見出し画像

「不味いお土産」はなぜ生まれる

食のブランディングを支援している仕事柄、地方をまわると必ず道の駅やお土産屋に立ち寄ります。

そこには趣向を凝らしたパッケージの商品がずらり。昔に比べて地方の隅々までデザインが染み渡ったなぁ、と感慨深くなります。20年前、デザインの世界を目指したのはこういった売り場を見て「もっとこうすれば売れるのに…」とか「何でもっとこだわらないの…」とか思っていて、この世の中はデザインでもっと楽しくなると信じていたから。

そんな一昔前はデザインさえ良ければ売れるのに!という商品が多かったのだけど、今はそう感じることも昔に比べたら少なくなりました。そういう意味ではデザイナーを目指した頃の理想の世界は現実のものに近づいているのかな?

しかし、今回話がしたいのは外側ではなく中身の話…

中身が大事


美味しいお土産に出会える確率

デザインは素晴らしいものばかり。
見ているだけでどれも楽しく、地域の特産品があらゆるものに形を変えていたり、そこでしか買えないご当地感満載のパッケージだったりで思わず手が伸びます。

企画開発にも携わる仕事柄、「これはリサーチなのだ」と自分自身に言い聞かせ、買い物かごに小気味よくポンポンと投げ入れます。個人的な食べたい欲求が完全に勝り、最早ただのショッピングになっていても気にしません。だって食べたいんだもん。

そうして買ってきた商品は事務所に持ち帰ります。
一応メモなんかも用意しながら、それらを一気に食べ比べるという辛い仕事をこなします。

後でデザインの参考にするので、ウキウキしながら見た目を保つためカッターで慎重に開封し、期待と共にいよいよ口に運びます。

「あれ…なんか…思ってたのと違う…」

まぁ、そんなこともあるかと気を取り直して別のお土産を食べてみます。しかし…今度は不味い。微妙なんてレベルじゃない…明らかに不味い。

そうこうしている内に全ての試食が終わってしまうのです。そう、お土産として売られているもので「美味い!」と膝を叩きたくなるようなものに出会える確率は非常に低い。

ほとんどのお土産は美味しい…といえば美味しい…かな?という、どこかで食べた様な想像の域を出ない味なのではと感じます。1割くらいは本当に、腹立たしいほど、本気で、不味いのです。

「不味い」にもいくつか種類があると思っていて、海外のお菓子など食文化の違いから日本人の口に合わないもの(フィンランドのサルミアッキなどが有名)や、北海道のジンギスカンキャラメルなど最初から「奇抜さ」を売りに企画されたものはここでは省きます。今回指摘したいのは「味の追求などされていないであろう地産品入れときゃ売れるんじゃね?的な安直なお土産の不味さ(個人的見解)」の事です。

なぜこんな事が起きるのでしょうか…?
その原因は「お土産」という商品をつくる構造にありました。

まずいわ…


作るプロで作れるものを作る

道の駅などに置いてあるお土産品、製造所と販売者が異なる場合が多いです。つまりOEMやPB商品ということです。

それ自体は普通ですし全く悪くありません。むしろ素材を作るプロである生産者と、商品を作るプロである製造所はもっと繋がりを持つべきとさえ思います。

しかしここで問題なのは、オリジナル商品を作りたい生産者と製造所だけで話が進み、「作るプロ同士で作れるものを作る」ケースが非常に多いのです。本来であればここに「売る」プロが介在すべきなのではと思います。

製造所にもよりますが、例えば生産者側から特にレシピの持ち込みがない場合は社内にあるレシピで素材だけ変えて商品化する事が多いです。新しいレシピを開発するのにもコストがかかりますし、そもそも最初から「ジャムを作る」など決まっていたりして手段が目的にすり替わっていたりします。とりあえず作る。どこで誰にどのように売るかは、まぁ…出来てから考えようやとばかりに。

