見出し画像

枕詞は「ケロケロ」

知人、友人のことを思い出す時、一緒に過ごした時間の中で聞いた、その人らしいセリフや会話のシーンが頭に浮かぶ。
なかでも、昔いた会社の先輩、ミヅキさんのエピソードは、何度思い返しても飽きることはない。
そもそもミヅキさんは会社で電話を取った時、「前田の前はお前の前でよろしかったでしょうか?」と聞いて周囲を唖然とさせる強者だ。
彼女のおかしなセリフエピソードは枚挙にいとまがない。
だけど、私がしみじみと好きなのは「けろけろ」だ。
自宅に招いて飲んでいた時のこと。
おしゃべり好きの彼女は、ひとしきりパリでニートをしていた時の話をした後、息継ぎもせずに「けろけろ」と言ったのだ。

びっくりした。

ケロケロなんてフランス語、あるわけないよね。
いや、Quéllo Quéllo、みたいなのがあるのかしら……
ドキドキしながら「なんですか、今の?」と尋ねると、彼女は「リズムが余ったから」とミュージシャンのようなセリフを放った。

リズムが余って「けろけろ」。
「字、足らず」みたいなこと?
他になかったのか。

だが、日本語は短歌や俳句が発展したように、語呂やリズムを大事にする言語。
リズムをよくするために無意味な言葉を付け加えるのも、特別なことではない。
そう、「枕詞」だ。
「ぬばたまの」とか、「たらちねの」とかのあれである。
ちゃんと意味や理由はあるのだと思うのだけど、学校で習ったことは9割忘れた大人には単にリズム合わせのために入れた言葉のように見える。
特に「ぬばたまの」なんて全然いみがわからない。
ミヅキさんの「けろけろ」は、あれは文末につけたものの、リズムを合わせるという点では枕詞のようなものだったのかもしれない。
けろけろ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?