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江戸時代、犬は旅に出かけていた

私がここで書く話には定期的に親族が出てきます。
今回は伯母に聞いた話の中でも特に興味深かった「お蔭参り」の話についてご紹介したいと思います。

江戸時代、まだ交通機関も通っていない時代。
日本国民は全国を徒歩で移動していました。

そんな頃に流行っていたのが、お蔭参りだそうです。

お蔭参りに関する絵画を見てみると、気になる点が少々...。


月に数百万人が参拝していたお蔭参り

江戸時代、お蔭参り(おかげまいり)のブームが巻き起こりました。
お蔭参りとは群衆で伊勢神宮を参拝することです。

なぜ伊勢神宮を参拝するのかというと、伊勢神宮に祭られている天照大神は商売繁盛の守り神であり、農家の間では五穀豊穣の守り神でもあったと言われていたからなのだそう。

☆裏話になりますが、親や主人に無断でこっそり旅に出ても伊勢神宮の参詣をしてきた証拠品である、お守りやお札等をを持ち帰れば、おとがめは受けないことになっていたというのもお蔭参りが人気であったという理由に含まれるようです。

参拝方法について
江戸時代なので交通機関は無く、国民は全国各地から歩いて伊勢神宮に向かいます。

江戸から伊勢神宮までは片道15日間。名古屋からでも3日間、大坂(大阪)からであれば5日間、陸奥国釜石(岩手)からだと100日はかかったと言うから驚きです。

各村やグループの中で「代参」と呼ばれる代表者を決定し、代表者がグループ全員の願いを受け取り、伊勢を目指します。(お伊勢講という、主にくじ引きで決めていたそうです)。
1人では伊勢までを目指すお金が用意できずとも、グループ内で金銭を出し合うことで伊勢に向かうだけのお金が集められたそうです。

代参を立てているはずなのに、それでも月に数百万人が参拝していたというから驚きます。

参考⇒ お蔭参り伊勢神宮ご朱印帳


気になった点

ここで今回この話をしようと思った事柄についてお話しします。

お蔭参りを行っている群衆の様子は今も絵画として遺されています。
有名な風物画の巨匠である歌川広重が描いた「伊勢参宮・宮川の渡し」や、「東海道五十三次・日永村追分」は正にお蔭参りを行っている様子が描かれた作品です。

「伊勢参宮・宮川の渡し」の作品を見てみてください。人により気になる点は異なると思いますが、ある動物が描かれています。
作品参考ページはこちら⇒ お蔭参り

作品左下あたりに、白い犬が描かれていることに気がつきましたか?
「この犬は一体!?」
という点が今回の話のポイントです。


おかげ犬

実は病床にある人など何らかの理由で参拝できない人は、「代理参拝」という形で飼っている犬が主人の代理でお蔭参りへ出向いていたそうなのです。

初めてこの話を聞いた際は、
江戸時代は犬が旅に出かけていた」。という風に話を聞いたので、非常に驚きました。

街中では代理参拝の犬であることがわかってもらえるように、道中でかかるお金や伊勢参りの旨を書いたものをしめ縄で犬に着けて向かわせたようで、実際に絵画の中でも犬の首元にはしめ縄が描かれていました。

この代理参拝を行う犬のことを「おかげ犬」と呼び、伊勢参宮で販売されている犬のグッズは基本的にこのことに由来しているのだとか。

おかげ犬のグッズのほとんどが白い犬であることの理由のひとつとして、歌川広重が描いたおかげ犬が白い犬種の犬であったことや、物語として遺されている秋田県に存在した「シロ」というおかげ犬が元になっているとのこと。

ただ実際のところ、各家庭で飼われていた犬を代参でお伊勢参りをさせたので、おかげ犬の犬種は特別決まっていなかったそうです。

※おかげ犬の絵画やシロの物語も掲載されています⇒ 伊勢神宮ご朱印帳


飼い犬をお蔭参りに行かせることはできるか?

代参させるために飼い犬にしめ縄で着け持たせたお金は、不思議と盗まれたり奪われたりといったことは無かったようです。

お蔭参りのメンバーは参拝仲間となった犬にエサをあげたり寝床を用意するなどして、サポートを積極的に行っていたということを聞くと非常に心が温まりました。
特に犬好きの方が参拝をしに行く際、メンバーの中に運よくおかげ犬がいたら、さぞかし嬉しかったことでしょう。

ここでふと考えました。
ご家庭で飼っている犬を、お蔭参りに行かせることはできますか?

私は気持ち的には止めておこうかなと思う部分と、あえて行かせてあげたいと思う気持ちもあります。
これぞまさに「可愛い子には旅をさせよ」なのか?と思いましたが、私の中では少々意味が異なります。

「可愛い子には旅をさせよ」ということわざでは、“我が子が可愛いなら親元で甘やかさず、世の中の辛さや苦しみを経験させたほうがよい”ということを指していますが、江戸時代は今の時代のような交通機関がありませんでした。

交通機関が無いと、遠く離れた景色を見る機会も滅多に無かったと思います。
そこで、「自らは参拝に行くことができないけれど、せめて犬だけでも見たことのない景色を見て来てはどうか?」と、飼い犬を散歩に連れて行ってあげられない状況から、お蔭参りを考える飼い主もいたのではないかと思いました。(当時から犬の散歩という文化があったのかどうかはわかりませんが)。

あと、人間と同じで性格は犬や犬種によってそれぞれ異なるので、代理参拝をさせる犬であればそれなりに「うちの子なら大丈夫!」と思えるような子を向かわせたのではないかと思っています。


伊勢神宮関連で犬がデザインされたお土産をもらったことがあるという方はいらっしゃいますか?
おそらくそれが「おかげ犬」です。





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