七夕平野

散文|詩|稀に写真|たなばたへいや|

七夕平野

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記事一覧

リトルリトル 2

適当に食事を済ませて帰ると 部屋は白く、がらんどうの箱のようだった 引っ越してそれなりに経つが、うすく灰色がかった色の段ボールが箱のままあちこちに点在している …

七夕平野
4年前

リトルリトル 1

巨大な温室の中はたくさんの人で賑わっている 球体の天井いっぱいに青空が広がっていた いろとりどりの水草は行儀よくマスに並べられ こんこんと湧き出る水に揺られてき…

七夕平野
4年前
3

pierrot

細い綱の上を歩くピエロは ブリキ色の骨組み天井を見上げては/ 青空を羽ばたく夢を見ていた 橙いろのランプ 観衆と歓声/ 白い雲 横切る尾の長い鳥 いつか

七夕平野
4年前
3

again

100
七夕平野
4年前

星のグラス

他に誰もいない 屋上の海原で 君は花火を見ていた 光を受けながら 泣いていた そのことに気が付いたのは 頬を伝う涙が冷たかったからなのに 世界に誰もいないなら …

七夕平野
5年前

ひとつのことばを
噛み砕いた
雨が降って森の中に
小さな木立が光っている
あなたがどこまで
行こうとしているのか
あなただって知らないのに
縛られる必要はないのだ

七夕平野
5年前

星の軌跡

ひとつの星が重ねた その軌跡は 幾重にも 気のとおくなるような もえるように、つよく深い そのあおを いつまでも見ていたかった 星に願いを 星は願いを ひとつの…

七夕平野
5年前
1

何回目かの今日が来て、確かにそこにいたことをカレンダーが知らせる
モノクロのフィルムみたいに
擦り減らす景色の中が一年ずつぼやけることに慣れてきて、たしかに君がいたことを考える時間だけ積もる
夜の海を抜ける列車

七夕平野
5年前
1

ざらざらした砂漠で
転んだら痛いのだろうか

吐く息が白く
星も砂も白く
夜がただ深かった
置いていかれたのか
置いてきたのか
どちらかなんて
どうでもよかった
ひとりの紺に 白が霞んでいく

七夕平野
5年前
1

冷え切った信号の先で
右手が渇いた砂漠を探す
深窓の緑の中のまた奥の
水の出ない蛇口と
届かない掌と
抱えても空の四角
空き缶を蹴った足で
ワルツでも踊りなよ

七夕平野
5年前
3

削れた木片の
散らばった床の上で踊る
小さな妖精に
靴をあげたいと思った

窓からさす
月明かりの中で
夜ごと踊る彼女の
小さくくるくると回るたび
少しの木屑が嬉しそうに舞う

この彫刻が出来上がる前に
君のための小さな靴を
綿毛で編んで渡すよ
いつだって遊びにおいで

七夕平野
5年前
5

square

アンテナを拾って 透明の瓶に iii どこかの砂漠の景色が映って 焚火や星空が 赤い目に替わる 踏み出さない革靴の 先の艶の だからどこへも行かないんでしょう 大して引き…

七夕平野
5年前
1

美しさのなかに
どれほどの喧騒があるのか
君が知ることはないでしょう
明日とか明後日とか
君は乙女なのでしょうけれど
選ぶ
拾い集める
愛でる
そういうことができるから
今朝も軽やかに絡まって抜ける風
優しくも強くもない花なんて
いくらでもあるものですから

七夕平野
5年前
7

waning

陽が落ちて 少しの通り雨が 石畳の広場に 街灯が一本 薄い湖に 潜り込んだ満月を 拾って本の 1ページに綴じた 部屋に放つと月は 小さくなった気がした 引き出しの…

七夕平野
5年前
2

深淵

日の暮れかけた街の 中心部にある 小さなガレット屋には 川沿いのテラス席がいくつかあった 乾いた風と オレンジの炭酸 赤いチェックのテーブルウエア 深い色の川には たく…

七夕平野
5年前

fixed

耳鳴りがしていて 朝焼けがまぶしかった 何もない部屋は それなりに明るく 白いだけで 手の届かない 窓がひとつ 四角い額 朝 空 夕暮れ 星 雪 午後3時の雨で 部屋は淡く…

