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アスリートが腸腰筋を鍛えるべき理由

腸腰筋と言えば何を思い浮かべますか?

真っ先に思い浮かぶのは、股関節屈曲筋ということだと思います。
腸腰筋は大腰筋と腸骨筋で構成される筋肉で、一般の方やスポーツ選手でも一度は名前を聞いたことはあると思います。

特に、高齢者では椅子に座った状態から足上げをする腸腰筋の運動が広く知られていると思います。転倒しないために腸腰筋を鍛えることが必要とも言われています。

スポーツの現場でも、腸腰筋は大事!ということが分かっていてもどのようにトレーニングすればいいのか、というのがいまいちわかっていないことも多いと思います。

そこで、腸腰筋の解剖~トレーニング方法について詳しく見ていきたいと思います。


・腸腰筋の解剖

☆大腰筋
起始:浅層 T12とL1~4の椎体側面と椎間円板の側面
   深層 L1~5の肋骨突起
停止:大腿骨の小転子
機能:股関節屈曲・外旋 片側収縮で側屈 両側収縮体幹屈曲
神経:大腿神経(L2~L4)

☆腸骨筋
起始:腸骨窩
停止、機能、神経は大腰筋と同じ


腸腰筋は脊椎から起始する大腰筋と腸骨窩から起始する腸骨筋で構成されていて、鼠径靱帯から線維が合流し大腿骨頭を覆って頚部を通り大腿骨の小転子に停止します。

大腰筋は筋束が椎体側面(浅層)と肋骨突起(深層)から起始することが知られています。どちらとも股関節屈曲筋であることに変わりはありませんが、脊柱への作用は違いがあります。

作用が違う理由は、腰椎の前後回転軸です。
椎体の前側から起始するのか後ろ側から起始するのかの違いですね。

赤丸:前後回転軸

椎体側面から起始する浅層は前後回転軸の前方を走行するため腰椎屈曲(腰椎前弯の減少)に作用し、肋骨突起から起始する深層は前後回転軸の後方を走行するため腰椎伸展(腰椎前弯)に作用します。

さらに、骨盤を固定した状態で胸郭に様々な方向への負荷をかけた際の大腰筋の活動を示した報告では、椎体側面(浅層)は右への側屈・屈曲で右の大腰筋が大きな活動を示し、肋骨突起(深層)は右への側屈・伸展で右の大腰筋が大きな活動を示しました。↓↓

Differential activity of regions of the psoas major and quadratus lumborum during submaximal isometric trunk efforts


この結果からも分かる通り脊柱への作用は筋束の走行により役割が変わることが分かると思います。


・腸腰筋の筋線維タイプ


ある研究でヒトとサルの大腰筋の筋線維のタイプを比較しました。↓↓

Composition of psoas major muscle fibers compared among humans, orangutans, and monkeys

その結果、ヒトの大腰筋はサルに比べてtypeⅠ線維(遅筋)の比率が高いことが分かりました。

TypeⅠ線維は遅筋線維とも言われ、持久的な能力に優れていて疲労しにくい特徴があります。ただ、“遅筋”というくらいなので収縮速度は遅い傾向にあります。

その為、腸腰筋は姿勢保持筋とも言われ、直立姿勢や歩行、走行において重要な役割を果たしています。特に、大腰筋は脊柱~大腿骨の小転子にかけて付着しているのでこの筋肉の萎縮は姿勢不良の原因へ繋がることがあります。


・ランニング中の腸腰筋の活動


ランニング中の腸腰筋の筋活動を調べた研究があります。
この研究では疾走中に腸腰筋がどのような活動をしているのかについてワイヤ電極を用いて調べました。↓↓

Intramuscular EMG from the hip flexor muscles during human locomotion

そして、この研究から分かったことは大腰筋・腸骨筋ともに股関節屈曲開始よりもかなり早い段階、つまり股関節が伸展している局面から活動を開始していることが分かりました。

さらに、大腰筋においては疾走中の体幹の安定にも関わっていることが考えられました。(脊椎から起始している為)

これらのことをまとめると腸腰筋は疾走中のエキセントリック局面(ミッドサポート~フォロースルー)で筋腱全長が引き延ばされた状態で活動していることが分かると思います。


腸腰筋を鍛える時は股関節屈曲でトレーニングすることが多かったと思いますが、こういった理由から腸腰筋はエキセントリックでも使えた方が競技力向上に繋がります。

・腸腰筋のトレーニングを考える


以上のことから腸腰筋の特徴は

・大腰筋の筋束が二つあり、股関節屈曲はどちらとも作用するが脊柱への作用は腰椎伸展と屈曲作用がある
・腸腰筋は遅筋線維であり、姿勢保持や歩行、走行において重要
・ランニング中はエキセントリック局面でも腸腰筋が活動する

つまり、アスリートが腸腰筋を鍛えることで、姿勢が改善もしくは良くなり、競技中のエキセントリック局面(サッカー・バレーであればテイクバック、スプリント選手であればフォロースルー、など)で力発揮がスムーズに行える、というアスリートにとって腸腰筋を鍛えることはメリットだらけなのです。

では、ここからは具体的なメニューを見ていきましょう!

・腸腰筋エキセントリック

腸腰筋をエキセントリック~コンセントリックで効かせます。

膝・股関節ともに90度屈曲させ、股関節を伸展していきます。この時、腰椎の前弯が入らないようにおへその下に手を入れて腰椎の前弯が入りすぎてないかチェックします。


・ウォールドリル

重力下で腸腰筋のエキセントリック~コンセントリックトレーニング。初めは股関節の屈伸を丁寧に行って、慣れてきたら競技動作に近づけるために素早く行います。

壁に手をつけて体幹をやや傾斜させた状態からスタートします。股関節を屈曲するとき骨盤が後傾しないように注意し、股関節を伸展させるとき腰椎の前弯が入りすぎないように注意して行います。

また、腸腰筋が使えてないと大腿直筋や大腿筋膜張筋などのアウターを使用することになるので腸腰筋に意識を向けて股関節を動かしていきます。


・ランジサイドベント

先ほども紹介したように大腰筋は側屈側への筋活動が高いことが知られています。さらに、筋束によって脊柱の屈曲、伸展でも筋活動が高くなります。

これらの機能的な面から、ランジ姿勢で体幹の側屈を行います。股関節の伸展側の腸腰筋が伸長位になるためこれに側屈を加えます。

例えば、右足前、左足後ろの場合、左の腸腰筋は伸長位なので右側屈を加えます。こうすることで左の腸腰筋をエキセントリックで効かせることができます。


<まとめ>
・大腰筋は筋束が2つ存在し、それぞれ脊柱への役割が異なる
・腸腰筋はエキセントリックでも活動している
・腸腰筋は遅筋の多い姿勢保持筋
・アスリートは腸腰筋を鍛えるメリットがたくさん


参考文献

・大山:アスリートのための解剖学 トレーニングの効果を最大化する身体の科学

・プロメテウス解剖学

・visible body

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