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アカウンティング(企業会計)の基本㉒:「決算書×ビジネスモデル大全」を読んで、大切そうなことをまとめてみた

決算書×ビジネスモデル大全(矢部謙介 著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。

今回の本の著者は、「決算書の比較図鑑(メモはこちら)」と同じです。
「決算書の比較図鑑」同様、本書には各社の決算書がわかりやすく纏まっていて、短時間で数十社の決算書を味わうことができます

自分のメモをみて、少しでも本の内容が気になった方は、ご自身で読んでみてもらえると嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。


東京エレクトロン

東京エレクトロンは、アプライドマテリアルズ(アメリカ)、ASML(オランダ)、ラムリサーチ(アメリカ)に次ぐ、世界第四の半導体装置メーカーとして知られている(2020年、米VLSIリサーチ調べ)。

以下、東京エレクトロンの決算書(2021年3月期)から読み取れる特徴をみてみる。

流動資産が大きい

B/S左側をみると、最大の項目は流動資産であり、1兆160億円。

このうち、棚卸資産が4,150億円計上されており、これは売上高(1兆3,990億円)の108日分に相当する。棚卸資産が大きくなっているのは「収益計上タイミングを据え付け完了後とする」という設置完了基準を採用していることが理由であると推察される。

また、流動資産の中の売掛金及び受取手形は1,920億円(売上高の50日分)であり、製造業全体の平均(70日前後)と比較すると、やや短くなっている。

無借金経営

B/S右側をみると、有利子負債(借入金・社債など)は計上されておらず、無借金経営をしている。純資産は1兆250億円で、自己資本率は72%ある。

売上高営業利益率が高い

P/Lをみると、営業利益は3,210億円(売上高:1兆3,990億円)であり、売上高営業利益率は23%となる。B to Bメーカーとしては販管費がやや高いが(2,440億円)、これは研究開発費が1,370億円(売上高の10%)計上されているためである。

2000-2021に、2度の営業赤字を経験

東京エレクトロンは、2002年3月期(ITバブル崩壊の時期)、2010年3月期(2008年リーマンショックの影響を受けた時期)に、営業赤字を経験している。

いずれも、半導体需要が落ち込む中で、半導体の供給能力が過剰になった時期である。半導体製造装置メーカーの売上高は、半導体メーカーの設備投資と連動するため、半導体市場が悪化すると大きな業績悪化に直結してしまうという、構造的な問題を抱えていると考えられる。

フィールドソリューション事業の成長

上記の構造的な問題への対応として、東京エレクトロンが注力しているのが「フィールドソリューション事業の強化」である。

この事業は、販売した装置の改造やパーツ交換のサービスを行う、アフターマーケットビジネスである。現状、フィールドソリューション事業の売上高は堅調に増加しており、利益率が高い(新規装置に比べ、研究開発投資が少なくて済むため)。

日鉄ソリューションズとオービック

日鉄ソリューションズは、システムインテグレータ(SIer)であり、オービックは中小企業向けのERPパッケージ(統合基幹業務システム)を提供するソフトウェア会社である。

以下、両社の決算書(2021年3月期)を比較し、そこから読み取れる特徴をみてみる。

両社とも、流動資産が大きい

B/S左側をみると、両社とも、流動資産が最も大きい。
流動資産の内訳としては、日鉄ソリューションズは預け金(余剰資産の運用に関わる資産)が最も大きく、オービックは現預金が最も大きい。

両社とも、実質無借金経営

B/S右側をみると、両社とも、実質無借金経営である。
日鉄ソリューションズの自己資本比率は68%(有利子負債なし)、オービックの自己資本比率は89%(有利子負債なし)である。

オービックの売上高営業利益率が、極めて高い

P/Lをみると、日鉄ソリューションズは売上高:2,520億円、売上原価:2,000億円、販管費:270億円、営業利益:250億円(売上高営業利益率:10%)である。

一方、オービックは売上高:840億円、売上原価:230億円、販管費:130億円、営業利益:480億円(売上高営業利益率:57%)であり、収益性が極めて高い。

両社の差は、売上原価に隠されている

まず、日鉄ソリューションズの売上原価は、その50%を外注費が占めている。
IT業界では、大手SIerが顧客からの元請けとなって、それを下請け、孫請けに割り振るという構造となっている。そのため、大手SIerである日鉄ソリューションズは、外注費の割合が高くなる。

次にオービックの売上原価をみてみると、外注費の割合は、わずか17%である。
これは、オービックが自前主義にこだわってシステム開発を内製化しているためである。しかしながら、社内の労務費も、金額としてはそれほどかかっていない。

