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サッカーのキック動作分析〜関節モーメントから効率的なキックを考える〜

サッカーの競技動作を考えたとき、ダッシュや切り返し、ジャンプなど様々な動作が行われますが、やはりサッカーと言えば、「キック動作」ではないでしょうか。

プロ選手のキックなどを見ていると動きがダイナミックでとても速いシュートや、カーブなどを描くきれいなシュートが見られると思います。

しかし、サッカーをやっている方はこのキック動作で下肢を痛める選手が非常に多く見られます。

サッカーにおける傷害について下肢の発生件数が87.7%、そのうち足関節が31.4%、大腿部23.3%、膝関節20%と報告されており、FIFAの大会においては全体の傷害発生のうち足関節が12~23%、膝関節が9~23%と報告されています。また、全傷害の約20~25%が再受傷である報告もされています。

もちろん、このデータはキック動作だけでなく、サッカーという競技全体で見たときにこれだけ下肢の傷害件数が多いことを表しています。

しかし、再受傷の多さからもキック動作は下肢を痛める大きな原因になると思います。

その為、今回はサッカーでメインになるキック動作を紐解き、体に負担の少ないキックを考えていきましょう。


サッカーのキック動作を考えていく前にまずは床反力身体重心について見ていきましょう。

身体重心とは、大腿部の真ん中にある下半身質量重心とTh7の位置にある上半身質量重心を結んだ線の真ん中に位置すると一般的には言われています。

体格などによって重心の高さに違いはありますが、足底から身長の55~56%の場所、S2にあると言われています。

床反力とは、接触面の全体に床から無数の力を受けることを言います。

簡単に言えば、足が地面に着いているとき体に帰ってくる力ということです。

60キロの質量の人が体重計に乗って静止をすると体重計は60キロを示します。

その人が膝を曲げて強く地面を押すと目盛りが大きく動くことがあります。

つまり、地面を大きく踏み込むほど床から返ってくる力は強くなっていきます。

この床反力についてジャンプを例に考えましょう。

高くジャンプするには膝、股関節、足首を曲げて、そこから一気に3関節を伸展させることで高くジャンプすることができます。

逆に、膝、股関節、足首をできるだけ曲げないジャンプはどうでしょうか?

これは床からの力がもらえず高くジャンプできないと思います。つまり、床反力が上手くもらえていないということです。

それでは以上の内容を踏まえたうえでキックを紐解いていきましょう。


・キック動作の位相
サッカーのキック動作は6つの相に分けられます。


① アプローチ期


軸足を踏み込むまでの相です。
ボールに対して斜めに走ることで骨盤帯の回旋力を使って効率よくボールに力を伝達することができます。

② テイクバック期


蹴り足が地面から離れて股関節の伸展が最大になるまでの相。

ここで重要なのが、

・クロスモーション(tension arc)の形成
・軸足の安定性

・クロスモーションの形成
クロスモーションとは蹴り足の股関節最大伸展、対側上肢の挙上です。

クロスモーションを行うには肩甲帯~体幹~股関節~膝関節の一連の協調性が必要になります。

右足キックの場合、蹴り足の大殿筋、対側上肢の広背筋の機能、さらに、腹斜筋の機能で上位体幹の左回旋、下位体幹の右回旋が必要になります。

クロスモーションができていない選手は予備伸長のないままキックを行うので股関節屈筋群や内転筋群に対して過度なストレスが生じて、鼠径部周辺や膝伸展筋の傷害を引き起こします。