かくして「どこかで食べた事のある」商品の出来上がりです。

美味しくも不味くもないならまだ良いのですが「不味いお土産」は目も当てられません。たまたま相談した製造所に技術も情熱もなければ当然そのような商品が生まれてしまいます。

一次産業だけでは儲からないから六次化すべきだと行政主催のセミナーやよく分からんコンサルタントに知恵をつけられ、言われるがままに地域でOEMを引き受けてくれる製造所に相談し、とりあえず商品化してみる。しかし、そもそもOEMなので利益率が低い。しかもデザインさえ目立てば売れるとばかりにパッケージデザインには力を入れて資材にも費用をかけてしまう。それが拍車をかけ在庫の山を前に二度と六次化に手を出すまいと心に誓う…

こんな事が全国で起こっているのです。
しかしこれらはただの生産者の失敗で済まされてしまい大した問題にもなっていません。でもそういう苦い経験をした生産者は山の様にいるのです。

よく分からんコンサルだ!逃げろ!


みんなで遊んでいる場合じゃない

毎年の様に起こる異常気象や災害。
そもそもの土地の規模感の問題。
差別化しにくい種苗の問題。
天候に左右される労働生産性の低さ。
見た目で価格が決まる歩留まりの悪さ。

このような様々な要因で儲かりにくいと言われる農業の世界。そんな中で利益を生まなければ生き残れないとチャレンジする商品化は応援すべきだし、本来絶対に失敗させてはいけません。

しかし、残念ながらよく分からんコンサルタントに食い物にされてる生産者を見聞きします。ご当地お土産をプロデュースする名目で全国を行脚しているコンサルタントもいるらしく、そのほとんどが失敗していてもいくつかのヒット作で声がかかる、という話も耳にします。失敗の原因は当然作り手側にもあるのですが、それにしても良くない話が多すぎる。

生産者自身がビジネスに強くなりこの様な失敗を防ぐべきという意見はごもっともなのですが、それにしても周りでもっとサポート出来るのではないかと思うのです。せめて生産者と製造所との間に「売る」プロや「食」のプロはもっと入れるのではないかと。

新型コロナウイルスや海外の情勢により輸入が途絶えたり価格が高騰するのを経験した私たちは、改めて食料自給の大切さに気付かされたはずです。日々の食事を支えている生産者さんがきちんと儲かる仕組みで持続していけなければ我々の食は簡単に危機に瀕すると身を持って体験しているはずなのです。

何が起こるか分からない時代に生きてる私たちに、地域の食で遊んでいる暇はありません。日本の食を支える生産者さんが簡単に倒れてしまわない様にするためにも、どこにでもある様な売れない商品を簡単に生み出してしまう無駄でしかない仕組みは根絶させる必要があると感じています。

売るプロはどこかしら…


最後に

これを読んで頂いているクリエイティブディレクターやクリエイター、マーケター、レシピ制作が得意な専門職の方、その他生産者さんと日頃から付き合いのある方々、ご自身のまわりで生産者さんがオリジナル商品を作りたがっていたら是非一度話を聞いてあげてください。そして「売る」ことが後回しになっているプロジェクトであれば御本人のためにもブレーキを踏んであげてください。

本当に売れるかどうかは最後まで分からない部分はあります。しかし、その確率は上げることが出来るし、自ら売れない商品を生み出してしまおうとしている生産者さんは減らすことが出来ると思っています。

再び自由に旅を楽しむことが出来るようになりました。お土産はその土地の思い出に深く関わる重要なアイテムです。

それが不味いなんて悲しすぎるし地域にとってもマイナスでしかありません。デザインも良い、味も最高!という旅の思い出を更に良きものにしてくれるお土産が全国に広がってくれることを願います。そしてその一助になれるように私も自分の仕事を頑張っていきたいと思います。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

こんな私をサポートしてみようかなと思った心優しいあなた、よければその費用は能登地震の被災者の皆さまの為に使ってあげてください。