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社員の年休取得を無制限にしてみた(前編)|BowLの軌跡

株式会社BowLは、沖縄でメンタルヘルス不調の方に「リワーク」支援を行なっている。人は、組織の中でも、その人らしく”自然体”で生きることができる。そう信じて歩むBowL社の日々の営みと実践知に学びます。

「沖縄に帰るなら、まっきーと会った方がいいね」

ちょうど1年前、東京で勤めていた時にお世話になっていたコーチに、出身地の沖縄に拠点を移すと伝えた時のこと。彼は、その場でメッセンジャーグループを立ち上げ、まっきーさんという方を繋いでくれた。

数ヶ月後、沖縄に戻り、最近リノベーションされたばかりという浦添のBowLに一歩足を踏み入れると、全面的に壁が取っ払われた広いスペースに、ハンギンググリーン(観葉植物)がつり下げられ、窓から太陽光が差し込んでいた。そこは、だれが利用者で、だれがスタッフなのか、まったく見分けがつかない、そんな場だった。

BowLのオープンスペース

BowLを立ち上げた荷川取さん(以下、ニカさん)、ニカさんと併走するまっきーさんと出会い、常に”自然体”でいる2人の姿に心地よさを覚えた。同時に「彼らの営みは、記録されないといけない」、そう感じた。

ということで、今回は、「共に自由になるためのフリーライター」として活動を始めたばかりの私、ムギが、株式会社BowLのまっきーさんとゆるく対話をしながら、彼らの目指す「働く人と組織はもっと共鳴しあえる」に向けた実践プロセスと「こぼれ話」を、複数回にわたって記録していきます。


「個が活きる組織づくり」を目指して


BowLの創業背景には、うつ病を患って休職したニカさんの友人の存在があった。彼の存在がきっかけとなり、ニカさんは、2013年よりメンタルヘルス不調の方に「リワーク」支援を始めた(詳細については、BowLのHPをご参照のこと)。

「リワーク」支援を行う中で、一度は復職しても、再発してまたBowLに戻ってくるケースも多かったという。組織内で不調になった個人がコンディションを整えて、組織に帰っていけばいいというだけの話ではなかったのだ。対個人への「リワーク支援」の限界が見えると同時に、対組織への「ウェルネス経営支援」の可能性が開けた。組織自体のコンディションを整えることも必要だったのだ(後の一般社団法人ポリネ設立につながる)。

自社においても、BowLのメンバーが、その人らしく”自然体”で生きることができる場であることを願って、組織(枠組み)の構築と脱構築を、彼らは日々繰り返す。

私がBowLに惹かれる理由の一つは、彼らの誠実さだろう。それは、彼らの徹底した言行一致の姿勢から滲み出る。本当に稀有な存在だと感じる(「鬼滅の刃」の主人公・炭治郎が人気なのも、きっと同じ理由なんじゃないかな)。


年休取得を無制限に!「ふり〜ホリ〜」制度(自分を大事にする休み方改革)


ーBowLは、2013年の創業時から代表取締役以外の役職がなく、代表のニカさんも当初からほとんどの権限を手放した状態でスタートしているのが特徴的ですよね。そこには、どんな思いがあったんですか?

まっきーさん@浦添のBowLにて

個人に対して「主体的になれ!」って、組織はよく言ったりするさ〜。でも、その一方で従業員を管理するよね。なんかこれ、矛盾してると思うわけさ。まずは管理してる側が権限を手放さない限りは、その人のその人らしさが開かない。だけど、管理を手放すってどういうことなのか権限を委譲・分配するってどういうことなのか。これを、ずっと考えながらやってきたわけよ〜。

「組織」っていうのは、個人が生きる上での枠組みだと思っていて、採用、評価、給与賞与、年休(年次有給休暇)とかいろいろあるけど「何からやる?」って考えたときに、まずは年休の管理を手放したいねって話になったんだよね。

ー「年休の管理」を手放すところから、BowLの旅路は始まったんですね。それまでは、年休取得は管理されていたんですか?