七夕平野
5年前
3

リトルリトル 2

適当に食事を済ませて帰ると

部屋は白く、がらんどうの箱のようだった

引っ越してそれなりに経つが、うすく灰色がかった色の段ボールが箱のままあちこちに点在している

昼過ぎの日差しでより白く 部屋の無機質さが心地よい

人魚は

淡いあおむらさきの人魚は

尾ひれをすこし覗かせて、うすももいろの水草のかげに隠れている

食べかけのゼリーを冷蔵庫からひとつ

ちいさな人魚が水草の影からそっと見ている

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リトルリトル 1

巨大な温室の中はたくさんの人で賑わっている

球体の天井いっぱいに青空が広がっていた

いろとりどりの水草は行儀よくマスに並べられ

こんこんと湧き出る水に揺られてきらめいている

ひとつずつ ゆっくりと見ていると

うすももいろの水草のマスの中に

淡いあおむらさきの尾ひれが見えた

小さな

人魚がひとり

店主に訊ねると うすももいろの水草を買うなら一緒に連れて帰ってよいという

私は透明な

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pierrot

細い綱の上を歩くピエロは

ブリキ色の骨組み天井を見上げては/

青空を羽ばたく夢を見ていた

橙いろのランプ 観衆と歓声/

白い雲 横切る尾の長い鳥

いつか

星のグラス

他に誰もいない

屋上の海原で

君は花火を見ていた

光を受けながら

泣いていた

そのことに気が付いたのは

頬を伝う涙が冷たかったからなのに

世界に誰もいないなら

カクテルグラスの中を泳ぐ星に

願う夜だって

ひとつのことばを
噛み砕いた
雨が降って森の中に
小さな木立が光っている
あなたがどこまで
行こうとしているのか
あなただって知らないのに
縛られる必要はないのだ

星の軌跡

ひとつの星が重ねた

その軌跡は

幾重にも

気のとおくなるような

もえるように、つよく深い

そのあおを

いつまでも見ていたかった

星に願いを 星は願いを

ひとつの時代に

何回目かの今日が来て、確かにそこにいたことをカレンダーが知らせる
モノクロのフィルムみたいに
擦り減らす景色の中が一年ずつぼやけることに慣れてきて、たしかに君がいたことを考える時間だけ積もる
夜の海を抜ける列車

ざらざらした砂漠で
転んだら痛いのだろうか

吐く息が白く
星も砂も白く
夜がただ深かった
置いていかれたのか
置いてきたのか
どちらかなんて
どうでもよかった
ひとりの紺に 白が霞んでいく

冷え切った信号の先で
右手が渇いた砂漠を探す
深窓の緑の中のまた奥の
水の出ない蛇口と
届かない掌と
抱えても空の四角
空き缶を蹴った足で
ワルツでも踊りなよ

削れた木片の
散らばった床の上で踊る
小さな妖精に
靴をあげたいと思った

窓からさす
月明かりの中で
夜ごと踊る彼女の
小さくくるくると回るたび
少しの木屑が嬉しそうに舞う

この彫刻が出来上がる前に
君のための小さな靴を
綿毛で編んで渡すよ
いつだって遊びにおいで

square

アンテナを拾って
透明の瓶に
iii
どこかの砂漠の景色が映って
焚火や星空が
赤い目に替わる

踏み出さない革靴の
先の艶の
だからどこへも行かないんでしょう
大して引き返しもしませんが

強い風が吹いたら
飛ばされたっていいのに

美しさのなかに
どれほどの喧騒があるのか
君が知ることはないでしょう
明日とか明後日とか
君は乙女なのでしょうけれど
選ぶ
拾い集める
愛でる
そういうことができるから
今朝も軽やかに絡まって抜ける風
優しくも強くもない花なんて
いくらでもあるものですから

waning

陽が落ちて
少しの通り雨が

石畳の広場に
街灯が一本
薄い湖に
潜り込んだ満月を
拾って本の
1ページに綴じた

部屋に放つと月は
小さくなった気がした
引き出しの
シャーレが気に入ったようだったので
水を張ってやった

小さな月の光で部屋は
ゆらゆら
波打つ
透かした手紙の文字が
泳ぎだして困る

少し遊んでくるといい
疲れたら帰っておいで
窓は開けておくから

まぶたを閉じ

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深淵

日の暮れかけた街の
中心部にある
小さなガレット屋には
川沿いのテラス席がいくつかあった
乾いた風と
オレンジの炭酸
赤いチェックのテーブルウエア
深い色の川には
たくさんの星屑と月が
そのうちのいくつかを
少しばかり拝借して
運ばれてきた皿に乗せ
いつかまた
どこかで巡り合うこともありましょう
相席の
聡明な彼女の一言で
どこか遠くまで

fixed

耳鳴りがしていて
朝焼けがまぶしかった
何もない部屋は
それなりに明るく
白いだけで

手の届かない
窓がひとつ
四角い額


夕暮れ



午後3時の雨で
部屋は淡く
灰色に沈んだ
静かな音

何もないから美しく
部屋は何色でもあった
そういう部屋を
ひとつ
あなたに