同じメダルでも全く違うもの
10月4日。2021年のノーベル生理学・医学賞が、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校のデービッド・ジュリアス教授と米スクリプス研究所のアーデム・パタプーティアン教授に授与されることが決まりました。
授賞理由は「温度と触覚の受容体の発見」
受賞に至った研究について、生理学研究所の細胞生理研究部門の曽我部隆彰准教授は非常にわかりやすい解説をされていました。
ジュリアス氏については、
「とうがらしを食べて人は辛いと感じるが、どの受容体が、とうがらしの辛み成分のカプサイシンを感じているのかは、誰にもわかっていなかった。デビッド・ジュリアス氏は、この辛み成分を感じ取るセンサーを世界で初めて見つけた。また、このセンサーは、とても熱い温度を感じるセンサーでもあることを同時に突き止めた。ひとつのセンサーが全く違う感覚のセンサーとして同時に機能していることも世界で初めて見つけた」
と述べて、
もう1人のアーデム・パタプーティアン氏については
「触った感覚、触覚を感じ取るセンサーや、涼しいと感じるセンサー、わさびなどを食べたときに舌で感じるような痛みのセンサーも見つけた」
と実に明快な解説です。
ジュリアス氏が発見したのは、曽我部氏は『センサー』という言葉を使っていましたが、専門的には『受容体』というタンパク質です。
痛みや熱を神経細胞に信号として伝える『TRPV1』という受容体を発見したのは1990年代後半のことでした。
パタプーティアン教授は、微細な針で突いた際に電気信号を発する細胞から、圧力や触覚のように機械的な刺激を検知する受容体を発見したのです。
両氏の発見から温度や痛み、圧力などを感じるメカニズムの解明が進み、慢性的な痛みをもたらす疾患の治療などにも役立てられるようになったことが受賞に至った功績といえます。
受賞を報じるニュースとして、NHK、時事通信、日経新聞などは割合詳細な研究内容を伝えており、安心しました。
一方で非常に残念だったのが、TBSニュースでした。
研究内容にはほぼ触れておらず、言うに事欠いて
医学生理学賞は2018年に本庶 佑さんが受賞しましたが今回、日本人の受賞はなりませんでした。
と締めくくっています。
我が国の実態として、科学リテラシーの低迷、科学立国の凋落など叫ばれるなかですが、大手マスコミの科学に対するリテラシーの低さに愕然としました。
日本人はいませんでした。
いませんでした。
いませんでした。
いませんでした。
結局、日本人がどうだったかという話に留まるのが、TBSともあろう報道機関にあるまじきです。
(って、そもそももぅ五輪じゃないっていう話です。いつまでもオリパラ気分が抜けてないのかっていう…)
ノーベル賞も授賞式にてメダルが授与される点では、オリパラのようなアスリートのイベントと似ておりますが、その性質は全く異なります。
スポーツの場合、勝敗が明確に定義されており、同じルール上で競うわけです。ゆえにアスリートが目指すのは、タイムや技などになります。
一方、ノーベル賞は受賞基準が一律ではありません。研究テーマによって目指すゴールは異なって来ますし、ましてや狙ってとれる賞ではありません。
そして「受賞者が何処の出身か」ということよりも「研究が人類に対してどのように貢献したか」ということが評価されているのです。
したがって『日本人が』ということよりも遥かに『なぜ受賞に至ったのか』ということこそが重要なのです。
不特定多数に向けてニュースを伝える使命があるのならば、興味本位になるのでなく、まずは物事の優先度を理解することが非常に大事だと思います。
兎にも角にもマスコミは科学リテラシー向上のために貢献する姿勢が必要です。
おしまい
最後までお読みいただきありがとうございます。 いただいたサポートは麦チョコ研究助成金として大切に使用させて戴きたいと思います。