのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の2017年公開の続編『ブレードランナー2049』と、どちらの映画も楽しく鑑賞させてもらったものの、古典SFの不朽の名作原作として、また印象的なタイトルが何度も数多くのパロディ作品を生んだ事でも知られる本書を未読であった事から本書を手にとりました。

さて、本書は火星から地球に逃亡した8体のアンドロイド、早々に処理された2体を覗く【残り6体を賞金稼ぎが追い詰めていく】といった全体の構成こそ映画とほぼ同じなのですが、映画ではハリソンフォードが演じる賞金稼ぎ、リック・デッカードの『人間側、体制側』視点が全編で孤独かつハードボイルドに展開しているのに対し、本書では『アンドロイド側、非体制側』としての対照的な立場の特殊者、ジョン・イシドアの視点も含めた【複数視点での展開)またデッカードの未来の姿を暗示するベテランの冷酷な賞金稼ぎフィル・レッシュ、『神』を代表する新興宗教マーサー教の教祖、ウィルバー・マーサーといった登場人物たちもストーリー上で大きく絡んでくる事から【全体の印象としては映画と大きく異なる】より複雑な魅力に溢れている事に驚かされます。(あと、割と映画と違いアンドロイド達があっさり、淡々と殺されていくのにも。。)

また"『人間たちには、とても奇妙でいじらしいなにかがあるのね。アンドロイドなら、ぜったいにあんなことはしないわ』『まず、彼女といっしょに寝てー』『それから殺すんだ』『どうして四本じゃたりないの?ためしに四本切ってみたらどう?』『あなたはわたしよりもその山羊を愛してるのね。たぶん、奥さん以上に。』次第に【感情が大きく変化していく】デッカード(やイシドア)に登場人物たちが投げかけてくるセリフの数々も秀逸かつ効果的で【人間とアンドロイドの違い】である共感や感情移入といったテーマを軸にしつつも、現実世界や擬似世界の境界線が溶けていくような独特の心地よさを感じさせてくれました。

映画とはまた違う魅力を感じたい未読な誰かへ。またAIやロボット、VRと益々【生物と非生物の境界が揺らぐ】今に色々と考えてしまっている誰かへ、あるいは無駄な部分が削ぎ落とされた様な素晴らしい小説を探す誰かにもオススメ。

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