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私のモラトリアム

稚拙な文章になってしまうやもしれませんが、思いのまま綴ります。

Every・青春

 私は大学生活の全ての青春をアルバイトに費やしました。文字通り“全て”です。
 というのも、私はアルバイトで高校受験部門の塾講師をやっていました。もちろん受験ですから、「夏は受験の天王山だ」などと言われ、夏は全て生徒達のために授業をやりますし、休みなんてほとんどありません。そのため、夏らしいことはしてきませんでした。恋人や友人と花火を見に行く、祭りに行く、ライブに行く…。「日焼けして大変だ(;゚ロ゚)」となったこともありません。
 しかしこれもまた青春ではないか、と、私は勤務三年目の今日この頃、ようやく感じ始めました。世の中に様々「青春」の定義はあります。元々の語源は単に春を示す言葉だったそうです。ちなみに私の場合「青春」とは、思い出したくないけど思い出してしまう淡くて儚く根深いものだと思っています。黒歴史と表裏一体だろうとも思います。それはさておき、そもそも中学生、高校生など全ての“受験”を控える人たちは皆、自分の将来に向けて一心不乱に勉強します。
 今日、塾付近で花火大会が催され、駅には溢れんばかりの人でした。それを見た生徒達は、羨ましいだの、帰りたいだの騒いでいました。そんな中、花火に価値を感じない生徒もいました。彼曰く、「花火なんかにお金を使うなら、もっと行政にお金をかけて欲しい。」最も現実的で面白い意見だと思いました。それが本心からの言葉かどうかはさておき、その言葉が出たことが面白いと思ったわけです。
 彼らは社会で歴史や政治を学び、国語で論理性や文章力、表現力を身につけ、数学や理科では数的能力や論理的思考能力、英語では世界に通用する力を身につけるわけです。そうやって彼らはたくさんの知識を蓄えて教養を身につけ考える力を育んで生きていくのです。清少納言ではありませんから、「夏は花火(が良い)」などと教える人もいません。だからこそそういう意見が出ても当たり前なのです。私自身その話を聞いたときはなんて冷たいのかと思ったりもしましたが、中学生に風情について語ったところで理解もできないでしょう。彼らが良いとしているものは目先の幸せや実益のあることなのかもしれません。と、その話を聞きながらそう思った次第です。

 話を戻しましょう。このように、子どもたちはたくさんの感動を与えてくれます。子どもたちは視野がまだ狭いですから、井の中の蛙のようですが、されど「空の青さ」を知っています。そんな見方もするのか、そんな所まで気がつくのかと驚いたことは多々あります。先述した花火の件もそうですし、以前生徒達の帰り際、私が疲れて全く表情を変えずにひたすらに「さよなら」マシンと化していたとき、ある生徒が「先生疲れましたよね、お疲れ様です。いや~いつもありがとうございますですよ本当」とふざけながら、同僚や専任などが私の変化に気がつかない中、そう照れながらも感謝を伝えてきてくれたことがありました。あのときは体調不良も重なって本当にヘトヘトになりながら授業をやった日でしたから、喜びも一入でした。
 そんな感動を与えてくれる彼らと接していると、私も全力でぶつかろうと思えるのです。そうやって生徒と切磋琢磨しながら授業に取り組みながら過ごしていると、1日があっという間に終わり、一週間、二週間とすぐ過ぎ去っていきます。ですから、夏期講習中期間は1番長く、1番短い期間です。そんな夏を2年も3年も過ごしていると、1年などあっという間に過ぎます。だからこそ私の青春の全てを費やしたと声を大にして言えるのです。

 大学生は人生のモラトリアムだとよく言われます(理系、専門系の学生には怒られそうですが)。実際私は私立の文系大学に通う実家住み、親のすねかじり学生です。そんなモラトリアム中ではありますが、私はこんなにも貴重な経験ができているのかといつも思います。
 現在絶賛就職活動中で、自分のPRポイントをまとめていますが、全てアルバイトで経験した出来事です。責任を持って仕事に取り組んでいますから、正直アルバイトと呼びたくもないほどです。実際生徒の前では社員もバイトも皆一様に「先生」ですから、生徒の前に立てば私は立派な社会人です。そうやってモラトリアム中全ての時間を生徒と共に過ごし、自分自身も大きく成長してきました。やりがい搾取と言われる代表みたいな職業ですが、実際やりがいは他の仕事の何倍もあると思います。有象無象のバイトと同じにはしたくありません。
 しかしこんな経験をしておきながらですが、どうしてもやっぱり周りを羨む時は山のようにありました。「生徒が恋人」状態の今は現実世界に恋人はいませんし、恋人を作ろうとすら思いません。友人とどこかに行きたいという気もあまり起きません。それが青春ではないと言われてしまえばそれまでかもしれません。しかしそれが私にとっての青春なのです。生徒に感動し、試行錯誤しながら時には生徒とぶつかって、切磋琢磨しながら成長していく。それを青春と言わずなんと言いましょうか。それほどまでに心酔しているこの仕事を、「一言で」「わかりやすく」「簡潔に」語れますでしょうか。他の人と同じく「アルバイトを頑張った子」にできるのでしょうか。
 私のモラトリアムを賭けて得た経験は唯一無二です。勝負をするわけではありませんが、就活は戦争です。戦いです。しかし、私の青春を他人の定規で測られてたまるかと強く、強く感じます。
 そう思いながらも渋々エントリーシートにプライスレスな青春を切り売りする運命からは逃れられないと感じている今日この頃のお話。


あとがき


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