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なくしもの癖の話

長女はとにかくものを失くす。

先日、セントレア空港に姪っ子をお迎えに行った時のことだった。
姪っ子の到着を待つ間、空港内に新しくできたチームラボのテーマパークで少し遊ぼうか、と義母が言った。
ジャンボジェットが薄暗いパーク内にどかんと据え置かれていて、その中を探索したり、その周りをきれいなプロジェクションマッピングが彩ったり彩らなかったりしていた。
でも、姪っ子の到着まで時間が潤沢にあるわけでもなく、末っ子と私と義父はパークの外で待つことにして、長女と息子が義母と入場した。
そのとき長女が片手に白と黒のもようの、犬のぬいぐるみを持っていた。
長女はなんでも持って歩きたがる癖がある。
持って行っては失くすので、大事なものは持ち歩かないように言ってるのに。
「それ、持ってくの?!失くさないようにね」
私が言うと、「うん」と強く頷いた。入場ゲートのお姉さんも、中は暗いから失くさないように気を付けてね、と後押しした。

失くす確率私の目算では75%。
かと言って、はなから信用しないのも母親失格のような気がして、それ以上は何も言わなかった。信じるのも疑うのもタダだしね。タダならお互い気持ちがいいほうがいい。

自信満々に「だいじょうぶ!」と言っていた長女は、テーマパークを出て、合流したとき、ばっちり犬を持っていなかった。ほら、もう。

ただね、私もすぐにものを無くすので、彼女の気持ちが痛いほどわかるのだ。
注意が散漫だから、手のひらの中にあるもののほとんどは、あっという間に意識の外側に追いやられてしまう。
なので私は、手に持つものは原則ひとつまでと決めている。
なにか別のところに気持ちがフォーカスすると、無意識に手のひらの中のものをリリースしてしまうのだ。目的しか見えない。

「だから言ったでしょ!」

と言いつつも、気持ちが分かるだけにほんとうは胸が痛い。
きっとあっちこっちに興味を惹かれるものがあって、夢中になったんだろう、と容易に想像ができる。
そして、気に入っていたものをなくす気持ちも痛いほどわかる。
私もクマさんのお人形がワッペンみたいにくっついた、ギンガムチェックのウエストポーチをなくしたとき(五歳)はほんとうに悲しかったもの。
そんなふうに、もう二度と会えないのかと地の果てまで落ち込んだことは一度や二度じゃない。
だからぷりぷりしながらもつい助け舟を出してしまう。
義父や義母は諦めなさい、というスタンスだったから、そんな私を甘いと思っただろうか。

テーマパークを出て、もう空港まで来てしまっていたので、空港のインフォメーションで、事情を話したらすぐにくだんのテーマパークへ電話をしてくれた。
そして、すぐに、「ありましたよ」と受話器を持ったまま、にこやかにお姉さん。よかった。やさしい。

このなくしもの癖って、いったいどうやったら治るんだろうか。
私だって35歳にもなってこのありさまだから、どうしようもないと言われればそれまでなんだけれど。

対して、息子と末っ子は手元が堅い。
気に入りのものを持っていても、ちゃんとどこに置いたのか覚えているし、現に、この日だって末っ子は大好きなスペイン村のお人形を持っていたのだけれど、トイレで置いたり、ちょっと私に持たせたりしてもちゃんとその都度用事が終わると「ちょうだい」と言いに来ていた。
息子もそうだ。
彼は力がいちいち強いのでなんでもすぐ壊してしまうけれど、失くすことってほとんどない。そもそも大事なものはめったに外へ持ち出さないという手堅さもある。

私は長女の気持ちこそ分かれど、失くしもの女王なので息子と末っ子が不思議で仕方がない。こんな小さい脳みそがどうしてそんなにものごとを整理して考えられるのかしら。
私なんて、例えば、家の鍵をかけた後に忘れ物があったとする。
車に乗り込んでから、「あ、忘れ物した」と思い出す。家の鍵を持って、鍵を開けるところまではちゃんとできる、大人だしね。
そこからが問題。家の鍵はここにかけるのですよ、というフックが玄関にはあるのだけれど、気持ちが「忘れ物」に向かっているとどうしてなかなかこのフックに意識が向かないのだ。握ったままだったりもするし、鍵穴にさしたままだったりもする。忘れ物をとるためにテーブルの上にぽいとおいていったりも、当然する。
これが私にとって、日常的な難所なのだ。
如何せん、うっかりを背負って35年だから、忘れ物をしないというのがもはや難儀。忘れ物をすると、たいていセットで鍵を見失う。
忘れ物を手にしてから、はて、鍵がない…と大慌てするのを毎日のように繰り返している。不便な頭に嫌気がさす。

そんなわけだから長女のことは、とやかくは言えるはずがない。
でも、彼女にはその特性を知って、なるべく手には何も持たないという母の知恵をこれからしぶとく伝えていくつもり。
失くしたものを思って泣くのはつらいんだよね。ほんと。


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