もともと、管理職のポジションはなかったんだけど、年休取得のためには「コンコンコン」って社長室のドアを叩いてニカさんに申請しに行ってたんだよね。これってちょっと、どきどきするさ(笑)。「ダメ」とは言われないんだけど、たとえば、仕事が上手くいってない時に「俺、休みとっていいのか・・・?」って内側から勝手に声が出てくるじゃん。そういう葛藤をしないといけないから、なかなか年休が取れなかったっていうのもあったんだよね。ここから変えてみようってなった時に、「年休は自由に取っていいから、俺に聞かんで(聞かないで)」って、ニカさんが言い出したわけよ〜。

チームの中でのコミュニケーションに委ねる「相互承認制」を導入

最初に試したのは、自分の所属するチームのメンバーから了承をとれれば、自由に年休を取っていいよという制度。これって例えば、4名のチームがいて、4名全員が休んだら事業って成り立たない。だから、最低でもこの人数は必要だよねっていうのをチームで決めて、それを割らない形で、お互いにコミュニケーションをとり合って休めたら、事業は成り立つ。これをやってみて、少しずつ年休取得率が上がってきたっていうのは一つの成功体験だった。でも、まだぬるかった。

これさ、どんな人から先に、自由に年休を取り始めたと思う?

答えは、自分に自信のある人、もしくは、自覚のない人だったわけ。
「いえーい!」ってそのままどんどん休み取っちゃって(笑)。結果、その人の仕事がおろそかになるっていうケースもあってさ〜。

「相互承認制」にセルフチェック事項を追加

チームで仕事しているからさ、自分や他のチームメンバーの業務に影響を与えないように、ちゃんとセルフリーダーシップを発揮して欲しいんだよね。だから、そのためのセルフチェック事項をつくったわけ。例えば「4名以上の内勤者がいる」「支援体制に影響がない」とか。これで、少しずつ改善されていった。けど、それでもやっぱり(年休を)取れない人は取れない。家庭をもってる人と比べて、独身の人が休みを取りづらいとかね。もっと、誰でも年休を取っていいという状態にしたかった。

1時間単位で年休取得ができる「時間休制」を導入

当時は、例えば、子どもの三者面談とかがある時とかは「半日年休」を取ってたんだけど、時間休を取れるようにしてみたわけ。一時間単位で年休をとって、必要なときだけ抜ければいいさ〜ってね。その人の年休が一気に減ることもないし、チームとしても穴が少なくなる。そしたら、家庭持ちの人だけじゃなくて、独身の人でも「この後、歯医者に行きたいので、午後2時間年休をとります」とか「出先から直帰したいので、残り一時間年休をとります」とかっていう、時間単位での年休取得率が上がっていったわけ!

年休取得の日数を無制限に

そうして、最終フェーズ。もう大丈夫だろうと思って、年休取得の日数管理をなくして、無制限にしたわけ。これはかなり思い切ったよ。「誰かが30日も40日も年休取りまくったらどうする!?」っていう心配も正直あった(笑)。だけど、この辺りから「(メンバーを)信頼してみよう」という言葉が出てきたんだよね。「管理」の反対は「信頼」だと思う

結果的にフタを開けてみたら、全体的な年休取得率は上がって、それでいて無茶してる人が居なくなってる(=年休取得が偏っているわけではない)ということが見えてきた。これさ、なぜかというと、結局、自分のチームの承認を得ないといけないさぁね。私が休みを取るってことは、いつかあなたも休みを取るということ。だからお互いにそこらへん助け合わないと休みとれない。これが働いたおかげで、みんなで(年休を)とっていくっていう状況が生まれたのかな、と思っている。

(前編おわり)

後編では、BowLが年休取得を無制限にする試行錯誤から浮かび上がってきた「セルフリーダーシップ」「私はあなたで、あなたは私」というキーワードを中心に掘り下げていきます。



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