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バーチャル子守りな朝

プルルルル……。

私「あっ、つながった。おはよー!」

夫「おはよー」

私「◯◯ちゃん、お父さんだね〜。おはよーしな、おはよー」

娘「う!う!(手をぶんぶん振ってあいさつ)」

私「あのさちょっと、◯◯ちゃんの話し相手になってもらえるー?」

夫「え? うん」

私「わたしちょっと、洗濯干してくるわ!」

* * *

夫の出張が5日目を迎えた。

母子ともに風邪ぎみスタートで今週が乗り切れるかとヒヤヒヤしていたが、今週の第一プライオリティを「心身の健康」にセットした毎日を送ったため、幸いなんとか無事にのりきれそうだ。バランスを重視した分、仕事や自分個人がやりたいことは進まずフラストレーションがふつふつたまっているが、母子ともに病気で寝込むより1000倍よい。

冒頭の会話は、今朝のビデオ通話のようすだ。

昨日の朝はじめてビデオ通話をして、娘の父ちゃん食いつきぶりに「これは、使える!」と思ってしまったわたしは、今朝も忙しい家事を片付けるあいだ、夫に画面越しの子守りをしてもらおうと思ったのだ。

父親と離れて一定期間すごすのは今回がはじめてではないのだけれど、これまでは画面ごしにお父さんをみせても、最初こそ少し反応すれど、そのあとはすぐに飽きてしまっていた。

でも今回は、理解が一歩進んだ感があったのだ。「これは(いつも一緒に過ごしていたあの)お父さんだ!」「お父さんと話している」という実感をもっているのが見てとれて、これまでとはまったく反応がちがった。

最初は久々に見るお父さんに興奮したのか「うおー!うおー!!」と叫んでおもちゃをバキバキにして、「なんで(ここ数日)いないんだよお!」とばかりに興奮して思いの丈をぶつけている(ようにみえる)。

ひとしきり暴れて気がすむと、絵本をわざわざはこんできて、お父さんの見える位置で自分でめくったり。夫も内容を覚えている絵本だったので、娘の身ぶりにあわせて、絵本を読んであげている。耳だけで聞いていると、ほんとうにその場でいっしょに絵本を読んでいるようだ。

ときどきスマホ画面の裏側にまわってみたり、スマホを手にとってみたりして、お父さんを探している(ようにみえる)のがなんとも可愛らしい。

今朝はお絵かき帳とクレヨンをみずからえっさほいさと運んで、画面の前でお絵かきをはじめた。夫も夫で、「上手だねえ。何描いてるの?お父さんに見せてー」なんて声をかけている。

昨日こそ娘をひざにのせて一緒に話していたのだけど、あまりに娘がお父さんに集中してくれることがわかったので、今日はそんなようすを横目でみながら、洗濯物を干したり、食器をかたづけたり、自分の身支度をすることができた。あー、はかどるわー。

* * *

それでも、たまに夫が「あ、◯◯ちゃん、お鼻出てるねー」なんて言うものだから、わたしは手をとめて、ティッシュをとって娘の鼻を拭きにゆく。

ほかにも、娘がクレヨンの箱をもって開けられずにうんうんやっているようすを見て、夫が「あ、お絵かきしたいの?」と言い、それを聞いてわたしが、家事の手をとめて「開けようね〜」と箱をあけにゆく。

そういうくだりが何度もあって、おもしろいなあと思った。遠隔なのに、たしかに連携プレーでこどもを見ているような、そんなひととき。

時間にすれば10分20分という時間だけれど、朝のバタバタした時間、遠隔でも子に集中して向き合って話してくれるお父さんの存在がどれほどありがたいことか。自分ひとりでは家事の邪魔をされてイライラして怒鳴ってしまうというリスクを回避できることが、どれほどわたしや子のストレスを減らしてくれることか。

バーチャル子守り、それ一辺倒になる世の中はわたしは嫌だし怖いけれど、こういう短時間の活用は大いにありだと思ったし、夫の出張中はこれからも積極的にお願いしたいと思った。

夫「あ、またお鼻出てるね〜」

私「え?!もう?! はいはい」

わたしはまた駆け寄って娘の鼻水をふきとりながら、笑って言う。

「早いところ、遠隔でお鼻も拭けるようにしてもらっていいですか?」

父ちゃん、開発よろしくね。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。