・軸足の安定性
軸足が地面に接地した瞬間、床反力が生じます。

床反力は、足関節、膝関節後方、股関節前方を通って身体重心に返ってきます。

これをバイオメカニクス的な表現で言うと、外部足関節底屈モーメント、外部膝関節屈曲モーメント、外部股関節屈曲モーメントが働きます。

この3つが作用すると足関節は底屈方向へ、膝は屈曲方向へ、股関節も屈曲方向へ動いてしまいます。

対してこの動きを制御するために働くのが、内部足関節背屈モーメント、内部膝関節伸展モーメント、内部股関節伸展モーメントです。

足関節背屈のために、前脛骨筋、長趾伸筋、長母指伸筋が、

膝関節伸展のために大腿四頭筋が、

股関節伸展のために大殿筋、ハムストリングス、内転筋群が動員されます。

外部モーメントと内部モーメントが拮抗することで軸足は安定することができるのです。

この時、骨盤が後傾していれば床反力は股関節の後方を通り股関節伸展筋が機能しなくなり、

さらに、膝伸展筋に過度なストレスが加わり、成長期の選手であればオスグッドやジャンパー膝など障害に繋がってしまうこともあります。

その為、軸足の安定性はキック力を向上させるだけでなく、障害予防の観点からも非常に重要になります。


③ コッキング期


蹴り足のスイングが後方から前方へ変わる相。膝関節最大屈曲。

ここで重要なのが、

・軸足の膝関節
・腹斜筋の収縮

・軸足の膝関節
テイクバックとほぼ同じような考えになります。

ただ、テイクバックと異なる点は軸足の膝関節が軽度屈曲位ということです。

先ほどの話でも出てきた外部膝関節屈曲モーメントが強くなります。膝関節がテイクバックよりも屈曲するからです。

それを止めるために膝関節の伸展筋、つまり、大腿四頭筋が遠心性収縮で耐えようとします。

これに耐えるための大腿四頭筋の筋力、それにプラスで骨盤が後傾方向へ行かない大殿筋の筋力も重要です。ここで膝が屈曲しすぎたりする場合は筋力が弱い、ということです。

・腹斜筋の収縮
コッキングから腹斜筋の収縮増大が認められます。

コッキング~アクセラレーションにかけて右足のキック時、腹斜筋の活動で上位体幹の右回旋、下位体幹の左回旋運動が生じます。

つまり、テイクバックと真逆になります。遠心性収縮を行っていた腹斜筋がバネのように緊張を高めてからコッキングにかけて短縮性収縮を行います。

ジャンプでも高く飛ぶときは下腿三頭筋の遠心性収縮から予備緊張を高めて短縮性収縮で力を発揮し高く飛ぶことができます。

これと同じような現象が腹斜筋でも起こるのです。

このような一連の流れがあるのでコッキングでは腹斜筋の収縮増大が認められます。


④ アクセラレーション期



膝関節最大屈曲位からボールインパクトまでの相。

ここで重要なのが、

・軸足に重心を乗せて前足部に体重を乗せる
軸足の股関節は屈曲から伸展し、蹴り足の股関節は伸展から屈曲へ動き、左右の足で挟み込みのような動きをします。

軸足に対して身体重心を乗せるようなイメージです。

この時、体は骨盤→股関節→膝関節→足関節へ運動が連動し、力をボールへと伝えることができます。


⑤ インパクト期


足部がボールをインパクトする相。

ここで重要なのが、

・インパクト時の体幹前傾
この相では、下肢からの力をボールへ伝達するために、足関節固定、膝関節伸展、股関節屈曲、骨盤後傾が起こります。

先ほどの外部、内部モーメントが微妙な関節位置を保つことで、身体重心が軸足に近づき、前足部に体重をのせて力強いキックを行うことができます。

ここでよくあるエラー動作が、後方重心化です。

軸足の足部に対して身体重心が遠くなるので、膝伸展筋へのストレス増大、胸椎後弯の増大、蹴り足の股関節屈筋群の負荷増大など、

様々な不良動作へと繋がります。ジュニア期の場合、股関節前面の肉離れや下前腸骨棘剥離骨折などを引き起こす場合もあります。


⑥ フォロースルー期


インパクト後に蹴り足が地面に接地するまでの相。

この相は①~⑤のキック動作で生じた結果であり、①~⑤までが効率のいい動きでできていればこの相でもエラーがないことが多い。

逆にアクセラレーション期で軸足に重心を乗せて前足部に体重を乗せることができなければ後方重心になりキックしたボールは力強く飛ぶのではなく、高く弧を描くような弱いキックになります。


ケガを未然に防ぐことや再受傷を防ぐためにもキック動作を変えることは必要になりそうです。


参考文献

・青木・清水・鈴川:スポーツリハビリテーションの臨床

・江原:姿勢と運動の力学がやさしくわかる本

・坂本:スポーツにおける運動機能障害のリハビリテーションと予防ー体幹機能障害の観点からー

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