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12 ようこそ、極彩色の世界へ。

試験の次の日も、またその次の日も、わたしはふいに叫び出しそうになるココロに蓋をして、何事もなかったかのように受験生の日常を送りました。

高3の11月にもなると、すでに高校に行っても授業らしい授業はなく、チャイムが鳴ろうがみんなひたすら自分の受験科目を勉強し、先生もそれを黙認していました。たまに飽きたら、友達とくだらない話で息抜きして、また机に向かう。ただ一点でも多く点を取る、それだけのために。

  味のしないガムみたいだな。

極彩色に塗りたくられたあの1日を境に、わたしが毎日過ごしていたはずの日常は、半透明のフィルターをかけたようにひどく色褪せて見えました。教室という舞台で、まるで下手な役者たちの退屈な芝居を冷ややかに見ているような、そんな不思議な感覚。

美大を受けたことは、何人かの友だちには伝えていたので「受験イチバン乗り、どうだったー?」なんて興味本位で話しかけられたりもしましたが「うん、なんか来てる人が凄かった。カルチャーショックだったわ。」と笑って話すくらいに留めていました。言葉にすればするほど、「本当」が溢れて止まらなくなってしまいそうだったから。

試験の結果が出たのは2週間後くらいだったような気がします。早く来てほしい、このまま来ないでほしい。考えはじめたら、もとに戻れない気がして、なるべく考えないようにしていました。

記念受験だもん、別に結果なんてどうでもいいじゃん?このまま合格圏内の志望校を受験して、どっかひっかかって、いつか「あれは、いい思い出になった」って笑うんだ。

記念とはいえ、はじめに落ちたのは幸先悪かったかなぁ。でもこれで悔いもなく、次に進めるよ。

落ちたときの言い訳は、腐るほど考えていました。 でも、もし、もし万が一、受かってたら…?

   わたしは、どうしたい?

とうとう結果の入った封筒が家に届きました。深呼吸して封を開け、たくさんの数字の中から受験番号を探します。

「あった」

まさか、まさかの展開に、口から心臓が飛び出しそうになりました。何度も何度も本当かどうか確認しながら、涙がこぼれました。

整列した数字の中に、前の席に座っていたパステル職人のスナフキン、その前の席のちぎり絵少女の番号はありません。後ろの席に座っていたメガネっ子の番号も。

  どうしよ、本当に受かっちゃった。

認められたことが途方もなくうれしいくせに、なんだかやるせなくて申し訳なくて、親にも先生にも友達にもなんて言えばいいのか、そもそもわたしがどうしたいのかすらわからず、その日はひとり長い夜を過ごしました。

  とてもとても長い夜でした。

↓ ゆるゆる続きます。


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