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5冊読了(11/12〜11/26)

1『まいにち見るのに意外と知らない IT企業が儲かるしくみ』藤原実

2『空気を読む脳』中野信子

3『若きウェルテルの悩み』ゲーテ

4『誰かが足りない』宮下奈都

5『ナイン・ストーリーズ』サリンジャー


たまに友人などからお薦めの小説を教えてほしいと言われたりするのですが、その時に考慮すべきことっていうのは、その相手がどういう小説が好みであるかの一択だけだと思うんですよね。

そんなの当たり前じゃんって思うかもしれませんが、いやいや、とかく人というのは、相手に与える自分の推薦した本の影響を思うあまり、相手の好み以外にも、相手の仕事やら家庭環境やら恋愛模様やら、つまりその相手の「現在の状況」を加味して、きっとこれが今の彼(彼女)に合うに違いない、なんて余計なことを考えて薦める作品を選んでしまったりするのです。

例えば片思いの恋愛の真っ只中である相手に恋愛小説を薦めるとか、何かの職業に就いている人にその業界を舞台にした小説を薦めるとかということです。
別にそれが悪いことではないですが、そういった、相手の「現在の状況」が必ずしも相手の薦めてほしい小説にそぐうものではないと思うのです。

自分が過去に読んだ本でお気に入りのものを思い浮かべればわかりますが、その本を読んだ当時の自分の状況が、その小説の内容とリンクする部分があったから気に入ったわけではないのではないでしょうか。
むしろ自分とは関係ない世界であったり、知らない業界のことであったり、共感しづらい人間の心理が描いてあったからこそ、その作品を好きになったという場合も多分にあると思います。

僕はジャンルでいえば殺人事件が起こるようなミステリー小説が好きですが、実際にそんな事件や警察や探偵やらに関わったことなど一度もありません。(職質を受けたことぐらいはありますが。)

だからよく本屋さんで「学生さんにおすすめの青春小説フェア」なんて売り出し方をしていますが、全ての学生が青春小説を読みたいと思っているわけでは全然ないのにな、と思ったりします。
(書店や出版社側の販売促進の戦略なので、別に全然文句があるわけではないんですが。)(あと別に、青春に年齢は関係ねーぜ、みたいなエモーショナルな主張をしたいわけでもありませんが。)

恋愛中の人に恋愛小説を薦めるとか、学生に学園ものを薦めるとか、子育てママに子育てママが主人公の小説を薦めるとか、なんとなく当たり前にそうしてしまうものなんですよね。
でもそれは言ってみれば、相手が本当に気に入ると思う作品を選ぶのを諦めて、表面的な部分だけを見て選考してしまっているに過ぎないと思うのです。

それならいっそ、何も関係ないような別世界のお話でも、とにかくその人が面白いと思えるような作品、つまりその人がどういう小説が好みなのかだけを考慮して作品を選ぶべきだと思うのです。

だからもし友人などからお薦めの小説を聞かれたら、その人の好きな本を聞き出すのが良いと思います。
何冊かあげてもらえれば好みの傾向がわかってくるでしょう。
もし相手があまり小説を読んだことがない人である場合には、好きなドラマや映画を聞くのでも良いかもしれません。
ストーリーのジャンルの好みだけでも知れたら参考になるでしょう。

単純に「どんな小説が良い?」と聞き返しても良いと思います。
それを聞かずに作品を薦めて相手が気に入れば格好がつくかも知れませんが、一冊の本を読むことは人によってはなかなかの労力を要することです。
相手にそれをさせるのに、自分が格好つけるためにそんな博打をするのは賢明とはいえないでしょう。

薦める側としては、どうせなら相手に作品を気に入ってもらって「今まで読んだ中で一番面白かった」とか「あれを読んで人生が変わった」ぐらいに感じてもらいたいと思ってしまうものです。
一冊の本に、それくらい大きな影響を与える力があることは、本好きの人なら認識しているでしょう。
(そういう思いが強いからこそ、お薦めを尋ねられたら真剣に色々考えてしまって、つい相手の「現在の状況」まで加味してしまうのですが。)

まあ、別に僕もそんなに相手にピッタリの作品を薦めるのは得意ではありません。
好みの傾向って人それぞれですからね。
AとBの2冊があって、自分は両方同じくらい好きで、友人はAだけ読んでてそれを絶賛してて、それならBも好きなはずだ、と思って薦めても、全然響かなかったりしますよね。
じゃあ二人でAについて話してたあの時間なんだったんだよ、とか思いますよね。
同じ感じで好きだったわけじゃなかったのかよ、とか思っちゃいますよね。
思わないか。

だからまあ、「絶対面白いよ」「絶対気にいるよ」みたいな薦め方はしなくなりましたね。
「自分にはこれがとても面白かった」とか「もしかしたらあなたも同じように気にいるかもね」ぐらいのフレーズに留めるのが良いんでしょうね。
元も子もない結論になりましたね。


さて、
1はビジネス書ですね。
IT企業が儲かる仕組みが解説されている本です。
わかりやすいタイトルです。

品物を売ることで儲ける企業はわかりやすいですが、確かにIT企業ってそれ以外にどうやって儲けを出してるのかよくわからないんですよね。
なのでタイトルに興味をひかれて読みました。

広告費がどうとかアフィリエイトがどうとか株価がどうとか、GoogleがどうとかAmazonがどうとか、多分とても丁寧に説明してくれていてなんとなくわかるんですが、うーん、そういわれても実態がよく掴めないなぁと感じました。

