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正義論の名著

"正義の概念は道徳の領域と政治哲学の領域を貫く『要石』のような概念である(中略)本書は西洋の正義の概念を考察することで、西洋の政治哲学と道徳哲学の歴史を振り返ってみようとしている"2011年発刊の本書は【誰もが正義をふりかざす中】立ち止まって考える必要性を密度濃く、またコンパクトに伝えてくれています。

個人的には、痛ましい事件が起きたり、そうでなかったとしても。日常的に【部外者が誰かを正義の名の下に断罪し】一方的にリンチするかのような空気感に嫌気がさしていることから【そもそも正義とは?】を自分の中で確認したく本書を手にとりました。

さて、本書ではホメロスからデリダまで、ギリシャ時代から近現代までの哲学名著28冊をガイド的に紹介しつつ、プラトンが『智慧、勇敢、節制をそれぞれ遂行する』内的な個人、国家の調和を正義と位置づけたのが、アリストテレス以降【共同体の公共善を目指すもの】へ。

そして貨幣を共通価値とする【資本主義社会の登場により】新たな正義の概念が『社会契約論』と『市民社会論』といった2つの道筋で展開し、ヘーゲルで【一旦は統合される】もマルクス、ニーチェ、ロールズからデリダへと概念の揺らぎが続いていることを270ページで紹介してくれているのですが。そのバランス、密度や骨太さが素晴らしいと感じました。

また、あくまで感覚的な感想になりますが、各ページを読み進めながら、古代から中世、近代へと社会が複雑化する中で、人間の存在自体の本質を善や悪と考えるのか?あるいは善悪の両方を当然に包括したものとするのか?『それでも』と【社会・全体にとっての正義】について自問自答し続けた各時代の哲学者たちの真摯な姿が浮かんでくるかのような感覚を覚えて、こちらも各論の是非を抜きに楽しませていただきました。

自分の発信力を【維持する為や売名の為に】正義をふりかざす著名人や、単なる【憂さ晴らしのために】正義をふりかざす匿名人の姿に、言葉なくため息をついて活動している誰かに。また、その上で自分にとって、人類にとっての正義をあらためて確認したい誰かにオススメ。

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