床の見える生活

おしゃれなインテリアを楽しんだり、ものを持たない暮らしを追求する方も多くおられるご時世に、ものすごく低レベルな話をするけれど、我が家のリビングは子が生まれてからというもの、ほとんど床が見えていなかった。

何かの比喩でもなんでもなく、文字どおり、ものが散らかっていて床の見える面積が圧倒的に少ない、ただそれだけのことである。

特に子が動き回るようになってからの1年は、いたるところにおもちゃやそれに準ずるもの――空のペットボトルや、おままごとのために引っ張り出されたスプーンや箸や、ビリビリに破られた新聞紙や、よくわからないパズルのピースや壊れた車なんかが転がっていた。一応おもちゃ箱にもどしたり、ゴミ箱に捨てたりもするのだが、気づけばいつのまにかまた転がっている。

まあそれでも、おもちゃ箱や絵本箱は用意していたので、娘はちゃんとその中に「お片付け」してくれる。……してくれるのだが、そのおもちゃ箱自体が床のうえで幅をきかせている。これがいけない。

最大の問題は、「そのうち引っ越すから、いまはもの増やしたくないし〜」という親の理屈から、棚を買わずに床のうえに、“間に合わせ”のおもちゃ箱や絵本箱を平置きしてきたことである。

1年もあればおもちゃも絵本もじわじわと増え、しまいには箱からあふれ出す。そうしてまた新たな箱を“間に合わせ”で用意し、そのなかもおもちゃで埋まってゆき、また新たな箱が必要になる。でも棚がないと上に積み上がらず、横へ広がるばかり。つまり、どんどんリビングの床面積がへってゆく。

初めのうちは「お片付けしてね〜」というといそいそと片付けてくれていた娘も、最近では絵本やおもちゃのあふれる箱をまえに、いまいちどこにどう「お片付け」したらよいものかと思っていたに違いない。無理やりぎゅうと箱に詰め込まれる絵本。仮にも本好きの母は心が痛い。

こ、これは、いかん……。

なんとかせねばと、思っていた。

* * *

”よーし、もう、限界だ! 棚を買おう!”

2週間ほどまえに外出先で突如わたしのスイッチがはいり、その場でスマホ検索。よさげな棚があったので、その日のうちに発注した。

そして先週とどいたその棚を、ついに週末、組み立てたのである(夫が)。

棚を組み立て、まだおもちゃや絵本をそこに入れる前。散らかりにちらかったリビングを目の前に「よけい狭くなっただけなんじゃ……?」と心が折れかけた。でも、いざ収納してみると、まあこれが実に!すっきりと入る。

なかでも、本が棚に縦に整列した姿は感動的だった。

「絵本の本棚が欲しい〜、絵本の本棚がほしい〜」とことあるごとにつぶやきつつ、でも今買ってもなあ……と箱で間に合わせていた自分は、もうその縦整列だけでグッときてしまった。ああ、なんて気持ちのいい光景なんだろう……!

基本的人権というか、本の持つ基本的”本”権?が保たれているような感覚さえ持つ。絵本たちは背筋をシャンとして、とっても居心地がよさそうだ。そうそう、これだよこれ、格好いいでしょうぼくら? 我が家にやってきてからすっかり絵本というより物体として扱われつつあった絵本たちは、ひさしぶりの得意顔で、そんなふうに言っているように見えた。

こどものころ図書館にいりびたっていた自分としても、「やっぱり本は、こうでなくちゃあ!」という気持ちでテンションがあがり、その勢いで他のおもちゃも片付けることができた。やっぱ本棚って、いいよなあ。

おもちゃ棚のほうも、音の出る楽器はここ、おままごとに使えそうなグッズはここ、おえかきセットはここ……と、いちおう分けて関連アイテムを入れていく。娘にもそのうちわかってもらえることを期待して、それぞれの棚に絵とひらがなのラベルを貼った。

いや、でも何より語るべきは、小さな棚をひとつ置いただけで、リビングの床面積が3倍くらいに広くなったことだ!

無駄に2つ出ていた机も、ひとつは別の部屋に移動。さらに床が広くなり、ちょっとしたキッズスペースくらいの雰囲気がでてきた。

「すごーい!広いねー!!」

「ねえ。床が広いと、気持ちが全然ちがうねえ」

思わず夫と顔を見合わせて笑う。

床に置かれていた絵本箱やおもちゃ箱はすべてなくなり、棚のなかに中身がおさまった。「横」に広がっていたものが、「縦」につみあがるだけで、こんなに床が広くなるなんて。

そして同じ「ごちゃごちゃしたおもちゃたち」が、棚のひとマスにおさまるとスッキリして見えるのって不思議。同色の枠で仕切られているだけで、整理されている感が出るんだなあ。おもしろい。

ああこんなことなら、もっとはやく棚を買えばよかったね。でもさ、引っ越すだろうからとあと1年待たず、いまこのタイミングで買ってほんとうによかったね。そこはナイス判断だったよね。そうだねえ。

そんな話をしながら、床の見える生活のスタートを喜んだ。

このリビングなら、休日の昼下がり、ごろんと3人で横になっても、だいじょうぶ。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。