その理由は「ERPパッケージのカスタマイズを、できるだけ減らしているため」である。そのため、ITベンダーにとって、従来は変動費的に増加するカスタマイズコストがかからず、コスト構造は固定費型となり、高い売上高営業利益率を実現しているのである。

中外製薬とエーザイ

中外製薬エーザイは、新薬主体の医薬品メーカーである。

以下、両社の決算書(2021年3月期)を比較し、そこから読み取れる特徴をみてみる。

両社とも、自己資本比率が高い

B/S右側をみると、中外製薬の自己資本比率は79%、エーザイの自己資本比率は67%であり、高い水準にある。

中外製薬の売上高営業利益率が、極めて高い

エーザイの売上高営業利益率が8%であるのに対して、中外製薬の売上高営業利益率は38%と、極めて高い。中外製薬は、ロシュ(海外製薬メーカー)との資本提携により、下記に成功することで、この営業利益率を実現している。

  1. 研究開発の基礎研究(有効成分探索など)への集中
    通常、製薬会社の研究開発には基礎研究のほか、大規模な治験や当局からの承認などのフェーズが必要となる。一方、中外製薬は、海外展開に関しては治験〜販売をロシュに任せることができるため、自社の研究開発は基礎研究に集中することができ、結果として、研究開発費を抑制できている。
    ※ エーザイの研究開発費:1,500億円、中外製薬の研究開発費:1,180億円

  2. ロシュを通じた海外での販売
    中外製薬は、ロシュを通じた海外販売(ロイヤリティ収入)には販管費がかからない形となっている。さらに、海外での売上比率が高まってきているため、結果として、販管費を抑制できている。

日立製作所

日立製作所は、日立グループの中核企業であり、さまざまな分野で製品・サービスを提供する総合電機企業である。

以下、日立製作所の決算書(2021年3月期)から読み取れる特徴をみてみる。

無形固定資産が大きい

B/S左側をみると、無形固定資産が大きい(2兆1,260億円)。
これは、近年進めてきたM&Aの影響であり、多額ののれん等が計上されている。
なお、最も大きいのは流動資産(5兆9,430億円)であるが、その内訳をみると、事業活動上必要な資産であることがわかる。

有利子負債が大きい

B/S右側をみると、有利子負債が2兆円以上計上されており、自己資本比率は38%である。これは、前述のM&Aに必要な資金を、有利子負債も活用して調達してきたためである。

また、日立製作所はグループ事業再編として、日立化成、日立金属などを売却してきた。売却によって得た資金は、上述の有利子負債を返済する原資にあてられたと推察される。

少し話は逸れるが、日立製作所は日立建機を「一部売却」に留めた。
これは、日立製作所が手がける中核事業「Lumada(ルマーダ:日立製作所の持つデジタル技術を活用し、顧客の持つデータから新たな知見を引き出すことでDXを加速させるサービスの総称)」と、日立建機の建設事業が、高い親和性を有していると判断されたためである。

売上高営業利益率は6%

P/Lをみると、売上高:8兆7,290億円、営業利益:4,950億円(売上高営業利益率6%)である。リーマンショック後の2009年3月期に、過去最大の最終赤字を記録してから、利益を稼げる体質へと事業構造改革を進めてきた結果が表れている。

ルネサス エレクトロニクス

ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)は、ルネサステクノロジ(2003年に日立製作所と三菱電機の半導体事業を分社化・統合して設立)と、NECエレクトロニクス(NECの半導体部門)が2010年に合併することで生まれた、日本の半導体メーカーである。

以下、ルネサスエレクトロニクスの決算書(2020年12月期)から読み取れる特徴をみてみる。

無形固定資産が大きい

B/S左側をみると、無形固定資産(9,550億円)が大きな割合を占めている。
この無形固定資産の正体は、主にインターシル(アメリカ)とIDT(アメリカ)を買収したことによって生じた「のれん」と「無形資産」である。なお、ルネサスはIFRSを採用しているため、のれんの償却はしないが、減損リスクがある。

また、無形固定資産に対して有形固定資産(1,870億円)は小さい。
これは、ルネサスが自社工場での生産をできるだけ抑えて外部への製造委託を活用する、ファブライト経営を推進してきたためである。

売上高営業利益率10%

売上収益:7,160億円に対して、売上原価:3,800億円、販管費:2,660億円であり、営業利益は690億円(売上高営業利益率10%)計上されている。

実は、過去には赤字体質であったルネサスだが、M&Aをはじめとした事業構造改革により「稼げる会社」に変貌している。


以上です。

※ 上記メモ以外にも、書籍には数十社の決算書が紹介されておりますので、興味のある方は読んでみてもらえると嬉しいです。

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