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「書」報せん 桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

1.おくすりの内容(どんな本?)

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or Bullet』角川書店
名称:小説含有文庫本
成分: #ミステリー #バイオレンス #中学生 #青春
内容量:201ページ
製造年月日:平成21年2月25日 初版発行
ご注意:暴力描写、グロテスクな描写があります。
               読書後にやりきれない思いに襲われる可能性があります。
こんな人におすすめ
 社会人三年目、今何かを頑張っている人、
 無力感に苛まれている人、夢がある人

【あらすじ】
 中学二年生の山田なぎさは自分の力で生き抜くための力が欲しくて、卒業後の進路は自衛官を志望。そんななぎさが通う学校に都会から海野藻屑が転校してくる。嘘つきで子供っぽい藻屑を最初はうっとうしいと思うも、だんだん藻屑の魅力に惹かれていく。

2.効果・効能(書評、読了後推奨)

 物語の最初に新聞記事の抜粋が出てきます。

十月四日早朝、鳥取県境港市、蜷山の中腹で少女のバラバラ遺体が発見された。身元は市内に住む中学二年生、海野藻屑さん(一三)と判明した。P5

 衝撃的な事実から物語の幕は上がり、時は一ヵ月前、山田なぎさと海野藻屑が出会う九月四日にさかのぼる。転校してきた藻屑は「ぼくはですね、人魚なんです」と初日の自己紹介でかまし、その日以降藻屑は「有名人の娘でお金持ち」「嘘つきで変な転校生」と言われるように。一方語り手である山田なぎさはクラスメートから「さめてるやつ」「飼育係だから世話好き?」と思われている。
 この二人について山田なぎさの兄、友彦は海野藻屑を「砂糖菓子の弾丸」と評した上で次のように言っています。

「なぎさが撃ちたいのは実弾だろう? 世の中にコミットする、直接的な力、実体のある力だ。だけどその子がのべつまくなし撃っているのは、空想的弾丸だ」P34

 この二人、一見真逆ですよね。なぎさは「さめていて」「世話好き」。なんか矛盾していて、自分が何者か、どういう人間かを確立していない。藻屑は「有名人の娘」「嘘つき」と、周りにレッテルを貼られている。
 この小説を読んで、二人を応援したくなります。何故か? それは、現実に対峙している彼女たちの、「弱者の生き様」に共感するからです。彼女たちは中学生で、どちらかというと子供。でも大人になることを強いられている。弱いながら、無力とわかっていながら戦っている。そこに共感する。何故かって、僕らは彼女たちと同じく現実と戦って、折り合いをつけて、大人になったからです。僕らも同じく実弾を求め、砂糖菓子の弾丸を撃ち続けたのです。
 ところで、藻屑が撃ち続ける「砂糖菓子の弾丸」とは一体何だったのでしょう?

「こんな人生、ほんとじゃないんだ」
「えっ……?」
「きっと全部、誰かの嘘なんだ。だから平気。きっと全部、悪い嘘」P159

  一見すると「嘘」「妄想」。でたらめで周りは認めないものです。でも本当は悲惨で、最悪な現実に対して「嘘だ」と指をさして否定し続けるための言葉だったのではないでしょうか。今よりも穏やかで平和な毎日を過ごしたい。今よりも少しだけいい日常を過ごしたい。夢を見ながらも日々戦う。大人になってからも同じように感じます。今の現状に満足しないから小説を書いている。勉強している。得意なことや興味のあることを探して、スキルを磨いている。明日はもっと上手くなっていたらいい、もっといい日になればいいと夢見ている。
 結局僕らも、いい明日を願って「砂糖菓子の弾丸」をぽかぽか撃ち続けているのかもしれません。

お金が入っていないうちに前言撤回!! ごめん!! 考え中!!