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#35ジャワ語 Japaneseのお隣さん

アプリで国籍をどうやって見分けるか。

最近海外からの旅行者と旅行先の現地市民をマッチングさせるアプリの登録をしてみた。そのため、自分の興味がある国や文化圏から旅行者が来るかどうか確認するのが最近の楽しみの一つだ。自分の興味がある国からお客さんが来るとなれば大喜びである。

自分が興味持っているところから来る旅行者なのかは二つの点を確認すればすぐわかる。一つはプロフィール画面の「国旗のアイコン」。来訪元の国の国旗がユーザーについている。たまに勤務先の国から日本へ旅行に来るケースなどもあるが、おおむねそれで判断がつく。もう一つは「話す言語」。旅行者のプロフィールには自分のコミュニケーションが取れる言語をいくつかリストアップしておける権利がある。そのため、その言語を見て、出身の国や民族などにあたりをつけることができる。

ただ旅行するのは外国人だけではない。国内の日本人だって旅行がしたい。さらにSNSなどを駆使して、旅行先の地元の人と交流をしたがる好奇心旺盛な人もいるのだ。

そんな日本人もマッチングアプリに登録して、私の住んでいる町の将来の訪問者として、あるいは今旅行中の訪問者の一覧の中にリストアップされることがある。その中にときどき「国旗のアイコン」は日本🇯🇵であるものの、コミュニケーション用に見慣れない言語が登録されていることがある。その言語名が「Javanese」、つまり「ジャワ語」である。

Japaneseのお隣さん

ジャワ語はインドネシアを構成する島の一つジャワ島を中心に話される言語で、インドネシア語の親戚である。英語では「Javanese」となり「日本人」「日本語」を表す「Japanese」と一文字しか変わらない。そのため、英語を使用したインターネットの選択画面では何かと隣接する、いわばJapaneseのお隣さんになっている。

これはよくミスの元になる。携帯電話やパッド上で指をスイスイ動かしていると何かの拍子で選択がずれてしまい「Japanese」を選んだつもりが「Javanese」になってしまったことがある。多分、私以外にも相当間違える人がいるのだろう。Wikipediaにも「Japaneseと混同しないように」と注意書きが添えられているくらいだ。

https://en.wikipedia.org/wiki/Javanese_people (2023/9/14閲覧)

ジャワ語は英語の綴りは日本語そっくりだが、全く系統を異にする別言語だ。

ジャワ語は日本から見れば島の名前はともかく、その言語はほとんど知られていないと言っていいだろう。出版されている教科書なども限定的なため、日本人にとって学習環境が整っているとは言い難い。そのため、どんな言語か眺めてみることも難しい。

例えば書籍として出版されているジャワ語の関係書は下記の『ジャワ語の基礎』を含め3冊しかない。

しかしながら、エスノローグによればジャワ語は世界で28位の話者人口を抱える言語であり、話者数は約6千8百万と、決して少数言語とは言えない(1)。また、ジャワ人はインドネシアの民族構成の中でも最大規模であり、バリ文化と並んでジャワ文化はインドネシアの代表格と言っても障りがないのではなかろうか。

バリのワヤン・クリ

例えばワヤン・クリという人形劇はジャワ文化の代表の一つだ。インドの古代の叙事詩をダランと呼ばれる人形師が操って劇を演じるのである。言葉は分からなくてもYoutubeでダランが演じた劇が見られるので、興味ある人は見てみることをお勧めする。現代ではダラン兼ユーチューバーというのもありえるのだろうか?

ところで、面白いことにワヤン・クリは演じられる土地の言語を使って演じられるので、インドネシア語だけでは物語が理解ができない。民族音楽のオーケストラがダランについて、人形師ダランが器用に人形を動かし、ジャワ語で古代インドの物語を再演する光景はまさにジャワの総合芸術と言える。ジャワ語はインドネシアの言語文化の奥に触れるための鍵なのだ。

ジャワ語の特徴

実はジャワ語は英語の綴りが日本語とよく似ているだけではなく、似た共通点があることがよく知られている。それは「敬語」である。

ジャワ語には日本語同様に敬語がある。分類法によるが、大まかに分けて非敬語であるンゴコ(Ngoko)体、丁寧語であるマデャ体(Madya)と尊敬・謙譲語であるクラマ(Krama)体がある。ただし、日本語と大きく異なる点としてジャワ語の敬語は日本語同様に異なる語彙を使用するケースもあるが、母音や子音を交替させることにより敬語のレベルを変える、という特徴が挙げられる。これらの特徴については参考文献(2)のハサナーの研究にてよくまとめられているので、興味のある方はそちらを見ていただいた方が良いだろう。

インバウンドだけでなく

最近はコロナの新しい感染拡大が確認されたからなのか、それともインドネシアの休暇事情なのかジャワ語を母語とするインドネシア人が来日しなくなったーいや、むしろインドネシア人の来日が少し減ったーように思う。実は冒頭のアプリでは以前、ジャワ語を第一言語として掲げたインドネシア人が大挙して、来日予定にリストアップされていた時期もあったのだが、今では閑古鳥が鳴いている。

観光地としてグローバル化を掲げている我が町なのだから、もう少しインドネシアの人が観光しやすい環境を整えれば、もう少し旅行者が増えるのではないかと思うのだが、日本語には敬語があるが、観光客への態度としては実質、ドライなのが辛いところ。単なるインバウンド需要のお客様としてだけでなく、アジアの重要文化という点でもジャワを眺めていければいいのではないかと切に思う。

参考文献

(1)https://www.ethnologue.com/insights/ethnologue200/
(2) ハサナー、イスマトゥル『ジャワ語と日本語の敬語法の対照研究 ー絶対的敬語法と相対的敬語法ー』 
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/sis/10/0/10_47/_pdf

写真

(1)Photo 230425122 | Jawa People © Aqil Zamani | Dreamstime.com
(2)Photo 84454881 | Wayang Kulit © Jatmika Jati | Dreamstime.com


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