なんか歴史の授業と同じような感覚です。
江戸時代の政策の名前や意味を教えられて言葉で理解はできても、実際それが施行されている世の中の人々の生活や営みってよくわからないじゃないですか。
実態が掴めないんですよねぇ。
だからあまり興味も湧かなくて。

僕が全然詳しくないからですし、たぶんこの本に書いてあること以上の説明はしようがないんでしょうね。
「そもそもITって何?」とか、「っていうか会社って何?」っていうところぐらいから勉強しないと全部はよくわかんないですね僕には。
「わかるって何?」って感じもしますしね。


2は中野信子さんの本です。
脳科学者の方ですね。
今年はこの方の本を一番多く読みました。

仕事や恋愛や教育などは、人間が社会生活を営んでいく中で密接に関わり合うものです。
それらの中には個人の悩みの種となるような要素も多分に含まれていて、それをそれぞれ脳科学の観点から解説して、人付き合いのコツや悩みの解消法を教えてくれる一冊です。

理不尽なことや不条理なことが多い世の中で、でもそれは人間の、或いは日本人の脳がこうなっているんだから仕方がない、とか、このとき脳ではこういうことが起きているからこうするべきだ、というようなことを教えてくれます。

オカルトや超自然的なものは基本的には信じないタイプの僕にとって、社会生活の中での思考の偏りや集団心理などを科学的に解説してくれるのは、とても面白いし腑に落ちるのです。

中野信子さんの著書を初めて読む人にお薦めするには良い一冊かもと思いました。


4は、ゲーテです。
海外の古典文学も読んでおかなくちゃ、という感じでかなり以前に買って読んでなかったの、なんとなく今のタイミングで読んでみました。

なんか、何一つ面白くなかったですね。
別に順位はつけないですが今年読んだ本の中で最下位ではないでしょうか。
なにこれ、いつ面白くなるの、と思いながら我慢して読んでたらつまらないまま終わってしまいました。

ストーリーとしての面白さを期待して読んだわけではないですが、それにしてもこんなにもどこにも面白さが無い小説は初めてかもしれません。
こういうのがあるから海外の古典とかは怖いんですよね。
まだページ数が少ない作品なので良かったですけど。

まず単純に読みにくくて嫌な文章でした。
ほとんど全部が手紙の文体なんですよね。
主人公のウェルテルが友人に向けた手紙の文章なのです。
好きな女性ができて、その想いを友人に綴っているのですが、もうそれが読みにくいし大袈裟だし意味不明だしで嫌になりました。

たぶん当時としては新しい技法で書かれたものなんでしょうし、共感する人も多かったのかも知れませんが、僕には何も伝わってこなかったですね。
ウェルテル効果という言葉も知っていますが、まあある意味そういう曰く付きの作品が現代では読みづらくてつまらない作品でよかったですねぇ、って感じです。

もちろんこれは僕個人の感想ですので、この作品を絶賛する人もいらっしゃるんでしょうけど。
でも僕はこれを他人に薦める気にはならないですね。
読もうとしている人がいたら止めるぐらいかもしれません。
ゲーテの他の本も、今後も読まないんじゃないかと思います。


4は宮下奈都さんの連作短編小説です。
『羊と鋼の森』で本屋大賞を受賞された方です。
僕はそれはまだ読んでいないんですが『スコーレNo.4』というデビュー作だけ読んでいて、とても好感を持っている作家さんです。
『誰かが足りない』もその年の本屋大賞ノミネートはされていますね。

タイトルや表紙が目を引く作品で発売当初から気になっていました。
だからわりと期待して読んだのですが、これも正直あんまりでした。
あれ? という感じでしたね。

6つのお話が収録されているのですが、それぞれ「予約1」から「予約6」というタイトルが付けられています。
同日の同時刻に、予約の取づらい店として評判の「ハライ」というレストランに集まる人たちの、そこに到るまでのストーリーです。

現在の生活に不満や悩みを抱えている老若男女の主人公たちはそれぞれ、その空虚感を埋める存在の「誰か」を必要としていました。
そんな「誰か」とどう出会い、どうやってそこに向かうのかが描かれます。

それぞれ短い話の中で、優しい描写でささやかな救いのあるストーリーが展開されますが、うーん、どうもそこまでのっていけない感じでした。
なんとなく話の構成の展開を読んだりしちゃいますが、それが期待通りにはいかないし、最後まで読んで、あーこの感じでこのまま終わっちゃうのかーという印象でした。

『スコーレNo.4』が良かったので僕としてはそちらがお薦めです。
たぶん『羊と鋼の森』も面白いです。


5はサリンジャーの自選短編集です。
9つの物語が収録されています。
『ライ麦畑でつかまえて』が有名な作家さんですね。
初めて読みました。
なんとなく僕の周囲の人から評判の良い作品だと認識していました。

評判通りとても面白かったです。
これだから海外近代文学は侮れないですね。
素晴らしい短編集でした。

どの話も単純にストーリーが面白いです。
変な場面から変な設定で始まるのが面白いです。
それでいて、読んでいて心地よい構成や文体でした。

『愛らしき口もと目は緑』という話はその中でも異質で印象に残りました。
ミステリーっぽい展開で、なるほど真相はこうか、とわかった時にそれが挫かれるすごい終わり方をします。
読者の心理を突いてその裏をかく作者の笑みが思い浮かんで面白かったです。

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