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ティファニーで朝食を(1961)

目にも楽しい映画的な魅力が詰まった
オシャレでコミカルなロマンティックコメディ

“銀幕の妖精”と呼ばれた清純派のオードリー・ヘップバーン小悪魔的なヒロインを演じたロマンティックコメディです。

原作は実際に起こった殺人事件を題材にした『冷血』('66年)など、独創的な作品で異彩を放ったアメリカの作家、トルーマン・カポーティの中編小説。映画は原作とはまったく違うようですが、映画ならではの演出が見事にハマり、“映像の力ってすごい”と思わずうならされました。

まずは映画の冒頭シーンが本当に素敵です。まだ人気のない明け方、タクシーから下り立ったオードリーがニューヨーク五番街に鎮座する宝石店ティファニーの前に佇み、クロワッサンを頬張りながら、窓越しに店内を眺めます。そこにクラシカルなバラード『ムーン・リバー』が流れると、シャレた雰囲気の中にも、物悲しさが漂います。

マダム巻にサングラス、ジバンシーのスリムなブラックドレスに身を包んだオードリーの美しくも、儚げな姿に目を奪われます。

【ストーリー】
玉の輿を狙う娼婦、ホリー・ゴライトリー(オードリー・ヘップバーン)は、金持ちの男性を射止めるために夜な夜なパーティに繰り出し、「化粧室へ行く」と言っては男性たちから50ドルをもらい、生計を立てていました。
ある日、ホリーの住むアパートに、自称作家のポール・バージャク(ジョージ・ペパード)が引っ越してきます。何年もヒット作に恵まれないポールは裕福なマダム「2E」(パトリシア・ニール)の愛人をしていました。
ホリーはポールに「大好きな兄フレッドに似ているから」と親近感を抱き、ポールは屈託のないホリーが気になります。
しかし、そんな2人の前にホリーの夫ドク・ゴライトリー(バディ・イブセン)が現れます。実は南部出身のホリーは14歳でドクと結婚したものの、自由な暮らしを求めて、家を飛び出していたのです。

物語の中心になるのは、ホリーとポールとのプラトニックな愛。ともに愛のない結婚相手や愛人のいる“すれた”2人の愛の行方は、笑ったり、切なくなったりとひねりの効いた展開で、最後まで目が離せません。

脚本を手がけたのは、『七年目の浮気』(’55年)のジョージ・アクセルロッド。監督は『ピンク・パンサー』シリーズのブレイク・エドワーズ軽妙洒脱なコメディ作品が得意な2人は、カポーティの原作ではシニカルに捉えられていた男性を渡り歩いて生き抜く女性ホリーをコミカルに描き、小粋なロマンティックコメディへと変えました。

14歳で結婚しなければならなかったホリーの過去に、当時のアメリカ特有の重い事情を感じますが、映画でのホリーは自由奔放で、明るく、愛らしいキャラクターとして描かれています。

結婚にお金を求めたり、恋人でもないのにポールのベッドに潜り込んで眠ったりと、ともすれば、軽薄で“あざとい”女性に見えてしまうホリーですが、オードリーがあっけらかんと演じて本当にキュートです。

カポーティはホリー役にマリリン・モンローをイメージしていたようですが、やはりモンローでは軽すぎたでしょう。ホリーは明るいだけのキャラクターではないのです。

自らを犠牲にし、他人の幸せのために生きてきたホリーが、“自由”を渇望する姿に思わず共感してしまいます。自由を得るための手段がお金だったわけですが、ポールと出会ったホリーは自分の考えが間違いだと気づきます。そんなホリーの揺れる心情を、ホリーの飼い猫“(名無しの)キャット”を使って見事に表現したクライマックスシーンが秀逸です。

町でさ迷っていたネコを拾ってきたホリーは名前を付けず、ただ“キャット”と呼んでいます。まるで人生をさ迷う自らを投影したようなホリーの自虐的な行為の犠牲になってしまった哀れな、“名無しのキャット”。。。

でも、ホリーの部屋のシーンの度に登場するキャットは、ホリーに邪険にされても、ひたすらホリーにじゃれついていきます。その姿がいじらしく、たまらなくカワイイのですが、クライマックスシーンでは、そのいじらしさが最高潮に達し、忘れがたい名演を見せてくれます。

そして、忘れがたい名、ではなく“迷”演といえば、アパートの住人のユニヨシ(ミッキー・ルーニー)。コメディリリーフとして登場するユニヨシは、当時のアメリカ人が抱く典型的な日本人像に仕上げられています。かなり強烈なキャラクターなので、否定的な声が多いようですが、自由奔放なホリーと神経質なユニヨシとの丁々発止のやり取りは映画を楽しく盛り上げます。

ジバンシーをまとったホリーのエレガントなファッションも見応えたっぷり。オシャレでユーモラスでハートウォーミングな本作は、観る者を楽しませたい、という想いに溢れた、素敵な作品です。
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